WOSA Japan ウェンズデー・ウェビナー セッション4-1「オールド・ヴァイン(古木の)セミヨン」

南アフリカのワインと日本の消費者をつなぐ活動を行っているWOSA Japan(南アフリカワイン協会)は、コロナ禍で生産者の来日が困難な状況になった2020年の前半から、オンラインを活用したセミナーを積極的に行っている。

そのひとつ「ウェンズデー・ウェビナー」は、WOSA Japanプロジェクトマネージャーの高橋佳子DipWSETが、南アフリカワインの情報を様々な視点から取り上げ、さらにワイン生産者と日本のトップソムリエがワインを試飲しながら産地の個性を掘り下げていく企画だ。

今回は世界的にも希少な古木のセミヨンにフォーカス。ボルドーともハンターヴァレーとも異なる南アフリカならでは魅力をたっぷりと紹介した。

ゲストワインメーカーには、ブーケンハーツクルーフからワインメーカーのゴットフレッド・モック(Gottfried Mock)氏と、アルヘイト・ヴィンヤーズからワインメーカーのクリス・アルヘイト(Chris Alheit)氏がビデオ出演。そしてゲストテイスターには日本最優秀ソムリエであり、三ツ星フレンチレストラン銀座ロオジエ・ソムリエの井黒 卓氏が、トップソムリエの視点からも南アフリカワインの魅力を語った。

 

以下、内容をサマリーする。

過小評価されてきたセミヨン品種

セミヨンというと、フランスのボルドーではソーヴィニヨン・ブランの補助品種というイメージや、貴腐ワインのイメージが強く、なかなかスポットライトが当たっていない品種と捉える方も多いだろう。しかし南アフリカでは、19世紀頃には栽培面積の9割がセミヨンだったという歴史もあり、重要品種なのである。偉大な白ワインは酸が高くて骨格がしっかりとしているイメージがあり、成熟度が高くなると酸レベルが低くなりがちなセミヨンはその理由でこれまで過小評価されてきた。

 

フランシュフック地区のオールド・ヴァイン・セミヨン 

南アフリカの古木のセミヨンは、ブーケンハーツクルーフがあるフランシュフック地区に集中している。ステレンボッシュとパールとの間に挟まれた場所に位置し、 四方を山に囲まれた渓谷のワイン産地だ。歴史的にフレンチ・ユグノーの影響が色濃く、フランス文化が根強く残っている。グルメ、ワインツーリズムでも人気のあるエリアだ。

年間降水量は900〜1,050mmで、2月(収穫期)の平均気温は23度。内陸にあるため冷涼な海の影響は少なく、温暖で比較的乾燥した地域だ。しかし標高があるため昼夜の温度差が大きく、後部からの山の風もあり、夜間の気温はぐっと下がってブドウの酸度は高く保たれる。

樹齢100年を超えるセミヨンが現存しているのが、このフランシュフック地区。19世紀頃にはこの地区でセミヨンが多く栽培されていた。残念ながらどんどん栽培面積は減少していき、2020年時点では南アフリカ全体で991ha(ヘクタール)ほどとなっている。白ワイン品種だけでみても全体の2%ほどの栽培率で、非常に少ない。さらに古木の畑(樹齢が35年以上と制定されている)の栽培面積に限定するとシュナン・ブランがそのほとんどで、セミヨンはわずか60haもない。

 

ブーケンハーツクルーフ、ゴットフレッド・モック氏のビデオメッセージ

ブーケンハーツクルーフには3つのブドウ畑がある。1902年植樹のブドウと、1936年と1942年に植樹されたブッシュヴァイン(株仕立て)の3カ所だ。

1942年に植樹された畑はサラサラの砂質ロームの土壌で、下層には花崗岩の母岩がある。今シーズン(2022年)はとても涼しかったが、程よく熱波もあり、砂質ローム土壌が日照を反射することでブドウの成熟を促し、少し早めの収穫となった。ケープのDNAを表現している素晴らしい古木のブドウ畑で、フランシュフックのユニークなテロワールを表現している畑だ。

1902年に植樹された畑は今現存するセミヨンの最も古い古木の畑で、南アフリカの中でアメリカ系の台木に接木をされた最初の畑である。1942年の畑には、部分的に自根の木も残っている。

 

ブーケンハーツクルーフ、ゴットフレッド・モック氏へのインタビュー

  • ぜ、オールド・ヴァイン・セミヨンはフランシュフックに集中しているのか?

オールド・ヴァイン・セミヨンがフランシュフックに集中しているのは、歴史的にセミヨンがこの土地の環境によく適合し順応したからだ。過去にはほとんどのセミヨンは協同組合に売るために栽培されていた。農家では将来性を期待して、メルローやソーヴィニヨンブランなど、新しい品種やクローンを植えたりする中で、セミヨンの存在は忘れ去られていった。それが近年のオールド・ヴァイン・プロジェクトの活動で古木のセミヨンの存在が見直されるようになり、優れたワインが造られることに気付いた。1902年と1942年の樹齢のセミヨンが今でも現存できているのは、マーク・ケントがそのポテンシャルを見出したから。でなければ、引き抜かれてしまっていただろう。1944年以前は、歴史的に多くのセミヨンが、間違った理由で引き抜かれてしまった。だからこそ、現在こうしてフランシュフックに生き残った古木から、良質なワインを造れることはとてもありがたいことだ。

 

  • 南アフリカのオールド・ヴァイン・セミヨンの他にない特性とは?

セミヨンは、ケープで最初に栽培が始まった白ブドウ品種のひとつ。1600年代にすでにケープで栽培されていたし、1800年代の終わり頃にはケープで最も多く栽培されていた品種だった。セミヨンのように土地の環境に適合し、その土地の個性をワインを通じて表現できる品種は他にはない。その個性は、ボルドーのペサック・レオニャンやグラーヴとも、ハンターヴァレーとも違ったスタイルの、他の何処でも真似できない、独自のスタイルの白ワインだ。もう一つの特徴として、セミヨンは南アフリカワインの中でも、真のガストロノミーワインと言える。近年、新世界のファイン・ワインに対して、フルーティーさやアロマティックさ、フレッシュさだけでなく、ワインのテクスチュア、口当たりや、何よりも熟成のポテンシャルを求めるようになっている。セミヨンはそれら全てを叶えてくれる。

南アフリカのセミヨンは、ハンターヴァレーのセミヨンとは大きく異なる。同じ品種で、どちらも瓶熟するポテンシャルのワインではあるが、全く別物で真逆のスタイル。南アフリカのオールド・ヴァイン・セミヨンは、果実の厚みと熟度があって豊か。加えて瓶熟成によって複雑な奥行きが加わって発達していく。変異でオリジナルのDNAを持つセミヨンが存在するのが南アフリカ。このように同一品種でも、全く違った個性を持っているというのは非常に面白い。

 

  • 「セミヨンはガストロノミーワインと言える」というモック氏のコメントを受けて井黒ソムリエのコメント

南アフリカのセミヨンは厚みがあって、中華料理によく合いますね。油を潜らせることによって素材の食感を活かしたりする料理には、このようなまろやかなテクスチャーのあるワインがいい。酸味もしっかりあるワインなので、口中をさっぱりさせてくれる。家庭料理だと油淋鶏やチンジャオロース。最近のちょっとした中華料理レストランだと、シャオタンスープやふかひれスープなどにも合うと思います。

 

  • オールド・ヴァイン・プロジェクト (OVP) について

OVPにとって、古木の畑の認証制度を導入したことは最も重要な取り組みだ。どこで誰が栽培しているかが明確になり、また古木を保護しようという取り組みにつながった。世界がオールド・ヴァインから優れたワインが造れるという事実に目覚めさせてくれた。しかし南アフリカでは、この種の活動に補助金はつかないので、個人の裁量で行っていかなければならない。だから知恵を絞って、情熱を持って、創造力を働かせて活動している。OVPはたくさんの小規模な生産者がオールド・ヴァインから優れたワインを産み出すためのプラットフォームを用意してくれた。そんなOVPの活動を心より支援する。

 

<Tasting Session>

Boekenhoutsklook Semillon 2016

ブーケンハーツクルーフ セミヨン 2016

2016年は、南アフリカで連続して旱魃が続いた最初の年。オールド・ヴァインの魅力のひとつとして、天候被害に左右されにくいという優れた点がある。どんな年でも、畑の表現というものがブレずに存在する。マイナー品種ではあるがポテンシャルが高い。

ワイン情報

生産者:Boekenhoutsklook(est.1776)Marc Kent, Gottfried Mock

地域:W.O. Franschhoek

ブドウ品種:セミヨン、セミヨン・グリ(植樹年:1902, 1936, 1942)

解析:Alc 13.72% abv., RS 2.3g/L, TA 5.0g/L, pH 3.38

価格:5,000円(税抜)

Note:全房圧搾、樽と卵型コンクリートタンクで野生酵母による自然発酵。14か月間低温でMLFを抑制しながら熟成

(井黒ソムリエのコメント)

アロマティックで発散性が強い。特徴的な蜜リンゴのような第一印象。セミヨンならではのオイリーな雰囲気があり、蜜蝋のようなニュアンスもあって複雑。ドライハーブ、乾燥したジャスミンの香りなど、香りに厚みがある。このようなアロマは他の品種では出にくく、どれとも似ていない個性的な香りだ。新樽100%だが樽感はほぼなく(バニラやトーストの感じが前面に強調されていない)、とても軽いトースト香やローストアーモンドの香りがほんのり感じる。

味わいは柔らかく、まろやかでスムース。ねっとりするようなワクシーなテクスチャーがあり、ボディもまろやかでふくよか。バックボーンにしっかりとした酸とクミンやターメリックのような風味。しなやかなテクスチャーで深みのある味わい。本当にユニークなスタイル。フェノリックなグリップがあり、最後にキュッと引き締めてくれる。暖かい産地なので、この酸味を大切にして醸造している非常にバランスの良いワイン。サービスする時は、ブルゴーニュグラスで厚みやとろみを出して、15度くらいの温度で出した方が良い。

アルヘイト・ヴィンヤーズ、クリス・アルヘイト氏のビデオメッセージ

1936年に植樹された美しいオールド・ヴァインのラ・コリーヌの畑。かなり密植になっていて表面は木屑で覆われている(これを「マルチング」と言っていた)。マルチングは土壌の水分蒸発を防ぐのにかなり効果的。雑草管理にも有用している。

フランシュックの山が向こうに見え、とても美しい場所だ。少し赤っぽいセミヨンの変異種で、バラのような色をしたブドウがあちこちに見られる。他にもこの畑には、緑や黄金色、そしてグリっぽい果皮のセミヨンも混在している。

今年(2021〜2022年にかけて)は冬の雨も多く、キャノピーがよく生い茂り、手入れが大変な年だった。雨が多いと樹勢が強くなり、収穫も多くなりがちなのだ。

この畑には、果皮の色が緑、ゴールド、ローズ、色、さらに濃いグリ色と少なくとも4種類のセミヨン・グリの古木がある。公式には1936年植樹とされているが、おそらくそれ以前に植樹されたと考えられている。このセミヨンのDNAはケープならではのもの。元々は1600年代にケープに伝わったもので、ナーサリーができる以前から何世代にも渡って農家が優良株を選別してきた結果が今に伝えられている。遺伝子的にオリジナルからかなり変異したものだ。樹齢少なくとも80年以上の木が大切に管理されている。

 

<Tasting Session>

Alheit La Colline Vineyard Semillon  2017年

アルヘイト  ラ・コリーヌ ヴィンヤード セミヨン 2017

ワイン情報

生産者:Alheit Vineyards(est.2010)Chris and Suzaan Alheit

地域:W.O. Franschhoek

ブドウ品種:セミヨン(85~90%)、セミヨン・グリ(10~15%)(植樹年:1936)

解析:Alc 13.5% abv.

価格:10,000円(税抜)

Note:全房圧搾、コンクリートタンクや古いフードルなど異なる発酵槽で野生酵母による自然発酵。

(井黒ソムリエのコメント)

圧倒される香り。熟度が高く香りの層が重なって、芳香も強くなっている。フルーツの熟度由来の甘やかさ。幾分の酸化が感じられる絶妙なバランス。澱との長い接触由来か、口の中にまとわりつくテクスチャー。お料理にも合わせやすい。和牛には間違いなく合うだろう。

 

 

WOSA Japan新プログラムの案内

【キャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.1~先駆者たち~】

南アフリカ在住のマスター・オブ・ワイン、キャシー・ヴァン・ジルMWご本人が南アフリカワインの歴史を切り開いた重要ワイナリーを巡ります。

・日時:2022年4月25日(月)19:00~20:30

・開催場所:オンラインZoomにて配信

・参加費:7000円(税込)小瓶ワイン100㎖×5本、50㎖×1本セット資料付き

・主催:ヴィノテラス、WOSA JAPAN共催

【次回のウェンズデー・ウェビナー】

・日時:2022年6月15日(水)15:00〜16:00

・テーマ:Chenin Blanc

WOSA Japan公式ページ

 

「ウェンズデー・セミナー」はWOSA Japan Facebookのアーカイブから閲覧可能

 

 

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