醸造用ブドウの銘醸地 山梨県穂坂に初めて誕生したマルス穂坂ワイナリー

本坊酒造が2016年11月以来新設工事を進めていた「マルス穂坂ワイナリー」がこのほど竣工し、竣工記念式典と記者会見を行った。

マルス穂坂ワイナリー(山梨県韮崎市穂坂町上今井8-1)は南アルプスや富士山を望む丘陵地にある。本坊酒造にとっては笛吹市石和町の山梨ワイナリー、長野県上伊那郡宮田村の信州蒸留所に続く3番目のワイン醸造所となる。ワイナリーが建てられた場所はかつて優れたピオーネの栽培農地だったところで、地元地権者の理解と協力を得て、穂坂地区では初めてのワイナリーとして誕生した。

総敷地面積1万2912haの中には、グラヴィティフローの設計思想でつくられた鉄骨造り2階建ての醸造棟923.20㎡(延床面積)と、ワインバーやショップ、セミナールーム、事務所、眺望を楽しめる屋上テラスなどの機能を備えたRC造り2階建てのビジターセンター570.123 ㎡という二つの建物が配置されている。用地取得費を含む投資額は約6億円。

挨拶を行った本坊和夫社長は、「マルス穂坂ワイナリーの建設は、韮崎市が進める“赤ワインの丘プロジェクト”の中核ワイナリーとすることを目的としている。本坊酒造は1960年に山梨でワインづくりを始めて今年で57年目となるが、これによって新しいステージに立ったと考えている。マルスは30年ほど前から穂坂の葡萄を中心に据えてワインづくりを行ってきた。この地の日照時間は日本でも有数であり、特に優れた赤ワイン用ぶどう供給地として、『シャトーマルス穂坂収穫』のワインは今日、我が社の看板商品となっている」

「今年は(免許の関係で)醸造ができなかったが、来年から本格的に進める。“良いワインは良いぶどうから”の言葉通りに、ぶどう輸送のストレスが軽減され、ワイナリーもストレスを与えないような設計となっている。本坊酒造の企業理念は“地域に根ざした酒造メーカー” にあるが、新しいワイナリーを通してさらに地域に貢献できるようなワインづくりをめざしていきたい」と語った。

また、来賓として出席した内藤久夫韮崎市長は、「穂坂のぶどうを使い、穂坂で醸造したワインが穂坂の名前を冠してできるということは画期的なこと。韮崎市はワイン特区をとっており、今後マルスを中核としてさらに中小のワイナリーができることを期待している。隣には韮崎市営の自然公園もあるので、これらと連動しながら徐々に6次産業化を進めていきたい」と挨拶した。

“赤ワインの丘プロジェクト”は韮崎商工会議所の発案で3年前にスタート。以来、韮崎市と一体となって推進されてきた。6次産業化に当たっては、地元生産農家のぶどうの委託醸造によるプライベートブランドの開発や、韮崎市内にある大村美術館との連携によるワインとアートのコラボレーションも施策の一つとされ、市営の循環バスをマルス穂坂ワイナリーと大村美術館巡りができるように延ばすほか、将来的にワイナリーが増えてくれば、安い運賃でワイナリー巡りができるようなワインタクシーの導入なども検討されている。

 

小仕込み可能な独自設計の醸造機器を備えたワイナリー

石和のマルス山梨ワイナリーでは2017年実績で原料生果約400t(内、穂坂地区のぶどう約170t)を処理してきたが、今年からはワイン醸造をすべて穂坂ワイナリーに移行させ、2018年には約450トン(同200t)を醸造。石和のワイナリーは熟成、瓶詰め、出荷機能に特化させる計画だ。

「穂坂ワイナリーの生産能力は600t以上あり、最終的には600~650tをここで生産したい。将来的には瓶詰め、出荷機能も穂坂のワイナリーに移行させることも考えているが、石和では現在ウイスキーの熟成、出荷も行っており、石和と穂坂の経営上の役割分担を見極めつつ、移管のタイミングを計っていきたい」と、取締役甲信事業部長の久内一氏。

傾斜面の地の利を生かしたマルス穂坂ワイナリーは、上層階からぶどうを搬入し、タンク等の醸造設備はすべて半地下の一段下がったところに配置。極力ポンプを使わないで醸造工程が進むように工夫されている。一日当たりの原料ぶどう処理能力は25t。醸造機器は基本的に独自設計に基づいて造られており、除梗破砕機2器のうち、小型のものは欧州系品種専用として、メッシュが小さいフィルター付き。また、圧搾器2器のうち、白ワイン用は酸化防止のための不活性窒素ガス置換型を採用。デブルバージュに使われる果汁用タンクは3器。2000ℓの小仕込み用を主体にしたステンレス製発酵タンク全37器のうち22 器が新造されすでに設置済み。残り15器の発酵タンクと除梗破砕機、圧搾機は近く石和のワイナリーから移設する予定だ。

「マルスにおけるワインづくりの最大のテーマは、風土の味をワインに反映させること。新ワイナリー建設は造り手としての永年来の夢であり、いずれは東の勝沼、西の穂坂と並び称されるようなワイン産地となることを目指す。これによって、山梨ワイン全体のさらなる品質向上と韮崎の地域振興に貢献していきたい」と、久内部長は語る。(M. Yohino)

つづきはWANDS2018年2月号をご覧下さい。ウォンズのご購入・ご購読はこちらから 紙版とあわせてデジタル版もどうぞご利用ください!

WANDSメルマガ登録

関連記事

ページ上部へ戻る