クルチエ時代の知見と人脈を最大限に生かしエレガンスを追究するティエノThiénot

創業者のアラン・ティエノは、シャンパーニュ地方で公証人を営む一家に生まれた。しかし、家業を継ぐのを拒み1968年から小さな事務所を構えて栽培家とメゾンを繋ぐクルチエを開業した。徐々に規模が大きくなり、扱う量も増えた。どの村のどの区画から優れた葡萄が生まれるのか、すべてを把握するようになった。

1976年に自ら5haの区画をアイに購入したのを皮切りに、畑を少しずつ買い足し、1985年にはクルチエの会社は伴に携わっていた従兄弟に譲り渡し、独立を果たした。ランスの中央にオフィスと自宅を兼ねた地下セラーのある館を購入していたが手狭になり、1992年からランス近郊でプルミエ・クリュの村、テシエに近代的なワイナリーを建て、醗酵はすべてここで行うようになった。長男で次世代を継ぐスタニスラス・ティエノは2003年から参画し、メゾンはますます若々しいイメージを醸し出している。

 

<妥協なき選択>

スタニスラス・ティエノ

スタニスラス・ティエノ

ワイナリーの中は整然としており、タンクはすべてステンレス製だ。細長いタンクはよく見ると2槽に分かれており、上部と下部で100hlずつ別々に醸せるようになっている。キュヴェのみの使用で、すべて区画ごとに醸造する方針のため、扱う区画のサイズに合わせて他にも50hlや200hlのタンクもある。リザーヴワイン専用の部屋もあり、400hlの大きなステンレスタンクで保管されていた。

デゴルジュマンの際に酸素混入を防ぐため、高価なジェッティング・マシーンも5年前に導入した。すべての行程で、酸化防止の手立てがとられている。クリーンでフレッシュな果実を損なわないための配慮だ。

この醸造所では、毎年100万本のシャンパーニュを造っている。しかし「ティエノ」ラベルで出荷されるのはそのうち約40万本だけ。品質が「ティエノ」レベルに達しないと判断したワインは、セカンドラベルに回したり、他社へ販売したりしてしまう。

 

<すべてはテイスティングで>

「ティエノ」には決まりがない。毎年、180区画のワインをブラインド・テイスティングすることから、すべてが始まり次のステップへ進む。だから、ティエノのブリュットNVは、葡萄のブレンド比率もドザージュ量も、毎年異なる。どちらもおよその目安があるのが普通だが、ここでは常識が異なるのだ。

ドザージュは、デゴルジュマンの数ヶ月前にいくつかのサンプルをブラインド・テイスティングして決める。サンプルを4g/lから12g/lまでと幅広く用意するという。面白いからと、ベースワインのヴィンテージが異なるふたつのブリュットNVを試飲させてくれた。

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*2010年ベースのブリュットNV

2010年55%+リザーヴワイン09、08、07、06年。70のクリュをブレンドし、100%キュヴェのみ使用。シャルドネ45%、ピノ・ノワール30%、ムニエ25%。ドザージュ8g/l。白い花や果実のフレッシュでエレガントな香りがし、味わいもしっとりとして爽やかな酸が心地よく、バランス感覚に優れている。

*2012年ベースのブリュットNV

2012年50%+リザーヴワイン10年主体に09と08も。ドザージュ5.5g/l。とても若々しく、蜜入りリンゴのような白い果実がクリーンに香り立ち、フレッシュながら厚みがありテクスチャーが心地よく、酸もしっかりとしている。

「ダイナミックな年だった」という2012年には、糖分はそれほど必要ないと判断したのだ。しかし、フレッシュでエレガントな方向性は同じなため、並べて比較しなければ2.5g/lもの違いがあるとは感じないはずだ。

「ドザージュは、果実と酸を繋ぐものだと考えている。接続語のようなもの。泡や香りも際立たせてくれる。ドザージュをゼロにすると、はじめはフルーティーさも感じられるが、後で酸がすべてを断ち切ってしまう」とスタニスラス。

ちなみに、2011年がベースとなるNVは存在しない。「収穫がとても早かった年で、酸が低い上にグリーンな香りが感じられた。だから、60%はリザーヴワインにして、残りはセカンドラベルに回してしまった」からだ。

ブレンドを決めるまで、180区画の葡萄から造った180のワインを収穫から1月まで、果汁、ワイン、マロラクティック終了後のワイン、すべての段階で試飲し続ける。そして、180すべての香りと味わいを記憶してブレンドの構成を決めていく。

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以下、ティエノ一家の名前を冠した上級キュヴェを紹介する。一貫してエレガンスを求めていることがわかる。

Cuvées Stanislas, Blanc de Blancs Brut 2006 コート・デ・ブランのシャルドネのみ。2006年は涼しい年だったためアヴィーズを主体にし、シュイィ、クラマン、メニルをブレンド。「2006年はエレガントで冷涼なスタイル」。反対に2005年は温かかったためクラマンを主体にした(2005年はガランスとアラン・ティエノには熟しすぎたと判断し、造らなかった)。マロラクティックは行うが100%はしない。また、アルコール醗酵終了前にマロラクティックを始めることで、ミルキーでバタリーな香りが出にくいようにしている。ドザージュ6.5g/l。30,000本のみ生産。開けたては閉じていたが、熟した桃や蜂蜜、ブリオッシュが香り、上品だが厚みもあり、クリーミーな食感。

Cuvées Garance, Blanc de Noirs Brut 2007 ガランヌは1歳年下の妹の名で、赤い花の名前でもある。ピノ・ノワール100%。アイが主体で2007年は90%、他にマイィ、オーヴィレール、テシエ。ピノ・ノワールだけだと重くなりやすいが、エレガントでフェミニンなタイプを目指している。これから10年かけて、モンターニュ・ド・ランス北部のピノ・ノワールの畑を買い足したいと考えている。トーストやスモモなど香ばしくふっくらした香りで、厚みのある味わい。酸も豊かで後味は上品。

Cuvées Alain Thiénot Brut 2002 シャルドネ45%、ピノ・ノワール55%。シャルドネは、アヴィーズ、シュイィ、クラマン、キュミエール。ピノ・ノワールはアイ、オーヴィエールなど。10年間で3度ほどしか造らない。4万本未満。香りがとても華やか。熟した桃、クッキーのような香ばしさ、スパイスなどの複雑な香りに、ふくよかで力がある味わいで、なめらかさとフレッシュ感が心地よく、余韻も長く続く。

(Y. Nagoshi)

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