- 2018-8-21
- Wines, フランス France
オークションで試飲できるのは、この日のためだけの特別なロット。
近隣のワイナリーも訪問して、普段の姿を改めて確認してみるのもいい。
フランシス・フォード・コッポラ・ワイナリー Francis Ford Coppola Winery
映画監督のフランシス ・ フォード ・ コッポラが所有し自身の名を冠するだけに、ワイナリーは映画ギャラリーからレストラン、スイミングプールまで備えた、まるでワインのテーマパーク。ワイン通でなくても、子供連れでも、あらゆる客層を楽しませるエンターテインメントとホスピタリティがある。
こうした華やかな部分に目を奪われて見落としてしまいがちだが、あたりを注意深く見渡すと、サステイナブル・ファーミングの実践現場の真ん中に身を置いていることに気づく。自然の生態系を利用して害虫・害獣駆除をするための鳥の巣箱、ブドウの生育に必要な窒素や水分を確保するカバークロップ。手入れなしに放置されているだけに見える小川の周りも自生植物に覆われたナチュラル・ハビタで、魚や野生生物の生息地を復元するフィッシュ・フレンドリー・ファーミングの認証を得た場所であることを示すものだ。
働く人の健康や自然環境に対する意識が高かったコッポラは、自社の畑や所有地だけでなく、地域社会の環境やコミュニティへの貢献を率先して行ってきた。この活動を認められ、昨年はカリフォルニア・グリーン・メダルのリーダーシップ部門賞を受賞している。
ロバート・モンダヴィ、ベリンジャー、シミなどカリフォルニアの著名ワイナリーでキャリアを積んできたベテランワインメーカーのサンディ・ワルハイムは、コッポラのサステイナブルな取り組みについてこう語る。
「ソノマカウンティが2019年までにサステイナブル認証取得100%の目標を掲げているところ、我々は2018年ヴィンテージから全て認証のある農家からブドウを買うことを決めた。そのために2年間、認証取得に取り組む農家にはボーナスを与える形で支援をして来た。ワイナリー内では、ブドウの扱いだけでなく、リサイクル可能なナチュラルコルクの使用、再生素材からできたワインボトルやカートンの使用、梱包材のリユースによるごみの削減など、資材にも配慮している。再生水、地熱・風力発電など再生可能電力利用で資源やエネルギーの節約も。プレミアムワインの熟成に欠かせない樽は、PEFC※認証取得のものを使用。目下、人の健康面の配慮における課題は清澄剤だ。卵白、魚の浮袋、ゼラチンなどの伝統的な清澄剤はアレルギーの原因となりうる動物性たんぱく質を含む。リスクフリーで優れた機能の代替を探しているがなかなか見つからず、まずは清澄の必要のないタンニンマネジメントを心掛けている」。
そんなサンディが監修したフラッグシップワイン、アルキメデスは、ダークフルーツの豊かな果実味と緻密なタンニンとが溶け合ったリッチな味わいだった。
※ PEFC:本部をスイス・ジュネーブに置く世界最大の森林認証制度
輸入元:ワイン・イン・スタイル株式会社
レイミー・ワイン・セラーズ Ramey Wine Cellars
シャルドネの名手としてカリフォルニアワインの愛好家からも造り手からも厚い信頼を寄せられるデイヴィッド・レイミー。オークションに出品され高値で落札されたのは、単一畑・単一クローンのシラーだったが、生産量の6割を占めるのはシャルドネで、そのラインナップも多彩だ。
ワイナリーを訪ねると、この日CEOに昇格したばかりというデイヴィッド・フィッシャーに迎え入れられ、6つのシャルドネの比較試飲が始まった。
ロシアン・リヴァー・ヴァレー2015はダットン・ランチ47%、ソノマ・コースト2014はマルティネリ・チャールズ・ランチ69%、プラット・ヴィンヤード31%と、アペレーションワインとはいえ著名な単一畑のブドウが使われている。
ロキオリ・ヴィンヤード2015はこのヴィンテージが初リリースでクローン4を使用。フルーティでエキゾチック。
ウーズリー・ロード・ヴィンヤード2014、リッチー・ヴィンヤード2014はいずれもオールド・ウェンテ・クローン。小房小粒ゆえ収量は少なく、ナチュラルな酸の高さ、リンゴ・洋ナシ・柑橘・青りんごのヒント。トロピカルフルーツの要素がないからヨーロピアンな味わいになる。1972年植栽のリッチーは、ロシアン・リヴァー・ヴァレーでもバチガルピと並ぶ最古の畑のひとつ。2007年ヴィンテージは、14年と比較するとバタリーな樽のニュアンスが強い。
新樽比率は2005年から徐々に減らして来たが、デイヴィッド・レイミーが市場の動きを読んでマイナーチェンジを意図した結果ではない。単に自分の飲みたいワインを造っているうちに、たまたま時代が追随して来て、先見の明があると言われることが、ままあるそうだ。新樽礼賛全盛期の時代に控えめな樽使いのワインは評論家の評価も低く売れ行きも今ひとつだったが、意に介さなかったという。
コルクは2013年からディアムに。デイヴィッドはサイエンティストだから、自身でサンプリングしてSO2の値を分析し、優位性を確認した上で導入した。
デイヴィッドには時代だけでなく、良いブドウも付いてくる。カーネロスのラリー・ハイドの畑のブドウは、今でこそオベール・ド・ヴィレーヌとのジョイントでグラン・クリュ級の評価が定着したが、20年ちょっと前はマム・ナパのスパークリング原料だった。最良の区画はマム用に確保されていたが、マムの栽培責任者は多忙なため区画の周辺部分しかチェックする暇がないだろうと踏んだラリーが、真ん中のブドウをデイヴィッドに分けた。手塩にかけて育てた子供を嫁がせる相手を選びたい親みたいな気持ちだろうか。のどかな逸話だ。
現在、ヒールズバーグ市街からそう遠くない場所にコンクリート建築のワイナリーがあるが、引っ越しを計画中。ロシアン・リヴァーの右岸、かつてホップのキルンがあったウェストサイド・ファームというブドウ畑付きの土地を2012年に購入した。牧歌的で美しい風景の場所だ。一旦は建設許可が下りたものの、今以上にワイナリーが増えると生活を乱されると案ずる地域住民が異議を申し立て、彼らとの話し合いが昨年秋の森林火災の影響で頓挫。まだ着工に漕ぎつけていないが、完成後にここでビジターやプライベート客をもてなすのが、CEOになったばかりのフィッシャーが叶えたい夢のひとつでもあると言う。竣工を楽しみにしよう。
輸入元:布袋ワインズ株式会社
デュモル DuMOL
ブドウ栽培及び醸造責任者で共同経営者であるアンディ・スミスはスコットランド出身。英国に先駆けてボルドーワインをボトリングしたワイン消費の歴史ある母国では、ボルドー、ブルゴーニュ、ドイツ産のワインに親しんだ。が、ヨーロッパは家族経営のワイナリーが多く参入しにくいし言葉の壁もあることから、ニューワールドを選んだ。冷涼気候のワインづくりに興味があったからニュージーランドのリンカーン大学で醸造学
を修め、98年にリトライ、99年にポール・ホブスに入社。収穫期直前に初代ワインメーカーを亡くしたデュモルが、ポール・ホブスに助けを求めた時、腕を振るったのがアンディだった。
デュモルの自社畑はグリーン・ヴァレーに4つの計12ha、ロシアン・リヴァー・ヴァレーに2つの計9haあるが、その他多くの著名な畑からのブドウを使っており、長い付き合いの下、栽培方法も指定している。基本的に殺虫剤、除草剤不使用で、コンポストを使用し、ケミカルな施肥は行わない。3つの自社畑と海から6kmの位置にあるジョイロード・ヴィンヤードは北カリフォルニア随一の密植度を誇り、カリフォルニア平均2500本/haのところ9000本/ha。ブルゴーニュのグラン・クリュを鑑とした結果が、ワインのフレーバーの複雑さとなって表れる。
醸造においては、培養酵母も清澄剤もフィルターも不使用。白は樽発酵・樽熟成、赤はタンク発酵・樽熟成。アンディは、自身のワインは、素材を生かした日本料理に例えられると言う。
ミニマルでありながら素晴らしい出来栄えを目指すから。ピュアでニュアンスのあるワインが信条だ。「15年は自分の好きなヴィンテージで、酸味が豊かでピュア。殊にシャルドネにおいては顕著で日本食に合う」と、アンディに勧められたロシアン・リヴァー・ヴァレー・シャルドネ2015は、ダットン・ランチ77%。レモ
ンの果皮のオイリーさを伴う柑橘系のフレッシュネスと、飲み進むほどに増してくる深み。確かに軽く炙った白身魚や鶏胸肉などと合いそうだ。
輸入元:株式会社JALUX
(Saori Kondo)
WANDS2018年7&8月号は「米国西海岸のワイン」「ボルドー・プリムール」「夏のスピリッツ」特集です。
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