キャプランワインアカデミー特別講座「南アフリカワインの今を知る」

写真/左から「メッツァー・ファミリー・ワイン ペット・ナット2021」「サイン サイン・ホワイト 2016」「アタラクシア シャルドネ2020」「シャノン ロックヴューリッジ ピノ・ノワール 2019」「A.A. バーデンホースト ドライフコップ グルナッシュ 2019」「アスリナ ウムササネ 2018」

2022年は南アフリカでワイン見本市「ケープ・ワイン2022」が開催された年だ。日本国内でも現地ツアー参加者による数々のセミナーが催された。同年11月25日、東京・南青山のキャプランワインアカデミーで「南アフリカワインの今を知る」特別講座が開かれた。講師はWSET認定講師の松木リエ氏。6種のワインの紹介とともに、松木氏は現地での体験をまとめた。

「ケープ・ワイン2022」に参加し、講師を務めた松木リエ氏。

ポイント1:古木の希少性
重要なキーワードとなる「古木(Old Vine)」。南アフリカではその保護と希少価値の向上に努めるべく、2016年にOld Vine Project(OVP)が設立され、2018年からは認証シールが導入された。圧倒的にシュナン・ブランが多い(4,004haのうち2049ha)。「宗教迫害を受けたロワールの生産者(ユグノー)が南アフリカへ持ち込んだこの品種は、冷涼、温和、温暖いずれの気候条件でも栽培できる。南アフリカの環境に適合し、広く栽培されるようになった」と、松木氏。

ポイント2:冷涼な産地
南アフリカで冷涼な産地と言えば、ケープタウンの南東にあるエルギンとウォーカー・ベイが筆頭に挙げられる。高品質なワインを造る生産者が集まっている地域でもある。
エルギンはリンゴの生産地でもあり、年間降雨量は1,000mとよく降り、貴腐ワインも生産されている。ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、シャルドネ、メルロなど、冷涼から温和な気候に向く品種が植えられ、ワインはフレッシュで香りの高いスタイルが主流。
ウォーカー・ベイはエルギンに隣接する。海側の渓谷ヘメル・アン・アールダは、ハミルトン・ラッセルがピノ・ノワールとシャルドネで成功し、後続の生産者たちも積極的にこの2品種を栽培している。現在3つの小地区(ヘメル・アン・アールダ・ヴァレー、アッパー・ヘメル・アン・アールダ、ヘメル・アン・アールダ・リッジ)でテロワールの違いを分けて語るようになっている。

ポイント3:生産者同士の交流
南アフリカの近代ワイン産業の歩みは、わずか2〜30年足らず。「短期間でここまで高品質なワイン産地に発展したのは、生産者同士のつながりが強いからだろう」と松木氏。産地ごと、あるいは共通の哲学を持つ生産者同士で数々のコミュニティがある。例えばスワートランドの「Swartland Independent Producers」や西ケープ州のプレミアムワイナリー団体「PIWOSA」などである。

ポイント4:黒人生産者の躍進
今注目すべき動向のひとつが、黒人生産者たちの社会進出だ。貧困や言語などのハンディキャップを乗り越えて自社ブランドを確立しつつある。1994年まで続いた人種隔離政策が南アフリカに残した爪痕は深く、なお道のりは容易ではないが、消費者が彼らのワインを知ることでさらなる未来が拓ける。

 

試飲1
「メッツァー・ファミリー・ワイン ペット・ナット2021」産地:ヘルダーバーグ(ステレンボッシュ)
ステレンボッシュは古木が最も多い歴史的な産地。このワインはOVP認定の1981年植樹のシュナン・ブランから造られたペットナット。メッツァーの畑は山と海の両方の影響を受ける冷涼な環境。全房でプレス、短時間のスキンコンタクト、フレンチオークの古樽で2か月自然発酵のち、残糖20gでボトリング。
「黄色い熟した果実の香りがとても華やか。花梨、リンゴ、レモン、キンモクセイやスイカズラなど花の香りもある。ブドウの熟度と爽やかな酸味、泡のフレッシュ感がバランスを取る。クラッカーや揚げ物などサクッとした食感の料理に合わせるのがおすすめ」と松木氏。生産本数はわずか400本。

試飲2
「サイン サイン・ホワイト 2016」産地:マルガス(スワレンダム)
マルガスはケープ・サウス・コースト地域スワレンダムの小地区で、サインはそこにある唯一のワイナリー。比較的乾燥しているが、畑の近くにブリーデ川が流れ、夏も過酷な暑さにはならない。シャトーヌフ・デュ・パプのように丸石がごろごろとあるユニークな産地。「水はけの良い環境で、非常に綺麗なブッシュヴァインの仕立てをしていた」と松木氏。畑ではカヴァークロップに藁を使い、地中の水分が蒸発しないように工夫している。2000年にデヴィッド・トラフォードがこの土地に潜在性を見出した。現在のチームの中心は女性醸造家キャルラ・ハースブルック氏。ワインはローヌ系品種のブレンド(シュナン・ブラン75%、ヴィオニエ17%、ルーサンヌ8%)。225ℓ、400ℓ、700ℓのフレンチオーク樽で発酵、11か月熟成。
「完熟した黄色い果実味に、トロピカルフルーツのニュアンスも。シュナン・ブランの高い酸が全体を支え、ヴィオニエがキンモクセイやカモミールの香りをもたらしている。熟成香、樽香のあってボリューミーでバランスの良いワイン。余韻にかけてスパイシーで軽快。綺麗に熟成している」。松木氏はペアリングはブルーチーズで作るフレンチトーストを提案。「砕いた胡桃と蜂蜜をかけると、このワインとバランスが取れる」。

試飲3
「アタラクシア シャルドネ2020」産地:ヘメル・アン・アールダ・リッジ
リッジはヘメル・アン・アールダの山側の小地区で、3つの小地区の中でとくに冷涼な産地。「このシャルドネは現地で感動したワインのひとつだった」と松木氏。粘土質の頁岩土壌。フレンチオーク小樽で10か月熟成。
「シトラス、レモンピール、リンゴなど爽やかな印象。ミネラル感をしっかり感じる。果実味の柔らかさと、火打ち石のような硬さもあり、ブルゴーニュを彷彿とさせる。樽熟成のトーストの香りも調和して溶け込んでいる。テクスチャーはクリーミーだが伸びやかな酸味で、長い余韻。ブールブランソースの真鯛など、クラシックなペアリングがおすすめ」。

試飲4
「シャノン ロックヴューリッジ ピノ・ノワール 2019」産地:エルギン
エルギンは「繊細なスタイルこそ、この産地らしい」と松木氏。3つのクローン(113、115、667)を使用。フレンチオーク樽で発酵、12か月熟成。
「レッドチェリー、ラズベリー、土、クローヴの香り。パウダリーなタンニンで、旨味と苦味、ミネラル感があり、スパイスの風味も豊か。非常に高い酸味。重い料理ではなく鳥の梅煮などと」。

試飲5
「A.A. バーデンホースト ドライフコップ グルナッシュ 2019」産地:スワートランド
広大な産地スワートランドの内陸部は大陸性気候。日照量が多くて乾燥した地域。ブドウがよく成熟するが、水分が少ないため低収量になる。ワインは花崗岩質土壌で100%全房発酵のグルナッシュ。ブルゴーニュ産のオーク古樽で発酵、15か月熟成。無清澄、無濾過。
「レッドプラムやチェリーなど華やかな赤い果実味。さらにナツメグ、シナモンなどのスイートスパイスの香りもある。酸味もタンニンも強すぎず、ジューシーで芳醇なスタイルの赤ワイン。煮込み料理と相性が良い」。

試飲6
「アスリナ ウムササネ 2018」産地:ステレンボッシュ
カベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドーブレンド。醸造家のヌツィキ・ビエラ氏はステレンボッシュ大学で醸造学を学び、南アフリカで初めて自ブランドを確立した黒人女性。オーク樽で16か月熟成のフルボディ。
「黒系果実に、カベルネ・ソーヴィニヨンらしい針葉樹など清涼感のある香り。伸びのある酸味で、品種の特徴がよく表れている。フルボディだが重すぎない。厚切りステーキなどと」。

(N. Miyata)

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