ビオディナミ農法のロス・ロブレスをまるごと表現した「エミリアーナ・コヤム2012」

エミリアーナはコンチャ・イ・トロのオーナー家のひとつギリサスティ家が1986年に設立したワイナリーでホセ・ギリサスティがその経営に当たった。チリで初めてヴァラエタルワインを造り、北米市場向けにウォルナット・クレストのブランド名で販売した。

 

1990年代後半に、ホセ・ギリサスティがアルバロ・エスピノサをコンサルタントに迎え、有機栽培とオーガニックワイン造りに本格的に乗り出した。当時のチリはまだヴァラエタルワイン造りが主流で、ブドウ栽培にバイオダイナミック農法を採用するものはいなかった。エミリアーナは1998年からバイオダイナミック農法を取り入れて、いまでは自社所有畑980haに有機認証(バイオダイナミック認証)を得ている。

 

コルチャグアのロス・ロブレス畑は150haの広さに赤ワイン用の葡萄だけを栽培している。シラーとカルメネールが主体で全体の60%を占める。この畑は海岸山脈が東西に横断するコルチャグア独特の地形を利用し、その南向き斜面に開拓したものだ。アパルタとサン・フェルナンドのほぼ中間に位置し、周囲から孤立しているのでバイオダイナミック農法を導入しやすかったという。

 

土壌は花崗岩を含んだ粘土質、斜面の上部は赤い色をした表土で母岩は花崗岩である。これはアンデス山麓の母岩が火山性の玄武岩であるのと大いに異なるところだ。斜面上部は岩や小石の多い崩積土で水捌けがよい。ここにはカベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、プティ・ヴェルドなどを植えている。一方、斜面の下部はティングイリリカ川の運んだ沖積土が多いので、メルロやカルメネールを植えている。

 

(中略)

 

一昨年、エミリアーナの事業を率先垂範してきたホセ・ギリサスティが他界した。いまエミリアーナを造るのは新しい世代である。アルバロ・エスピノサの助言を受けながらワインを造るのは、スペインのバレンシアからやってきた女性醸造家ノエリア・オルツである。ノエリアの造るコヤムはやさしい味わいに変わったように思う。

 

それまでのコヤムは、完熟したフルーツの力強さをそのまま表現したワインという印象だった。実際のところエミリアーナは、畑で育った葡萄をそのままワインにすることを目指してきた。ノエリアが証言する。

「エミリアーナに赴任した時、何か必要なものがあれば申告しなさいといわれたので、当時、私がワイン醸造に必要だと思った材料や購入してほしい機材を書き出し、一覧表にしてアルバロに渡したのですが、アルバロにこれは要らない、これも必要ないと言われてリストが×印だらけになりました。しまいに私はアルバロに、これじゃワインが造れないと泣きついたことを覚えています。ところが、あれからなにも買い足して貰えていないけれど、いまにいたるまで私はここでちゃんとワインを造り続けているのですから驚きです」。

 

つまり、収穫葡萄に何も足さず何も引かずそのままワインにすることがコヤム造りの神髄なのだ。だからともすればコヤムは果実味の凝縮しすぎた重いワインになった。ところが、比較的涼しい収穫年の2011年産のコヤムを飲んで驚いた。とてもフレッシュでエレガント、余韻の長いワインに仕上がっていたからだ。香りにも味わいにも余分なアルコールを感じなかった。2012年産コヤムは、2011年より暖かかったのでアルコール分が少し高い。それでもブドウの瑞々しさはきちんと活きている。(K.Bansho)

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