チリワインの新しいフェーズ エクストリーム・ウエザーを求めて

日欧EPAが発効してワイン市場の目はヨーロッパワインに向いている。消費者の関心がヨーロッパに向いたのではない。流通関係者が意図的にそうしているのである。量販店のワイン売り場の広さには限りがあるから、ヨーロッパワインを増やせばその分だけチリワインが減る。だから今年のチリワインの輸入量は大きく減少している。

 

しかし冷静に考えてみよう。2月からヨーロッパワインは関税無税になった。チリワインも4月から同様に関税ゼロになっている。条件はまったく同じだ。店頭価格580円のワインを比べてみよう。その品質と供給の安定性を比較したとき、チリワインが優勢なのは明らかだ。だから日欧EPA熱が冷めてチリワインが復旧するのにそう時間はかからないだろう。

 

さて、今回の話は低価格ヴァラエタルワインではない。チリのプレミアムワイン造りが進展して、新しい局面に入った。チリワインにもレストランやワインバーで扱うべきものがたくさん生まれているという話である。

 

シンプルなヴァラエタルワインを造るだけでは未来はない。21世紀を迎えてチリワイン産業は、シンプル・ヴァラエタルからプレミアムへとワイン造りの舵を切った。プレミアムとは何か。購買意欲をそそるもの、割増感がある、あるいは品質が良いという意味である。プレミアムな何かを求めてチリは、陽光たっぷりのセントラルヴァレーの畑から冷たい潮風と朝霧の濃い海沿いにブドウ畑を移して開拓した。あるいは朝夕の冷気を求めてアンデスの麓へと向かった。冷涼な気候は引き締まった味わいで複雑味のあるブドウを育む。栽培品種もカベルネとシャルドネ主体からソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、シラーなどに広げた。畑の畝間に調査用の穴(カリカタ)を掘って土壌の特性と効果的な灌漑方法を見つけ出した。

 

あれから20年。チリのプレミアムワインは欧米の市場で大きな評価を得ている。アジアでも中国や韓国では年々その存在感が増している。ところが日本だけは残念ながら20世紀のまま。大騒ぎした赤ワインブームの頃に売れたチリカベのままである。いまでもシンプルなヴァラエタルワインがチリワイン輸入量の9割を占めている。コストパフォーマンスに優れた動物ラベルの登場で輸入量は急増し、フランスワインを抜いて首位になったが、人々の“チリワインは安もの”というイメージはますます強くなっている。

固まってしまったこのイメージを壊すには実際にプレミアムワインを試してもらうしかない。それで今回は、小売価格1,000円台後半から2,000円台のワインを紹介することにした。

一方、そういう日本の事情をよそに、チリの栽培地の開拓はクール・クライメットの土地から新しい段階へ進展している。新しい栽培地域は、アタカマ砂漠の南にあるワスコ、エルキの標高2,400mのアルコワス、そして年間降水量が1,000mを超える南部のテムコ、オソルノ、チロエ島へと拡散した。太平洋岸の栽培地でも涼しさを通り越した寒い土地にブドウ樹を植えている。それはマウレのエンペドラド、コルチャグアのパレドネス、アコンカグアのサント・ドミンゴ、ロ・アバルカ、アコンカグア・コスタ、サパヤルなどである。

これらの土地に共通しているのは、クール・クライメットを凌駕するエクストリーム・ウエザーである。

 

かつてのチリワインには収穫年の特徴(ヴィンテージ)がそれほど鮮明ではなく、ほぼ毎年のように量的にも質的にも安定した収穫が保証されていた。しかし昨今のチリのブドウとワインにはヴィンテージによる明らかな違いが見て取れるようになっている。

 

つづきはWANDS2019年6月号をご覧ください。
6月号は「夏のスパークリングワイン」「ビール」「チリワイン」特集です。
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