ボルドー、縮小の一年 ──引き抜き2万1000ha、土地価格崩落、2025年産プリムールの静かな決着

2026年前半、ボルドーをめぐる指標はほぼ例外なく下方に振れた。出荷量は現代史上はじめて300万ヘクトリットルの大台を割り、畑の取引価格はメドックAOCで7年前の5分の1にまで落ちた。その一方で、2025年は34年ぶりの小収量にして評価の高いヴィンテージであり、春のプリムール・キャンペーンはこの条件下で実施された。結果は、市場関係者の言葉を借りれば「中庸」であった。危機と再編が同時に進行するボルドーの現在地を、確定した数字で整理する。

 

300万ヘクトリットルの壁

2025年4月から2026年3月までの12カ月間、ボルドーの出荷量(蔵出し出荷)は約298万ヘクトリットルにとどまった。前年比マイナス12%であり、現代史のなかで300万hlを下回ったのはこれが初めてである。主力のAOCボルドー赤に限れば、2026年4月末時点の販売は88万4000hl、前年比マイナス17%。バルクが18%減、瓶詰めが16%減と、流通経路を問わず縮小した。同AOC生産者組合の会長ミシェル=エリック・ジャカンは、回復の兆しは見られないと明言している。

価格の水準はさらに厳しい。ボルドーの取引単位であるトノー(900リットル、瓶換算1200本)でみると、2025/26キャンペーンのボルドー赤の実勢は700〜800ユーロである。直前の12カ月(2025年4月〜2026年3月)の平均が929ユーロであったから、下落は継続している。これに対し生産コストは1500〜1800ユーロとされる。CIVB広報責任者のクリストフ・シャトーは2025年11月の公開討論で、ボルドーのバルクワインは1リットル1ユーロ、オリーブオイルより安く、時に酢よりも安いと述べ、生産コストを大きく下回る価格での販売が常態化していることを認めた。

下落はジェネリックに限らない。ボルドー・シュペリュールは1360ユーロ、コート・ド・カスティヨンは900〜1200ユーロ(5年前は1200〜1800ユーロ)、サン・テミリオンのジェネリックは3000ユーロ止まり(1年半前は3500〜4000ユーロ)である。バルクの引取量も2025/26キャンペーンでボルドー赤がマイナス5%、コート系がマイナス17%、メドック・グラーヴがマイナス13%、サン・テミリオン/ポムロール/フロンサックがマイナス10%と総崩れとなった。「上位アペラシオンは無傷」という前提は、すでに失われている。

ブラーヌの仲買人ジル・プランスは、仲買業52年目にしてこれほどの生産者の困窮は経験がないとし、従来の在庫過多は時間が解決したが今回は違う、しかもすべてのAOCが影響を受けていると語った。

 

資産価値の崩落

より構造的な問題は、フローの危機がストックの毀損に転化した点にある。SAFER(農地の取得・整備を担う公的機関)の統計および地方紙スュド・ウエストの分析によれば、2018年から2025年にかけての1ヘクタール単価は、メドックAOCが5万5000ユーロから1万ユーロへ81.8%下落した。サン・テミリオンの衛星アペラシオンは9万5000ユーロから2万5000ユーロへ73.7%、オー・メドックは62.5%、ボルドー赤は約61%、ボルドー白は約51%の下落である。

プレミアム・アペラシオンも例外ではない。ポイヤックは220万ユーロから170万ユーロ(マイナス22.7%)、マルゴーは110万ユーロから80万ユーロ(マイナス27.3%)、サン・テミリオンは27万ユーロから20万ユーロ(マイナス25.9%)。2025年単年でみると、マルゴーはマイナス43%、サン・テミリオンはマイナス20%と、下落は直近で加速している。

SAFERジロンド支部長のミシェル・ラシャは、市場が二層に分かれたと指摘する。汎用AOCでは価格が底値まで下がったことで取引が再開した一方、メドックの村名AOCやポムロール、サン・テミリオンでは売り手が値下げを受け入れず、取引そのものが成立していない。実勢価格が形成されない銘醸地が生じているという状況である。畑を担保に借入を行ってきた経営にとって、この資産デフレは即座に債務問題へと転化する。

生産調整のための引き抜きは2万1000ヘクタールに達した

需給調整の中核であるブドウ樹の引き抜きは、当初想定を大きく上回る規模で進行した。2026年6月に公表された報告によれば、2026年5月時点の補助金付き引き抜きは1万2284ヘクタールである。これに補助なしの自主的な引き抜き約8700haを加えると、2023年8月から2026年5月までの累計は約2万1000haとなる。

減反はなお続く。2026-2027年キャンペーンでは国による新たな補助(4000ユーロ/ha)で約8000haの追加が見込まれている。CIVB会長ベルナール・ファルジュは、最終的に合計3万haを失うとの見通しを示している。

結果として、ジロンド県の生産中の栽培面積は2019年の11万5323haから2025年には9万1543haへと縮んだ。2025年単年でマイナス9%(9200ha減)、15年間で2万7000ha、率にして23%の減少である。それでもジロンドはラングドック地方を上回り、フランス最大の栽培県であり続けている。

雇用面の縮小も並行している。ジロンドのワイン産業の就業者は2019年の5万43人から2024年には4万2565人へと15%減少し、雇用主となる事業所は3640社から3000社へと18%減った。

 

2025年産プリムール ── 小収量・高評価・中庸な結果

2025年のジロンドの収穫量は2億9060万リットル、平均収量33.6hl/haで、1991年以来34年ぶりの少なさとなった。直近5年平均の3億5900万リットルは、2011〜2020年の年平均4億8700万リットルを25%、2001〜2010年の5億8100万リットルを38%下回る。アペラシオン別ではポムロール25hl/ha、サン・ジュリアン26hl/ha、マルゴー28hl/haと低く、白ワインは全体で25万〜27万hlにとどまった。ソーヴィニヨン・ブランで50%減となった生産者もある。

気候は極端であった。3月末の早い萌芽、5月中旬の一斉開花、8月の42℃に達する熱波と乾燥、そして8月末の降雨を経て、収穫は例年になく早期に始まった。得られたワインは低pHでアルコールが控えめ、酸が保たれ、タンニンは細やかで、近年の需要動向と整合的なプロファイルを備えている。

UGCB(ボルドー・グラン・クリュ連合)主催の試飲週間は4月20〜23日に開催され、来場者は前年を上回った。価格設定にはこれまでにない規律がみられた。一番手のポンテ・カネは48ユーロと前年から2ユーロ引き下げ、3年連続の値下げとなった(2022年産比では25ユーロ安)。シュヴァル・ブラン、マルゴー、ラフィット・ロートシルトはいずれもシャトー出し280ユーロ(ネゴシアン価格336ユーロ)、ムートン・ロートシルトは約300ユーロ、ラ・ミッション・オー・ブリオンは前年産と同水準(英国市場で6本870ポンド)に据え置いた。

しかし販売は伸びなかった。Liv-exは6月の総括レポートでキャンペーンを「middling」と評し、同社アナリストのソフィア・ギルモアは、成功ではなかったが完全な失敗でもなかったと述べている。好調だったのはシュヴァル・ブラン、マルゴー、ラフィット、バタイエで、キャンペーン後半にはレオヴィル・ラス・カーズとモンローズが動いた。シュヴァル・ブランは1961年以来最小の生産量を全量放出し、完売した。一方、投資分析会社WineCapは、業界が求める価格水準に真に応えた生産者は10社に満たないとしている。

不振の理由は明確である。2025年産の多くが、市場に現物として存在する2019年産・2020年産と同水準の価格でリリースされた。Liv-exのボルドー500指数は2026年5月末までの5年間で16.5%下落し、2016年半ばの水準に戻っている。年初来では横ばいで安定しているものの、「先に買えば安い」というプリムールの前提は長く機能していない。ギルモアは2025年産を2014年産と重ね、市場が上昇局面ではなく安定局面にあるときのリリースであり、瓶詰め出荷の頃には妥当な価格と受け止められる可能性があると指摘する。

品種・カテゴリー・制度の同時改革

供給調整と並行して、商品構成の組み替えが進んでいる。

明確に伸びているのはクレマン・ド・ボルドーである。2025年の販売本数は1368万7000本で、二桁成長を続けている。原料ブドウの79%を協同組合が扱っており、赤の過剰在庫に苦しむ組合の受け皿として機能している。早摘みにより高アルコール化を回避できる点も、温暖化への適応と整合する。

制度面で象徴的なのがボルドー・クレレである。これを現代的に再定義した新しい仕様書が2025年ミレジムから適用された。さらに2026年2月12日、INAO全国委員会は、AOC産の濃縮果汁による最大7g/Lまでの加糖を承認した。AOCワインの仕様書で加糖が認められたのは初のケースであり、INAO全国原産地呼称委員会会長のクリスチャン・パリもその点を強調している。マセラシオンを短くした軽い赤を8〜12℃で供する想定であり、明確に若年層とカジュアル需要を狙う。ただし業界内では、AOCボルドーの正統性を損なうとの批判も出ている。

メドック白も動いた。1936年の制定以来、赤のみを認めてきたAOCメドックに白が加わり、仕様書は2025年2月にINAOが承認、同年7月31日に政令化された。約70の生産者が名乗りを上げ、第1ヴィンテージは2026年のプリムール週間で披露された。シャルドネやアルバリーニョなど7品種の植栽が認められる(ブレンド上限15%)ほか、30%以上の樽熟成、および赤白を問わず環境認証の取得が義務づけられている。

気候変動適応のための新許可品種(VIFA)は、赤がトゥリガ・ナシオナル、マルスラン、アリナルノア、カステ、ヴィドックの5品種、白がアルバリーニョ、リリオリラ、フロレアル、ソーヴィニャック、スーヴィニエ・グリの5品種の計10品種である。栽培面積の5%以内、最終ブレンドの10%以内という上限が設けられ、10〜20年の試験期間を経て統合されるか除外されるかが判断される。

ファルジュは2026年4月の総会で、3年前には減反計画そのものが疑問視され、現在は価格規制の意思や不動産会社の設立、メドックの白・クラレット・アントル・ドゥ・メールの赤といったイノベーションの選択が問われていると振り返り、危機から集団で脱する航路はあると述べた。

供給調整策も継続する。欧州の危機準備金を用いた特別支援により2026年に危機蒸留が実施され、AOCボルドー赤では20万2000hlの蒸留が見込まれる。2026年産の申告可能収量は50hl/haに据え置かれ、EUの新制度を用いて新規植樹許可枠はゼロに設定された。2026年1月には業界団体連名の「ボルドーの呼びかけ」が政府への5項目の要請を行い、2月にはジロンド農業会議所が「Viticulture Cap 2030」として6つの優先課題と35の提案を公表している。

輸出環境も改善していない。2025年12月末までの12カ月間で、ボルドーワインの輸出は136万hl・20億ユーロ、数量マイナス9%、金額マイナス7%であった。中国は数量マイナス34%・金額マイナス27%で11万9000hlまで縮み、数量首位の座を米国(19万3000hl)に譲った。ただしその米国も数量マイナス14%、金額マイナス32%である。2025年8月1日発効のEU・米国合意により欧州産ワインには15%の関税が課され、CIVBはワインの適用除外を求めている。主要市場で明確に伸びたのはカナダ(数量プラス12%、金額プラス18%)のみであった。

日本市場への影響

日本向けは数量マイナス12%、金額マイナス10%で、中国や米国ほどの急落ではないものの、着実に縮小している。

実務上の含意は三点に整理できる。第一に、供給側の縮小が先行するため、低価格帯を埋めてきた汎用ボルドーは棚から消えていく。ただし投げ売り在庫の放出と蒸留処分が同時進行するため、当面の価格は不安定であり、安定調達を前提とした企画には注意を要する。第二に、高評価の2019年産・2020年産が2025年産の先物と同水準で流通する状況は、飲用需要にとっては好条件である。第三に、クレマン、クラレット、メドック・ブランは制度と供給の準備が整った段階にあり、日本市場での需要の実証はこれからとなる。

縮小はボルドーだけの現象ではない

OIV(国際ブドウ・ブドウ酒機構)が2026年5月に公表した年次報告によれば、2025年の世界のブドウ栽培面積は700万ヘクタール、前年比0.8%減で、6年連続の縮小となった。減少幅が最大の国はフランスであり、その中心にあるのがボルドーである。

ボルドーで進行しているのは、単なる生産調整ではない。メルロを中心とした重厚な赤への一極集中から、泡・軽い赤・白へと商品構成を組み替え、品種の選択肢を広げ、土地の保有と流動化を制度的に扱い直す一連の再編である。同時に、引き抜かれた畑の88%が草に覆われたまま留まっている事実、廃業した経営、7478人分の失われた雇用も、この再編の一部を構成している。過剰の時代の出口をどう設計するかという問いに対し、ボルドーは現在、最も早く、最も大きな規模で回答を試みている産地である。

(Toshio Matsuura)

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