- 2017-7-3
- Wines, その他 Others

最近、シャンパーニュのメゾンがイギリスにスパークリングワイン用の土地を購入したことがニュースになった。有名なワイン・ジャーナリストが多いイギリスでは、自国のフィズを評価する記事もたくさん書かれている。だから、正直なところ気になる。その中でも、発売当初から高評価を得続けている「ガズボーン」を試飲した。
<2004年にケントにて>
「ガズボーン」はイギリスの南東部、ケントにある。現在イギリスで葡萄畑が集中しているのは南部全域だが、中でも南東部は18世紀から葡萄栽培が行われていたようだ。これから温暖化が進むとともに、さらに葡萄栽培地域が北上していくのではないか、と考える人も出てきている。
この南部でもフランスのシャンパーニュ地方と比べるとずっと北に位置しており、より気候は厳しいはずだ。しかし、近年シャンパーニュ地方ではマロラクティックをしない、あるいは部分的に行うなどする造り手も少し増えてきている。あるいは(温暖化だけが理由ではないが)エクストラ・ブリュットの銘柄も増えてきている。それを考えれば、かつては熟した葡萄が収穫できるイメージのなかったイギリスで、良質ワインが造れるようになったのだとなんとなく合点する。
2004年にここに土地を購入したのは、南アフリカ出身のアンドリュー・ウェーバーだ。当初から品質の高いスパークリングワインを造ることを目的にしていた。そして2006年の初ヴィンテージを2010年にリリースするや、注目の的となった。
醸造を担当するのはチャーリー・オランド。オーストラリア、ドイツ、ニュージーランド、アメリカでワイン造りの経験を積んだ若手だ。不思議なことにフランスでの修行経験はないようだが、ともあれ最新の情報を得て醸造にあたっているのだとわかる。
また、植樹した苗木の多くはブルゴーニュのクローンだ。収穫量を抑え、より成熟し香りの高い果実を得るためだという。試飲しながらワイン的な味わいだと感じた理由はここにもあるのかもしれない。
当初は20haほどの畑だったが、今ではケントに40.1ha、すぐ西にあるウエスト・サセックスに21.9ha所有しているようだ。2013年に裕福なアシュクロフト卿のワイン会社が「ガズボーン」を傘下に収めてから畑を増やし(もう少し増えそう)、醸造所も完備した。しっかりとした資本も入りますます品質向上に集中できるのではないだろうか。
<3つのヴィンテージ・キュヴェ>
ここでは、3つのキュヴェを造っていてどれもヴィンテージものだ。理由は聞いてみなければわからないが、ノン・ヴィンテージは存在せず毎年の気候を反映させたキュヴェで勝負をする。栽培品種はシャンパーニュ地方の主要3品種で、ブラン・ド・ブランはもちろんシャルドネ100%、ロゼはピノ・ノワール100%で、ブリュット・レゼルヴが3品種で毎年ブレンド比率が異なっている。
基本的にすべて手摘みで収穫し、ダイレクト・プレスをして24〜36時間デブルバージュした後、約10日間の低温醗酵をステンレスタンクと一部は古い小樽で行う。マロラクティックは100%。5月から6月頃にティラージュする。丁寧な造りだ。
2011年は春から暖かく成長が早く、9月もドライで暖かで例年より早く10月半ばまでに収穫が終了した。瓶内熟成期間36か月以上。ドザージュ8g/ℓ。
ほんのりとしたトースト香、熟したリンゴ、ナッツ、レモンピール、スパイスなど複雑性も感じる香り。しっとりとしたソフトなタッチで口当たりがよい。ドライで暖かな秋の気候が反映されているのだろうか。
2012年は、芽吹きは早かったが涼しかったり暖かかったりで、開花期は湿度が高く収穫量に影響した。10月初旬から収穫開始。瓶内熟成期間36か月以上。ドザージュ8g/ℓ。この年は、ピノ・ノワール42%、シャルドネ40%、ムニエ18%。
ペストリーやナッツ、リンゴタルトのような香ばしさと、セミドライな桃やベリー系果実も香る。なめらかなアタックで黒葡萄由来の厚みが感じられる。最もワイン的なニュアンスを感じるキュヴェ。
2013年は、春は涼しかったが7月初旬から暖かく開花は短期間で健全に行われた。収穫は少し遅めだったようだ。瓶内熟成期間18か月以上。ドザージュ7.4g/ℓ。
淡いサーモンピンクでプロヴァンスのロゼを思わせる綺麗な色合い。小さなベリーやチェリーを思わせるフレッシュな香りがやさしく立ち上る。ヴィンテージが若いことに加えて瓶内熟成期間が短めだからか、最も果実の爽やかな香りが楽しめる。味わいも繊細でハツラツとしていて親しみやすい。(Y. Nagoshi)
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