オーストラリアワイン再考 ビクトリア州と南オーストラリア州にみる独自の進化、広がる選択肢

毎年何度もカリフォルニアのワイン生産地に足を運んでいると、市場及び生産現場の進化の早さを体感し、ニューワールドワインのトレンドセッターはアメリカだと思ってしまう。だからオーストラリアワインは、この流れに一歩遅れて追随しているだけのように見えて、現地訪問したい気持ちがありながらも何となく先延ばしにしていた。だが、9月に開催されたオーストラリアワイン・グランドテイスティングでのマスタークラスやメディア対象セミナー、これらを報じる記事を通じ、すぐにでも行って確かめなければ、という衝動に駆られた。そこにはアメリカとは似て非なる動きがある。冷涼産地のピノ・ノワール、そしてパイは小さいながらも急速に伸びているオルターナティブ品種の現状も見てみたい。そんな思いを胸に10月、ビクトリア州と南オーストラリア州のワイナリーを巡る旅に出た。

 

ビクトリア州

【モーニングトン・ペニンシュラ】

バス海峡、ポートフィリップベイ、西ポートベイに囲まれたモーニングトン半島は、オーストラリアを代表するコースタルワイン産地と言える。標高は25~250mと高くはないが、両側を海に囲まれた半島という地形の恩恵で、真夏でも涼しい海風が吹き、冷涼気候に適した品種に向く。海洋の影響による夏の適度な湿度と降雨により、ブルゴーニュの気候との類似性が生まれる。ワインは高い酸による骨格と優雅さを兼ね備え、パワーが抑制されていて、オーストラリアのピノ・ノワールとシャルドネ好きの注目を急速に集めている。

ブドウ生産量の赤白比率は59:41で、ピノ・グリ、ピノ・ノワール、シャルドネの順だが、金額ベースではピノ・ノワールがトップ。量でも金額でも、これら3品種で、エリアの8割以上を占める。

 

パリンガ Paringa

オーナーのリンズィ・マッコールは、今でこそモーニングトンのピノ・ノワールの先駆者として知られるが、最初は試行錯誤だった。ワイン好きな中学校物理教員だった彼は、小川がある北向きの畑を探していた。80年代にこの土地を買い、85年にブドウを植えた。友人に手伝って貰いながら自力で副業的にワインづくりを始めた。当初は標高140mのこの地が数値的にボルドーに気候が似ていると踏んで、カベルネとメルローを植えた。が、ここは寒過ぎて充分に熟度が上がらない。そこで91年よりピノ・ノワールを植え始める。醸造学を学んだわけでもない彼には天与の才があったに違いない。ワインは、その後、数々のコンペで入賞を果たす。

ブドウの仕立てはV字型ではなくU字型に近い独特のライアーで、エネルギーを大きく外に向け、肥沃な土壌での樹勢を抑えている。エステートは13ha。レッドヒル地区に11 haの契約畑。様々なクローンを試しており、新たに購入した畑はエイベル・クローンの苗木を1500本植えた。

リンズィは後継者にも恵まれた。息子のジェイミーは、アデレード大学で醸造を学んだ後、2012 年に家業に参画、ワインメーカーとして共に働いている。モーニングトンのワイナリーはまだ一代目が多い中、大学時代に築いた他地域のセカンド・ジェネレーションの同窓生のコミュニティで情報交換もできている。成功している家族経営のワイナリーに生まれたことに感謝し、土地らしさを表したいという父の意思を大切に継続していきたい考えだ。

Estate Pinot Noir 2014

粒の少ない小さな房で平均の3割という低収穫量の年。100%除梗、2tの開放発酵槽、フレンチオークで熟成、新樽40%、明るい真紅の色合い。しなやかなテクスチャーの中にハービーな複雑味。

(中略)

 

 

南オーストラリア州

1830年代からの歴史を持つワイン生産地。オーストラリアワインの中心となる州で、ブドウは国全体の45%が生産される。AWRI(オーストラリアワイン研究所)やアデレード大学ワイン研究センターなどの主要な研究機関がワイン業界関係者を、多くのワイナリーのセラードアが観光客を国内外から呼び寄せている。

 

【マクラーレン・ヴェイル】

マウント・ロフティ山脈とセント・ヴィンセント湾の間に位置する起伏に富む風光明媚な地。英国系移民によってワインの生産が開始され、処方のためのワインをつくる医師団のネットワークがワイン産業発展の礎となった。標高は50~200m、ブドウ生育期間の平均気温が21.7℃、平均降雨量は180~200mmと少ない地中海性気候。温暖だが、湾に近いため、午後半ばには地面が熱を放射して涼しい海風を引き込み、ブドウ畑のある平地を循環する。

ブドウ生産量の赤白比率は93:7 で、品種構成比はシラーズの64%とカベルネ・ソーヴィニヨンの16%だけで既に8割、これにシャルドネ、グルナッシュが続く。作付面積の伸び率を見ると、マタロ(ムールヴェドル)が前年比4%。

 

ハーディーズ・ティンタラ Hardys Tintara

イギリス人トーマス・ハーディが1876年にマクラーレン・ヴェイルのティンタラ・ワイナリーを買ったのが、現在セラードアのある場所。公道から見える160年の歴史を持つ古い建物の外観とは対照的に、醸造施設は南半球で最も進んだシステムのひとつだ、とワインメーカーのマット・カルダースミスは誇らしげに言う。

オートマのプランジャー付きのレールで重力式移動を可能に、傾斜のある底の発酵タンクは手動で掻き出す手間を省き、酸素を使ったコンピューター制御のポンプオーバーシステムはワインを明るくクリーンに仕上げ、個別温度管理できるタンクはブドウやワインの移動による負荷を極力抑える。オートメ化により、かつては5時間を要した作業が2時間に短縮され、ヒューマンエラーのリスクも減る。かといって全てが時短最優先の最新化ではない。例えば、高い抽出効率のロータリー・ファーメンターの使用頻度は減らし、時間を掛けて優しく搾汁するバスケットプレスを多用。必要な部分には伝統的な技術も活用し、時間も割く考えだ。

使用している樽は500ℓパンチョンと228ℓバリクの両方があるが、新鮮な果実味を保ちながらゆっくり熟成する前者の比率を年々高めてきている。スパークリングワインのアラスの原酒樽は2500ℓ。ボトリングのみ外注委託で、二次発酵中のボトルは10~15年分のストックがここに眠る。

Arras Grand Vintage 2008

ブドウはタスマニアから。ピノ・ノワール51%、シャルドネ49%。7年のティラージュを経て、リッチな複雑味。グレープフルーツの酸味に、牡蠣殻のようなニュアンス。

Eileen Hardy Shiraz 2014

30~70年樹齢のブドウを手摘み。良い年のみのリリース。部分的に自然発酵。ブルーベリー、ブラックベリーのフレーバーとミルクチョコレートのテクスチャー。

(以下略)(text & photo by Saori Kondo)

 

つづきは、WANDS誌2017年12月号をご覧下さい。 ウォンズのご購入・ご購読はこちらから デジタル版もできました!

訪問ワイナリーは以下の通りです。

☆モーニングトン・ペニンシュラ Paringa、Stonier、Crittenden

☆ヤラ・ヴァレー Chandon Australia、De Bortoli、Oakridge、Hoddles Creek、Mayer、Mac Forbes、Giant Steps、Soumah

☆マクラーレン・ヴェイル Hardys Tintara、Coriole Winery、Rosemount

☆バロッサ・ヴァレー Jacobs Creek、Wolf Blass Winery

☆クレア・ヴァレー Wakefield

☆アデレード・ヒルズ Shaw + Smith

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