DOカバ、品質重視の新時代へ(セミナーレポート)

カバは今、大きな転換期を迎えている。ICEX(スペイン大使館経済商務部)は、2024年10月2日に「カバ・デ・グアルダ・スペリオール」のセミナーを開催した。登壇したのは、ワイン講師兼ワインライターの小原陽子氏と、京都「THE THOUSAND KYOTO」のシェフソムリエ、岩田渉氏だ。世界のワイン事情に精通する二人が、カバの可能性を解き明かした。

 

講師の小原陽子氏(左)と岩田渉氏。

新たな戦略

カバは“手頃な価格で楽しめるスパークリングワイン”という位置付けで、日本で長年普及してきた。だが「この既存のイメージは、これまでの市場戦略の結果だった。しかし今、それではいけないと見直しが進み、変革の時期を迎えている」と、小原氏はセミナーの冒頭で述べた。カバ原産地呼称委員会は(DOカバ)は2020年、ゾーニング(サブゾーン画定)とセグメンテーション(品質区分)の導入を皮切りに、品質向上を目指した新戦略に着手した。

上級の「カバ・デ・グアルダ・スペリオール」は3種類に分類される。レセルバ(瓶内熟成18か月以上)、グラン・レセルバ(同30か月以上)、カバ・デ・パラヘ・カリフィカード(同36か月以上※)だ。これらは全て2025年から100%オーガニック化が義務付けられる。DOカバが発表した2023年の統計によると、日本は「カバ・デ・グアルダ・スペリオール」の販売本数で上位に位置しており(レセルバは5位/グラン・レセルバは1位)、この事実から小原氏は「日本はプレミアムカバの高いポテンシャルを持つ市場」と評している。

生産体制の透明化も進んでいる。「カバ・デ・グアルダ・スペリオール」では畑での栽培からボトリングまでのトレーサビリティ管理が義務付けられている。さらに2022年、「インテグラル生産者スタンプ」(ELABORADOR INTEGRALと記された円形スタンプ)が導入された。この背景について、小原氏は次のように解説する。「カバの業界構造は、歴史的に『栽培農家』『ベースワイン生産者』『ワイン保存者』『スパークリング製造者』の4つに分かれていた。『インテグラル生産者スタンプ』は、ブドウの圧搾から醸造までの全工程を自社で行う生産者を証明するものだ」。

2023年、カバは3万8,000haの畑から約2億5,000万本を販売した。同年のシャンパーニュは3万3,000haから約3億本、プロセッコは2万3,000haから4億本を販売。この数字を比較しながら「カバは決して大量生産の産地ではない」と小原氏は言う。「手頃」から「高級路線」へ販売戦略の舵を切ることが、カバの生産者の努力を正当に評価するための必然的な一手だと言えそうだ。

※厳格な品質基準により、認定されているのは今なおわずか10銘柄のみ

試飲

試飲では7種の「カバ・デ・グアルダ・スペリオール」が供された。テイスティングを担当した岩田氏は、カバの独自性を、世界の他のスパークリングワインと比較しながら解説。「カバはシャンパーニュと違って、基本的にブドウの成熟に困ることがほとんどない。他の地域のスパークリングに比べると、黄色い果実のトーンを感じられるものが多い。凝縮感のある香りが、他とは一線を画すと思う」と、岩田氏。

世界の瓶内二次発酵のワインの中でも、カバは在来品種を用いるという点も個性の一つである。かんきつの香りと酸の高さが特徴のチャレッロについて「ブラン・ド・ブランのような、線の細い、凛とした味わい」と岩田氏は表現した。 その例となる「ホアン・サルダ ブリュット・ナチュレ・レセルバ 2021」はチャレッロ50%、マカベオ35%、パレリャーダ15%、瓶内熟成26〜30か月。「フレッシュでテンションが感じられる。良い意味でとてもニュートラル」と、岩田氏。

また、カバの特徴的な香りである「ワックス、ゴムのようなキャラクター」は、パレリャーダに由来するものと小原氏は補足する。「パレリャーダは単体で飲むとニュートラルでわかりにくいが、この特徴が一番明確に感じられる。マカベオとチャレッロにパレリャーダをブレンドすることで、つなぎの役割を果たして、ハーモニーが生まれる」と、小原氏。

「ヴァルフォルモッサ MVSA ブリュット・レセルバ 2022」はその特徴を掴める一例。チャレッロ30%、マカベオ25%、シャルドネ25%、パレリャーダ20%、瓶内熟成26か月。先の個性に加えて、「パパイヤ、レモン、アロマティックハーブ、グリーンオリーブ、生の食パンの軽やかな香り。泡の力強さ、存在感もしっかりと感じられる、大胆なスタイル」と岩田氏は評した。

「アルス・コレクタ ブラン・ド・ブラン 2020」は、コドルニウが手がけるレセルバだ。シャルドネ85%、チャレッロ&パレリャーダ15%で構成され、瓶内熟成18か月以上を経ている。このカバを試飲して岩田氏は次のように語った。 「カバは中国料理との相性が抜群だと感じている。とくに広東スタイルの料理や飲茶など。米の皮を使ったもの、焼売のような蒸し料理、ペストリーのような食感のある料理と合わせると、カバがクリーミーに感じられる。カバのブレンドの多様性は、合わせる料理の幅広さにも通じる。飲茶やビュッフェなど、さまざまな料理を楽しむシーンに最適」。

試飲に供された中で、非常に個性的な例と紹介されたのは、「フィンカ・ヴァルドセラ スビラ・パレン ブリュット・ナチュレ 2011」だ。ブドウ品種はスビラ・パレン100%。マルバシーアとも呼ばれる白ブドウ品種で、96か月以上の瓶内熟成。「長期熟成でありながら、とてもアロマティック。ライチ、バラ、ドライベルモット、山椒のトーンもある。非常に苦味もあり、ドライなフィニッシュで、他には見ないタイプで面白い」と、岩田氏。

締めくくりは、ペレ・ベントゥーラの「グラン・ヴィンテージ カバ・デ・パラヘ・カリフィカード 2015」。世界に10銘柄しかない最上級「カバ・デ・パラヘ・カリフィカード」の一本である。「複雑性があり、円熟した一体感のある重厚なスタイル。モカクリームやナッツのキャラクター、しっかりとした旨味に溶け込んだ酸味が特徴的。カバの最上級キュヴェとして、価格に見合う確かなクオリティと味わいのバランスを備えており、星付きレストランでも十分提供できる」と、岩田氏は評した。

(N. Miyata)

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