昔から料理でもお菓子でも何か手で作ることが好きだったことが始まりで、カクテルの世界に入ったという後閑信吾さんは、知人からの薦めもあり23歳で単身ニューヨークへ渡った。いくつもの壁を乗り越えなければならなかったニューヨーク滞在中に、バカルディ レガシー カクテルコンペティションで世界一のタイトルを手にした。29歳の時だった。現在、上海で展開する2店舗も盛況で各国を駆け巡る生活には変わりはないが、今年6月半ばに渋谷でThe SG Clubをグランドオープンさせた。
日本のバー、海外のバー
各国のバーテンダーとの親交があり、ニューヨークと上海も知る後閑さんに、日本のバー文化が他国のそれと比べてどうかと尋ねた。すると、大きな違いを感じているという。
日本の場合、戦後に独自のバー文化が発展したため、他国のバーとは存在感が異なるようだ。「日常的な居酒屋とは逆の存在かもしれない。バーは特定の人のための場所で、特別な時に、静かに時を過ごすところ。心のよりどころ、という感覚だろうか。加えてバーテンダーの技術が高く、サービスが行き届いている」。素晴らしい場所ではあるのだが、反面緊張感を伴うイメージがあり敷居が高いと感じる人も少なくないようだ。
それに対し、例えばニューヨーカーのバーの捉え方は「賑やかで楽しい場所。スケジュールがタイトな人が多いので、カクテルは1、2分で出せるように準備がしてある。早く出てくる分、日本ほどの丁寧さに欠けるかもしれないが、お酒もカクテルも知らない人でも全く抵抗感なく入れる雰囲気がある」。
だから、日本に帰って自分が店をオープンさせるなら、両者がもつよさをうまく組み合わせられないか、と考えた。ホスピタリティに溢れ、エンターテイメント性もあり、格好よく、楽しくてしかも美味しく飲める、3拍子も4拍子も揃った店を構想した。「日本のフーディーはまだワインにしか関心のない人がほとんどで、バーには行っていない」、とも感じているため、そこにもメスを入れたいと考えている。
コンセプトの重要性
バーを立ち上げる時に、最も重要なのはコンセプトだ、と後閑さんは言う。
店名The SG ClubのSGとは、Shingo Gokanだと思いがちだが、Sip & Guzzle=ちびちび飲む&ごくごく飲むを表している。1階がカジュアルに楽しめるGの場で、ガラス張りで通りからも店内が見える。地下1階がSで、何年もかけて蓄積してきたクリエイティブなカクテルをゆっくり味わってもらう空間に仕立てられている。
(中略)
ある人から「バー業界の黒船」と言われたことがあるという。それだけ期待値が高いという証だろう。少子化や若者の酒離れ、アルコール飲料の消費減少など含め、後閑さんも今後のバー業界の行方を心配している人のひとりだ。オーセンティック・バーやホテル・バーの存在は日本のバー文化には欠かせない。しかし、若い層にバーの世界に一歩足を踏み入れてもらうには、扉を開けて待っているお店が必要なのだろう。バー業界の将来への風穴を開けてくれるに違いないと、多くの人が後閑さんの帰国を待ち望んでいたようだ。(Y. Nagoshi)
中略部分はWANDS 2018年7&8月合併号
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