様々なシナリオで、多彩なニュアンスを秘めた ボルドー・プリムール2017年

恒例のボルドー・プリムールの試飲週間が今年も4月初旬に開催され、例年同様、世界各国から大勢のバイヤーやジャーナリストらが集まった。ユニオン・デ・グラン・クリュ(UGCB)の発表によると、中国、英国、スイス、ドイツ、米国をはじめ、60か国から約5000人の登録があり、引き続き注目度の高さが窺われる。

 

まず17年の象徴的なエピソードは4月末の霜害だ。ボルドー全体の収穫量こそ減少したが、適確な采配で光り輝くクオリティに恵まれたシャトーも存在する。容易にいかない中でも真価を発揮できる底力を目の当たりにした印象だ。また15年や16年は最高峰と評されながらも価格の上昇が抑えられ、数年前までのプリムールの高騰合戦はひとまず沈静化している。適正価格に基軸が戻りつつある中で、17年の価格は早いタイミングで出始めた。16年比で10~20%減が主流となっているが、15年比での価格設定はシャトーによって違いがあるようだ。また17年の品質をどう表現するかは評論家の腕次第と言われるほど、同じアペラシオンでも、シャトーや畑によって結果に違いが表れている。凄腕評論家たちも頭を抱える悩ましいヴィンテージとなった。

 

ユニオン・デ・グラン・クリュのプレス向けの試飲会は、恒例のボルドー大学教授陣によるヴィンテージ解説からスタートした。故ドゥニ・デュブルデュー教授を後継したアクセル・マルシャル教授が冒頭で「一概には言いにくいヴィンテージだ」として、まずは17年を特徴づける一大事であった4月末の霜害に言及した。

冬から4月初旬までは例年より高温で、3月半ばに芽吹きが開始するほどだったが、4月半ばに気温は急降下し、4月20日と21日、27日と28日に歴史的な霜害を被った。ペサックでは氷点下2.6℃、アントル・ドゥー・メールでは氷点下5℃になったほどだ。これは1991年を彷彿させる痛手となり、ボルドー全体で約40%の収穫激減が決定づけられてしまった。また広範囲にわたっており、特に右岸のサンテミリオンやポムロルとペサックやバルザック、またメドックの中ではムーリやマルゴーに被害が及んだ。そしてその被害状況は、同じアペラシオンでも大差がある。ほぼ全ての収穫を失ったシャトーから、まったく被害にあわなかったシャトーまで、「一概には言えない」という多様な状況を生む一因となった。

 

ところが4月末の難を切り抜けた後、5月は気温が上昇したおかげで、霜のダメージによるブドウの生育サイクルの回復は通常より早かったようだ。霜害に合わなかった畑のコンディションは理想的に進み、開花は5月30日前後の数日間と、過去30年間で最も早いタイミングで短期間に素早く訪れた。そして17年のもう一つの大きな特徴は、夏の干ばつだ。6月は乾燥して暑く、時折突発的な雷雨に見舞われたが、逆にそのおかげで行き過ぎた水不足にはならずに救われたという。7月8月の気温はさほど上がらず秋のような涼しさだったが、降雨がなくとても乾燥した気候となり、色付き期は7月30日前後に訪れる早さだった。全体的に早熟な傾向で進み、白ワイン用ブドウの収穫は、8月半ばに開始するなど、シャトーによってはその歴史上最も早いタイミングとなるケースもあった。赤ワイン用ブドウの収穫も前年より2週間早く、9月初めにメルロ種の摘み取りから始まった。ところが7日からの約10日間は、時折激しい雨に見舞われた。9月17日以降はインディアンサマーとなり、晩熟品種や区画にとっては好都合となった。全体的にリンゴ酸の数値は過去10年比で高くなったが、成熟不足によるものではないとの見解だ。糖度も適度に達し、アロマのポテンシャルも青臭くならず、色合いは16年並みだが、タンニンも程よい数値となっている。

 

2017年のポイントを総括すると、まず霜害に遭ったかどうか、それはアペラシオン単位ではなく、どのシャトーのどの畑が被害を受けたか、そして各シャトーはどのような采配を振ったか、ということだ。幸いにも霜害を免れたサン・ジュリアン以北のメドック地域は、品質もボリュームも総じて安定している。「7の付く年」の迷信通りにはならず、むしろ「ラッキーセブン」となったのか。ユニオン・デ・グラン・クリュに加盟するシャトーのコメントとともに、アペラシオンごとの試飲状況をレポートする。(T. Inoue)

 

WANDS2018年7月8月合併号は「米国西海岸のワイン」「ボルドー・プリムール」「夏のスピリッツ」特集です。

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