ワインジャーナリストが探る オールドパーの秘密「マイ ウイスキー、マイ ストーリー」第1回

暑い夏が始まろうとするある日の夕暮れに、ちょっとオシャレなウイスキー・ソーダを飲んだ。ハーブやスパイスのトッピングが新鮮だった。「オールドパー シルバー」のアレンジで、いわゆるハイボールとはまったく別もののプチ贅沢な一杯だった。

その席で、気になることを小耳に挟んだ。

「シルバーは冷やしてソーダで割るのがよいけれど、12年は水割りが一番」

「12年は、カクテル的に飲むにはやっぱりちょっと気が引ける」

 

どうしてソーダではなくて水割りがよく、カクテルじゃあダメなのだろう?

「オールドパー 12年」とは、一体どういうウイスキーなのか。小さな謎を解明するべくインタビューを開始した。

 

<オールドパーの格>

horoyoi『ほろ酔い文学事典』(朝日新書)で、田中角栄元首相がオールドパーを愛飲していた情景が描かれている。

「下駄ばきでオールドパーのオンザロックを片手に庭に出て郷里から送られてきた泉水の錦鯉を眺めるのが、もっとも角栄らしい風景だった」

著者の重金敦之さんにオールドパーについて聞きたいとお願いしたが「『オールドパー』なんか『夢のまた夢』のような代物。悪しからず、ご容赦を」と、一旦断られてしまった。しかし「どうしても」とねばった末に、話を聞く手立てを取りつけられた。

 

ウイスキーにも色々ある。しかし、オールドパーはとにもかくにも最も上質な、高級な品と認識されていた。よく並び評される銘柄があるが「それよりも数段上」だと重金さんははっきりと言う。

何人かの知人から「社用で使うならこれしかない、という存在だった」「最も確かな贈答品」「海外旅行のたびにわざわざ買って持ち帰っていた」と聞いた。「格式の高さ」が誰からも認められていたということだろう。

 

「何かお願いごとをする時に使われていた品で、虎屋の羊羹、千疋屋のメロンも同じこと」だと重金さん。現金をそのまま渡すのでは「はしたない」から、オールドパーのような確かな品を主役に見せて、金包みを添え物のようにして贈るのが当時の「作法」だったという。

「結婚祝いでも今では披露宴の受付で直接祝い金を渡すけれど、昔は結婚式の2、3週間前に自宅を訪れて祝いの品に祝い金を添えて渡すのがしきたりだった。中元や歳暮なら、一筆したためたハガキが届きそうな日を見計らって荷物が到着するよう手配するのが常識だった」。

メールやSNSが発達した今現在からするとちょっともどかしいような気もするが、何とも奥ゆかしい日本らしい慣習に感じ入った。

「接待にしても贈答にしても、実際に喜んでもらえるかどうかより、相手をどう評価しているかを示すのが重要とされていた」とも重金さん。

当時、高級ウイスキーは格が高く、オールドパーはその中でも群を抜いた存在だったのだ。

 

<オールドパーのオーセンティシティ>

hand全日空の機内でサービスされるワインなど飲料のアドバイザーを長年務める井上勝仁さんは、ウイスキーの世界にも明るい。

「オールドパー 12年」はよくご存知だが「オールドパー シルバー」は初対面のようなので、早速味をみてほしいとお願いした。

すると、シルバーのグラスを手にしてお腹の前でゆっくり回し始め、「辛そうですね」と一言呟いた。少し面食らった。

ウイスキーは強いので、ワインの試飲とは違いグラスに鼻を入れるように香りをとりにいってはいけないと教えてくれた。だから、鼻から30cmほど離して立ちのぼる香りを分析していたのだ。

そして「12年はふくよかでまろやかなタイプ」なのに対してシルバーは「爽やかな柑橘系の香りがして、後味がすっきりとしている」との明解なコメントをもらった。

シルバーは、ソーダ割りがお薦めだと聞いているが、「ソーダで割ると、泡の刺激で香りも味わいも更にフレッシュさが強調されるから」だと聞いて納得した。でも「水で割ると、オールドパーらしい甘味が感じられる」という。オールドパーの甘味というのは、どういう意味なのだろうか?

 

今度は12年を味わってもらうと「懐かしい味」だと感慨深げで「こちらは水割りにすると甘味が引き立つ」と言う。アルコール度数が高い状態だと「熱感が増し、刺激が強い」のに対し、「水を加えることで、穀物やピートが本来持っている甘味が出てくる」。

ウイスキーの場合には、一旦穀物のでんぷんを糖分に変えてから、更にそれをアルコールに変換しているのは知っている。

「『オールドパー 12年』は、加水することで中心を射抜くような甘味が戻る。加えるミネラルウォーターが純粋であればあるほど、元の穀物やピートの本質に辿り着く。この点が、オールドパーが他のウイスキーと違うところ」だと聞いて、驚いた。

 

stirすると井上さんは、にっこり笑ってそばにあるマドラーを手にしていた。

「試してみますか?」と、空のグラスにミネラルウォーターを注いだ。

まず、水だけの味を確認した。正真正銘ミネラルウォーターの味だった。

別のグラスに入っている12年の水割りをマドラーでクルッとかき混ぜた。そして、そのマドラーでピュアなミネラルウォーターをひと混ぜした。

「味は変わりましたか?」

慎重に味わった。甘い。確かにほんのりと甘く感じるのだ。12年が一滴分も入っているわけではないのに。

 

「これが本質的なお酒の甘味を見つける一番よい方法」だという。こうすると、素性のよさが出るというわけだ。

「12年には、洗練された甘味、つまり醗酵前の植物がもつ自然で綺麗な甘さが感じられる」。

 

だから「オールドパー 12年」は、水割りが一番なのだ。カクテルに使ったりソーダ割りしたりするのではなく、水割りにして香りを開かせたうえ本来の洗練された甘味を楽しむのが、ふさわしい飲み方なのだ。

かつての政界人が夢中になり格が高いとされた理由のひとつは、この本物志向にあるのだと合点した。(Y. Nagoshi)

撮影協力:表参道「アンクルハット」

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