フランスワイン産地発のローカルウイスキー ジュラ、シャンパーニュ

フランスは地方がエネルギッシュだ。食やワインなど、地域の恵みや伝統を活用して、さらなる付加価値を生み出そうという動きがある。この数年、その代表的と言えるのがウイスキーの生産だ。今回はジュラ地方、シャンパーニュ地方を訪ね、ワインやシャンパーニュの延長線上で生まれるウイスキーを取材した。

 

シャンパーニュ生まれのウイスキー

ムタール蒸留所(シャンパーニュ)Distillerie Moutard(Champagne)

シャンパーニュ地方で数年前からウイスキー造りを始めたのが、シャンパーニュ・ムタール、ムタール蒸留所だ。コート・デ・バール地区のビュクシュイユに拠点を置き、ブドウ栽培の歴史は17世紀まで遡る。そしてブドウ栽培だけでなく、1890年代からは蒸留設備も構え、マールやフィーヌ・ド・シャンパーニュ、ラタフィアも自社で造り続けている。蒸留所としても老舗だ。その頃のブドウ栽培農家はそれぞれが蒸留器を持ち、ブドウの搾りかすを使って蒸留酒を造り、近隣の町リセィのネゴシアンに販売するのが主流だったという。こうした形態はその後徐々に廃り、現在、蒸留設備も持つシャンパーニュ生産者はわずか数軒だけになった。

ムタール家はこうした伝統を継承する最後の拠り所として、近年は交流のあるブドウ栽培農家、シャンパーニュ生産者たちからの依頼に応じ、彼らの持ち寄るブドウの搾りかすで蒸留酒を造ることもある。またマールやフィーヌのほか、ロレーヌ地方のように、ミラベルや洋ナシ、スローの実などを使ったフルーツの蒸留酒も生産している。

「サイクルを大切にする」というのが、ムタール家の信条で、1890年代にブドウ栽培と蒸留酒造りを手掛けたヤサント・ディリジャンから受け継いできた思いだ。それは現在、ブドウ畑の耕作からシャンパーニュ造り、蒸留酒造りの後に至るまで、無駄なく有効利用するセンスに繋がっている。例えば、アルコールを抽出した後の残り糟は、畑脇の空き地に数年間寝かせて自然の肥しを作り、ブドウ畑の土に返す、といった具合だ。

 

そして若き後継者アレクサンドル・ムタールが加わったことで、さらに蒸留への可能性を追求する流れとなり、いよいよウイスキー造りへの挑戦も始めることになった。ウイスキーを手掛けるにあたって、長年家族ぐるみで付き合いのあるベルギーのベルジョン・オール・ウイスキーのエティエンヌ・ブイヨンに教えを請うた。ムタール家も数ヘクタールの麦畑を所有するが、ウイスキー用には使用せず、麦汁を数軒のビール醸造所から仕入れている。サンスのラルシェ、コート・デ・バール近隣のラ・ルーフやブラッスリー・アルティザナル・デュ・デール、そしてシャブリのブラッスリー・マダムなどだ。

また霜害や雹害でブドウが得られなかったシャンパーニュ生産者が、起死回生のためにビール造りを開始したというビュル・デュ・パラディも今年から提携を開始した。

 

これらの醸造所から得る麦汁を使って、発酵、蒸留、熟成を自身で行っている。時期的には、醸造所のビール造りがひと段落し、マールやフィーヌ造りも終わる1月から3月にかけてウイスキー造りに取り掛かる。ラ・ルーフは自社畑の麦を自社でモルト化し、ブラッスリー・マダムはビオのビールを造っているなど、各社個性が異なるため、仕込みは個別に行っている。また発酵時の特殊な試みとして、シャンパーニュの酵母を使う。ビール酵母と比べて、アルコールには変化しない甘みが得られるからだ。

 

3~5日間の発酵を経て、蒸留の工程に入る。蒸留器も独特だ。一見オニオン型のシャロント式と呼ばれる単式蒸留器だが、シャンパーニュ方式も取り入れ、中の構造がやや異なるという。祖父の時代に古書から見つけ出して特注したオリジナルの直火炊きだ。1回目の蒸留後、蛇管式のコンデンサーで冷却する。蛇管式だとよりフレッシュでエレガントなアルコールが得られる。そして2回目の蒸留で最良のハートを引き出していく。

 

タイミングよく、一週間前に蒸留したばかりの原酒を試飲した。シャブリのブラッスリー・マダムの麦汁を使ったもので、将来的にウイスキー・ビオとなる原酒だ。アルコール分65%だが、舌を刺激するアルコールではなく、滑らかでまろやか。甘みをも感じる。フルーティであり、花の風味も凝縮している。間もなくラタフィアに使用した後の樽に詰められ、3年後の2022年にリリースされる予定だ。

(T. Inoue)

 

つづきはWANDS 2019年4月号をご覧ください。
4月号は「日本のワイン市場を読む、拡がるウイスキー市場」特集です。
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