ラングドック・グランクリュの胎動 ピック・サン・ルー

2016 年9 月に独立したアペラシオンを獲得したラングドックの注目のワイン産地。ピック・サン・ルーは1955 年にラングドックでいち早くVDQS の認可を得た後、1985 年にAOC コトー・デュ・ラングドック認可168か村の一つに認められた。しかし、ワイン危機が到来するまでは経済的に十分潤っていたので、独立したアペラシオンで発展させようという機運が盛り上がらず、独立にこだわる栽培家とコトー・デュ・ラングドックのままで良いという栽培家の間で論争が続いた。それで独立AOC を得るのに15 年を要した。

 

「ピック・サン・ルーの栽培家は収穫の多い年はヴァン・ド・ターブルを造り、少ない年は基本収穫量の規定内に収まるAOP コトー・デュ・ラングドック・ピック・サン・ルーを使うという曖昧な対応を続けてきました。ピック・サン・ルーを前面に出して、このアペラシオンを確立しようという機運が栽培家の間で盛り上がったのは1990 年代以降です」。

ピック・サン・ルーのある栽培家はその内情をこのように説明する。

 

AOP ピック・サン・ルーの生産地域はAOPテラス・デュ・ラルザックと隣りあっているが、小高い丘を挟んで隔たっており、歴史、文化に違いがある。ピック・サン・ルーの有力栽培家ドメーヌ・ド・ロルチュスのジャン・オリヤックは次のように説明する。

 

エロー川流域に広がるテラス・デュ・ラルザックは肥沃な土壌で農業が栄え、葡萄栽培でもヴァン・ド・ターブルの生産で財をなしたドメーヌが多く、かつての美しい住居が今も残っています。一方、ピック・サン・ルーは殆どが放牧地で、主として羊を飼って生計を立てていました。オリーヴと葡萄栽培も行われていましたが家計の足しで、主要な収入源にならず農家は貧しい生活を続けていました。テラス・デュ・ラルザックは邸宅に住み、ピック・サン・ルーの農民は羊小屋で生活していました。アペラシオンができてからともに発展し豊かになってきましたが、気質の違いは今も残っています」。

 

AOP ピック・サン・ルーは、赤、ロゼともに少なくとも主要2 品種をブレンドし、シラーが50%以上でなくてはならない。また主要産3 品種の割合が赤は90%、ロゼは70%以上でなくてはならない。また一つの品種が80%を超えてはならない。補助品種クノワーズ、マラステルは10%以下。ピック・サン・ルーの特徴はグルナッシュとシラーが重要な役割を果たしていることだ。ローヌ生まれのこの品種はピック・サン・ルーで特別な個性を表現し、特に香りの点で大きな役割を果たす。また、イベリア半島から持ち込まれた力強いムルヴェードルとピック・サン・ルーのシラーは相性がよく、これにグルナッシュをブレンドすることで構造と熟成の可能性をもたらす。

 

「ピック・サン・ルーの気候は涼しく同時に暑い。つまり他のラングドックのアペラシオンと比べて昼夜の温度差が大きく、雨が降ると量が多い。これがシラー栽培にうまく適応し、新鮮で果実味がありスパイシーなワインができる。他のラングドックに比べて香りにスパイス(とくに胡椒)がはっきり出る」と、地元の栽培家は説明する。

 

ピック・サン・ルーの土壌は、堅い石灰岩、柔らかい石灰岩、礫岩、ドロマイト、崩れた岩石でできた土、泥灰土など様々だが、概して水はけが良く同時に保水力もある。殆ど全ての葡萄畑が地中海沿岸独特のガリーグと呼ばれる低灌木に囲まれている。ピック・サン・ルーの歴史に刻まれる2016年の出来事として、8 月17 日の午後3 時過ぎから約30 分間続いた雹による被害をあげなくてはならない。ピンポン玉大の雹がヴァルフロネス村、ルレ村、クラレ村などの畑に降り、収穫直前の葡萄の房だけでなく生い茂っていた葉を100%完全にもぎ取った。これでピック・サン・ルーの収穫は例年の半分以下に減った。

 

2016 年の収穫を失っただけでなく、2017年の春に芽を出すことはほとんど期待できない。

つまりこれらの畑は実質的に2 年分の収穫を失ったことになる。ピック・サン・ルーの販売は極めて好調で、醸造家のストックはかなり少ない。そんな中で、収穫が半減し、販売するワインがなく、経済的に厳しい状況に追い込まれるドメーヌが出るのではないかと心配されている。(T.Matsuura)

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