- 2018-5-7
- Wines, フランス France
南仏モンペリエの街から30kmほど南西にトー・ラグーンがある。フラミンゴの生息地として知られる潟湖で、牡蠣の名産地でもある。牡蠣といえばシャブリだが、地元の人はわざわざ遠い産地のワインを買いに走ったりはしない。このすぐそばで牡蠣におあつらえ向きの白ワインが生まれているからだ。それがピクプール・ド・ピネであり、このAOCの筆頭生産者のトップ3に挙げられるのがドメーヌ・フェリーヌ・ジュルダンだ。
ドメーヌ・フェリーヌ・ジュルダンは、この周辺3ヶ所に畑を所有しているようだ。クロード・ジュルダンがドメーヌ・フェリーヌを1983年に購入してこの名前がついた。ジュルダン一族は、何世代もラングドックでワイン造りをしてきたという。ピクプール・ド・ピネがAOCに認定されたのが1985年なので、その噂を聞きつけてドメーヌを購入したのか、あるいは彼らの努力がAOC認定に貢献したのかもしれない。
ピクプール・ド・ピネの生産はおよそ協同組合によるものだったようだ。その中で、数軒の小規模生産者が品質向上を目指して奮闘した。そのひとつがこのフェリーヌ・ジュルダンなのだ。
まずここのスタンダードのピクプール・ド・ピネの味見をして、素直に美味しい! と思った。香りは清々しく、酸が綺麗でフレッシュながら鋭角的には感じない。まさに新鮮な魚介類が食べたくなる味わいなのだ。きっと大半の日本人の口に合うに違いない。
最近、カクテル関連の取材をしていてわかったのだが、やっぱり日本人は爽やかな味わいの飲み物が好みに合うようだ。それでいて、ここのピクプールは薄っぺらさがなく味わいがしっかりしている。
想像するに、(量的には比較にならないが)ソアヴェの例に似ているのではないだろうか。ソアヴェも協同組合が主流でそこそこの白ワインを多く造っていたが、小規模生産者が味わい深いワインを造り始めて品質の底上げがなされ、イメージが随分変わった。
ピクプールは、成熟が遅めの品種で樹勢が強く、地中海性気候と粘土石灰質から砂質土壌に適する品種で、酸が高いことが特徴のひとつだ。ジュルダンは「フェノリック・マチュレーション」を重要視しているようだから、収穫量や収穫日を厳格にコントロールしているのだろう。収穫後の醸造においても、すべての工程において温度コントロールをきっちり行い、ピュアな果実の特性を逃さないように気を配っていると想像される。センスのいい造り手だ。
樹木のラベルのイメージそのままに清々しい香りで、柑橘類やレモングラスのような爽快な香りが立ち上る。アタックはなめらかで、とてもフレッシュな酸が心地よく後味が塩レモン的な印象で、まさに魚介類が食べたくなる。
2016 Picpoul de Pinet Féline
こちらも清々しさを感じるが、より厚みがある香りで少し閉じている。なめらかなアタックでオイリーさも感じられ、酸もしっかりしている。まだ若くて硬い状態で、よりタイトでテンションが高い。ほのかな収斂性も。複雑さや旨味、花の香りが加わる。魚介類でも温かい料理が似合いそう。
2016 IGP Pay d’hérault Coteaux de Bessiles Muscat Sec
ミュスカのアロマティックな香り。繊細で程よい軽快感があり、ドライだがタイトすぎず適度なソフトさがあり、口中でジャスミンやマスカット系の香りが広がる。
2016 Languedoc White
95%ルーサンヌ+5%ピクプール。香りは若干控えめで、桃や柑橘類が感じられる。柔らかなアタックでボリュームも感じられ、酸はフレッシュだが全体にソフト。後味のキレはよい。
2016 La Grif White
60%ヴィオニエ+20%シャルドネ+20%ルーサンヌ。グラスに注いでしばらくしてから花や柑橘類の香りが出てくる。なめらかな口当たりで、全体にふっくら豊かな印象。酸はフレッシュで後味にミネラリーさが残るが、全体にオイリーな印象。
フェリーヌ・ジュルダンを飲みながら、何年か前にラングドックを訪れたことを思い出した。遠くに海を臨む部屋で、皆で生牡蠣を頬張った。たっぷりの生牡蠣が、あっという間になくなっていきちょっと焦った(私、もしやひとつも食べられないかも? と思うほど皆の手が早く伸びたので)。その時はピクプール・ド・ピネではなくラ・クラープの白(ラ・クラープは2015年からAOCでブールブランが主体)だったが、やはり綺麗な酸のあるワインで牡蠣とよい相性だった。例えば、ギリシャのサントリーニ島のアシリティコもそうだが、海に近い場所に残っている伝統白品種は酸がしっかりしている。これらはどれも海風を受けながら育っている。雨が少ないながら、海風が温度調整するだけでなく適度な湿気をもたらしてくれることが重要なポイントだ。海の恵みを受けて育つから、魚介類が食べたくなる味わいなのかどうかと言われれば、答えられないが、ともあれ素敵な組み合わせであることに違いない。
新鮮な魚介とピクプールを是非お試しあれ! (Y. Nagoshi)
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