Oregon Wine Report/アイデンティティと多様性 オレゴンワインにみるニュートレンドとは?

オレゴンのワイナリーの数は増加し続けており、現在では700を超えるワイナリーがしのぎを削る。アメリカ国内のワインの販売システムは複雑で、その中へ入っていく手間やコストを考慮すると、私のように生産量のとても少ない新しい造り手は、州を跨いで販売活動を行うより、まずは地元ポートランドのレストランやワインショップにワインを扱ってもらおうと試みる。しかし、同じことを考える造り手達は多く、ポートランドのワインショップへ営業活動に行くと、開口一番に「オレゴンのピノ・ノワールはもう充分あるから、これ以上はいらないよ」と言われてしまったこともある。

そんな中で、オレゴンの代表品種ピノ・ノワールではなくあえて異なる品種でワインを造る人々が若手を中心に増えてきている。ガメイ、シラー、カベルネ・フランなどに加え、ヴェルメンティーノ、ネッビオーロ、中には聞いたこともないポルトガルの品種を好んで使う者もいる。リースリングをメインにゲヴュルツトラミネール、ミュラー・トゥルガウなどでドイツ系のワインばかりを造るワイナリーや、シャルドネに特化した生産者など、多種多様なワインを造るワイナリーが増えてきている。

ポートランド市内にあるアーバンワイナリー「サウスイースト・ワイン・コレクティヴ(Southeast Wine Collective)」。ディヴィジョン・ストリートという人気レストランが軒を連ねる道の直ぐ裏手にあるこのワイナリーでは、醸造設備に加えて、しゃれた雰囲気のワインバー兼テイスティングルールがあり、天気がよければ外で軽く1 杯飲みに立ち寄ることもできる。このワイナリーの醸造設備を利用しているのは、Oregon Now のメンバーであるDivision Wine Co. をはじめとして数軒。ポートランドに住み、他の仕事をしながらワイン造りができるのは大きな利点となっている。

主要産地のウィラメット・ヴァレーではなく、オレゴンの南部やコロンビア川沿い、ワシントン州からピノ・ノワール以外のブドウを買い求め、ワインを造る人も増えている。こういったブドウは大抵、ウィラメット・ヴァレーのピノ・ノワールより価格が安い。ガメイで仕込んだヌーボーを瞬く間に売り切ったポートランドのアーバンワイナリーや、卵型のセメントタンクで亜硫酸の使用をゼロに抑えたワインを造る人など、ブドウの調達や醸造の手法も多岐に渡るようになってきた。

日本に帰国した際に訪れたワインショップの主人に、「オレゴンのピノ・ノワールは良いのがあるけど、値段が高いから難しいな」と言われたり、東京の百貨店のワイン売り場に並ぶ高価なオレゴンのピノ・ノワールを目にすると、これだけの値段がつけられているのだから買い手がちゃんと納得するだけの魅力がないといけないな、と強く思うようになる。では一体、オレゴンワインの魅力とはなんだろうか。

 

近年、カリフォルニアやブルゴーニュから資金力を持ったワイナリーが続々とオレゴンに参入してきていて、地元の生産者たちの間では土地やブドウの値段が上がることを心配する声も聞く。その反面、ブルゴーニュの名のあるワイナリーの参入により、オレゴンが世界から注目を集め、さらに活性化することへの期待もある。

例年通り今年も7月にInternational Pinot Noir Celebration(IPNC)が開催される予定だ。このIPNC は毎年7月の最後の週末にワイン生産地ウィラメット・ヴァレーの中心にあるマックミンヴィルで開催されるピノ・ノワールの一大イベントで、今年で31年目を迎える。セミナー、試飲会、ワイナリーツアーなどの豪華なプログラムが用意されているが、イベントの目玉となるグランド・セミナーでは、今年は“The French Adventurers Burgundians making Pinot Noir in Oregon” と題し、ブルゴーニュの醸造家5氏がパネリストとして議論を繰り広げる予定だ。そのパネリスト達とはドミニク・ラフォン(Lingua Franca)、ヴェロニク・ボス=ドルーアン(Domaine Drouhin Oregon)、ジャック・ラディエール(Résonance)、ジャン= ニコラ・メオ(Domaine Nicolas-Jay)、アレクサンドリーヌ・ロイ(Phelips Creek Vineyards)といった豪華な顔ぶれで、すべてオレゴンのワイナリーに関与している人たちだ。

 

マイケル・ローデス氏

今後、オレゴンワインはどのように進化していくのか。また、世界のマーケットの中でオレゴンワインはどのように展開していくのか。その答えのヒントを見つけに、今回、二つの取材を行った。

取材先のひとつは、ポートランドでオレゴンの若手の造り手をサポートするプロジェクトをスタートさせたMichael Rhodes(マイケル・ローデス)氏、そしてもう一つは今年のIPNCにも参加を予定しているワイナリー、Lingua Franca(リングア・フランカ)。このレポートを通して、オレゴンのワイン業界の今が日本のみなさんにも伝わればと願っている。

 

若い造り手達をマーケティング面でサポートするオレゴン・ナウ Oregon Now

ヨーロッパと違い、オレゴンでワイナリーを始める人はほぼすべてが新参者。オレゴンのワイン業界でパイオニアと呼ばれる人たちのジュニア世代が活躍する姿もちらほら見かけるがこれは稀なケースで、畑やワイナリーの設備を親から受け継ぐということはオレゴンではまずない。だから、ワイナリービジネスを始めるのは、裕福な人の場合が多い。

しかし、最近、資金力もない個人がワイナリーを興すケースが増えている。彼らは、ほかのワイナリーで正社員として働いたり、ワインとはまったく関連のない仕事に就き、生活費やブドウの購入資金を稼ぎながら、自分のワインを造っている。最初は知り合いのワイナリーの一角を借りて極少量ワインを仕込んだり、ワイナリー設備を持たない人を対象にしたレンタルサービスを利用してワインを造る場合が多い。他の仕事と掛け持ちをしながら、生産から販売までほぼ一人で行い、徐々に顧客と販売量、そして生産量を増やしていく。運が良ければ銀行や投資家から投資を受けることができ、いつかワインだけで食べていけるようになる。さらに自分のワイナリーを建てたり、畑を所有することを夢見る者もいるだろう。

今回取材したマイケル・ローデス氏は、自然食品スーパーマーケットWhole Foods

Market のワインバイヤーとして働いた後、独立し、2014年からはポートランドでワインショップを営んでいたが、今年、店を閉め、新たな挑戦として「Oregon Now」をスタートさせた。Oregon Now はShiba-Wichern を含む26のワイナリーからなるグループで、マイケルは彼らをマーケティングの面からサポートしていく。8月上旬には第一弾のイベントとしてポートランドで試飲会Oregon Now Wine Fair を開催する予定だ。 (A.Shiba)

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