D.O.プエンテ・アルトがチリのグラン・クリュと呼ばれる理由

多くの100点満点を叩き出し、チリのグラン・クリュと言われるD.O.プエンテ・アルトとは。ドン・メルチョー2020、その姉妹ワインとなるマルケス・デ・カーサ・コンチャ ヘリテージの初ヴィンテージ2020を披露しながら、エンリケ・ティラドとマルセロ・パパがそのポイントを解説した。

 

プエンテ・アルトの位置付け

「ドン・メルチョー2018」、「アルマヴィーヴァ2017、2015」、「ヴィニェド・チャドウィック2017、2014」。これらはいずれもチリの最高峰の赤ワインだ。そして共通しているのは、すべてマイポ・ヴァレーのD.O.プエンテ・アルトから生まれており、ワイン評論家から100点満点を獲得したこと。

昨年独立した「ヴィーニャ・ドン・メルチョー」のCEOでテクニカル・ディレクターのエンリケ・ティラドは、こう付け加えた。「高級ワインの投資収益率では、チリがトップにある。中でもプエンテ・アルトのドン・メルチョーとアルマヴィーヴァが牽引している。これらは品質が高い上に数量も限られている。ヴィニェド・チャドウィックは700ケース、アルマヴィーヴァ16,000ケースでセカンドのEPUは6,000ケース。コンチャイトロのドン・メルチョーは10,000ケースで、今回初披露するマルケス・デ・カーサ・コンチャのヘリテージ(日本未輸入)は6,700ケースのみ。毎年供給が追いつかない状態にある」。

チリ全体のブドウ栽培面積が136,166haあるのに対し、マイポ・ヴァレーは11,282ha、そのうちプエンテ・アルトは471ha。極限られたカベルネ・ソーヴィニヨンの聖地であり、まさにグラン・クリュに相当する産地である。

「ヴィーニャ・ドン・メルチョー」のCEOでテクニカル・ディレクター、エンリケ・ティラド

プエンテ・アルトの特別なテロワール

ヴィーニャ・コンチャイトロのワインメーカーでテクニカル・ディレクターのマルセロ・パパが、プエンテ・アルトの特徴について説明した。

「プエンテ・アルトはアンデスの麓にあり、氷河から溶け出たピュアな水によって生まれたマイポ川沿いに沿って形成される5つのテラスのうち3番目のテラスで、最も古いもののひとつ。標高は650mほどに位置する。マイポ川はアンデスからの石や土などをもたらすだけでなく、冷気も運ぶ。また、土壌はモザイクのように多様だ」。

また、カベルネ・ソーヴィニヨンの研究(2018〜2020)を行ったと言う。7か所のヴァレーの23産地、79畑のブドウを使用した237種類のワインのサンプルを3年間継続して調査分析した。その結果、プエンテ・アルトがとてもユニークで特別なテロワールであると判明した。

「何より品質が高い。タンニンの質が素晴らしく、凝縮し、シルキーで、果実の香りも良い。クリーンで一貫性のある品質は、傑出していた」。

さらに、マッサール・セレクションによるカベルネ・ソーヴィニヨンと、クローナル・セレクションによるものの比較も行った(2013〜2015)。

「マッサール・セレクションもクローナル・セレクションも、どちらにも良さがある。しかしプエンテ・アルトにおいては前者の方が、より複雑性と深みを加えるという結果が出た。凝縮感、タンニンの質、プエンテ・アルトに典型的な果実感、色ともに前者の方が優っていた」。

ヴィーニャ・コンチャイトロのワインメーカーでテクニカル・ディレクターのマルセロ・パパ

エンリケ・ティラドも、こう付け加えた。

「アンデスの麓にあることがとても重要だ。マイポ川がもたらした沖積土壌で石も豊かで多様な土壌は、概して水捌けに優れている。この場所は毎日アンデスからの影響を受けており、夜間は冷風が吹き降りる。ブドウはゆっくりと成熟し、フレッシュな酸が保たれ、赤い果実の要素が得られる。過熟になることがなく、完璧な成熟を得られ、カベルネ・ソーヴィニヨンに最適な地である」。

そして、プエンテ・アルトが偉大なワインを生み出す5つの要素を挙げた。

1:冬に集中して降る雨が、シーズンをスタートするために重要。

2:開花と結実が早く集中して起こることが、衛生面においても大切。

3:夏、1月末に毎年起こる一定の水分と栄養分のストレス。

4:秋、アンデスからの冷涼な気温のもとでフレッシュさを保ちながらゆっくり成熟すること。

5:条件の異なる区画ごとに最適な条件で収穫すること。

 

ドン・メルチョー2020

ドン・メルチョーの畑:127ha(栽培比率CS90.0%, CF7.1%, MR1.9%, PV1.0%、ブレンドは毎年90〜95%がCS)、標高650m、植樹年1979〜1992(植樹密度4,000本/ha)、2004〜2017(8,000本/ha)。

1995年からのプロジェクトで、1997年から土壌分析を始めた。ブドウ、出来上がるワインの表現力が異なることに気がついていたからだ。151区画を大きく7つに区分した。それぞれの特徴は以下の通り。

No.1 エレガンスとフレンドリーさ、赤い果実やフレッシュさ

No.2 スパイスとスモーク

No.3 パワーと強固さ、タンニン

No.4 一体感とデリカシー

No.5 フレッシュさとテンション、エナジー

No.6 ストラクチャーと幅

No.7 若さと芯の強さ

No.2 スパイスとスモークのイメージ

150〜180種類の分類されたワインを1週間かけて試飲し、アロマ、レイヤーやテクスチャーなどが一貫した味わいを導き出す。例え優れたワインでも、全体の調和を崩すようであればブレンドには採用しないと言う。

2020年の気候条件を1987年からのデータと比較すると、雨が少なく暖かい年であるとわかる。例年は4月に収穫するが、2020年の場合には成熟が早く3月に収穫した。しかし収穫期の日較差の大きさは変わらず、プエンテ・アルトらしいエレガンスが得られた。ブレンドは、CS92%, CF6%, Mr1%, PV1%。

「暖かいと言っても9月から3月まで平年より1℃だけ気温が高かった。赤い果実の要素とフレッシュさに溢れている点では例年と大差はない。プエンテ・アルトは、フレッシュな赤い果実の香りとエネルギーがありながら、フィネスと優れたバランスがあるのが特徴。2020年もまさにこの土地ならでは。ソフトなアタックだが、エネルギーに満ち表現力が豊かで、ミネラル感もあり余韻が長く続く」。

No3.パワーと強固さのイメージ

 

マルケス・デ・カーサ・コンチャ ヘリテージ2020

初ヴィンテージの2020年は、マリスカル畑のブドウを70-80%使用し残りはドン・メルチョーの畑のものだが、いずれマリスカル畑100%になる予定だと言う。「これは我々の遺産」であるとマルセロ・パパは言う。

マリスカル畑:52.95ha(栽培面積CS 46.25ha, CF4.52ha, PV2.20ha)標高600m、2000年植樹(5,555本/ha)。ドン・メルチョーの畑から2km西に位置し、ここも3つ目のテラスにある。樹齢や植樹密度など含め、ドン・メルチョーのような多様性はないが、マッサール・セレクションによる苗木を植樹し、一部では台木を使用していない。自根の方が土地の個性をより良く表現すると信じているからだと言う。

2020年は春も夏も少し暖かかったため、フレッシュさ、エレガンスの追求がチャレンジングであった。収穫は3月最終週に行った。ブレンドはCS84%、CF12%、PV4%。

「シダー、フレッシュなタバコの葉、ダークプラムが香り、テンション、エネルギーが溢れ、とても若々しい状態」。

 

2銘柄を試飲した。

ドン・メルチョー2020

赤い果実や黒い果実などがスパイスやスモーキーさと共に複雑な香りを織りなし、香りからヴェルヴェットのような口当たりを予想させる。ソフトなアタックで、フレッシュでやはりヴェルヴェットのよう。タンニンは豊かながら細やかで丸みも感じさせ、ミネラリーなニュアンスも。黒系スパイスや黒鉛を思わせる要素が余韻を長く引っ張る。グリップが強くストラクチャーもしっかりしており、まさにエレガンスとエネルギーを併せ持つ若々しい姿。

マルケス・デ・カーサ・コンチャ ヘリテージ2020(日本未輸入)

ドン・メルチョーより少し明るめの綺麗なルビー色。よりフレッシュな果実が表に現れている。プラムなどの果実を思わせ、シダーのような清涼感も感じられる香り。ソフトなアタックで、しなやかなテクスチャー。タンニンは豊かだが丸みがありとても細かい。ジューシーな味わいで、果実がとても生き生きとして感じられる。余韻もフレッシュで、時間と共にスパイシーさが複雑性を加える。ドン・メルチョーより、果実感をストレートに表現している印象。

2つの異なるプエンテ・アルトのワインは、この産地がチリのどこのワイン産地とも異なり実にカベルネ・ソーヴィニヨンの成熟に適しているのかを目の当たりに見せてくれる。興味深いウェビナーだった。(Y. Nagoshi)

輸入元:日本リカー

<付記>

プエンテ・アルトとコンチャ・イ・トロ

1880年代 マヌエル・アントニオ・トコルナルが、ボルドーから初めて持ち込んだブドウを植樹しトコルナル畑を拓く。

1968年 コンチャ・イ・トロがトコルナル畑の一部を購入。

1972年 コンチャ・イ・トロが、プエンテ・アルトの畑のブドウを使用し、マルケス・デ・カーサ・コンチャのカベルネ・ソーヴィニヨンをローンチ。

1984年 コンチャ・イ・トロは、プエンテ・アルトからドン・メルチョーを造ると決定しプロジェクトを開始。1987年が初ヴィンテージで、1988年がワイン・スペクテーターのトップ100に選ばれた。

1995年 シャトー・ムートン・ロッチルドとのジョイント・ヴェンチャーをプエンテ・アルトで開始。

1996年 アルマヴィーヴァの初収穫。

1998年 コンチャ・イ・トロが、プエンテ・アルト畑の3km西に位置するマリスカル畑を購入。

2019年 ドン・メルチョーが独立したワイナリーとなる。

2022年 プエンテ・アルトは世界クラスのD.O.であることを伝えるため、そしてファミリーとテロワールへのオマージュとして、ヘリテージ2020をローンチ。

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