ヴォ―ジュ山脈の東西に位置する蒸留所 ヴォ―ジュの水と風が育むウイスキー

フランスの各地で近年、ウイスキー造りに情熱を注ぐ生産者が軒並み増えている。水源にも恵まれ、穀物も豊富で、製麦や醸造、蒸留、熟成に必要な道具やノウハウも持ちあわせているのだから、当然の成り行きともいえるだろう。特にブルターニュやアルザス地方は、欧州共同体の規約でIGP、地理的表示が認められ、ますます勢いに乗っている印象だ。今回はそのアルザス地方と、ヴォ―ジュ山脈を隔てて西側に位置するロレーヌ地方の生産者を訪ねた。フランスの東北部、ヴォ―ジュ山脈の源で育まれるウイスキー造りをレポートする。

アルザスでウイスキーが造られるようになったのは、ここ20年くらいの話だ。1980年代中盤あたりから、すべての素材をフランス産にこだわった「フランス産ウイスキー」の生産が、ブルターニュ地方から広まり始め、アルザスにもその流れが伝播した。アルザスはフルーツの蒸留酒造りが歴史的に盛んであり、大手ビール会社も拠点にするなど、ビールの生産地としても栄えてきた。すでに素材も道具もノウハウも整っていたからだ。そして2015年に、それぞれ異なる内容ではあるものの、アルザスとブルターニュが揃って欧州共同体の規約による地理的表示が認められるに至った。

 

「スコッチ」や「アイリッシュ」のように、現在はラベル上に「ウイスキー・アルザシアン(Whisky Alsacien)」「ウイスキー・ダルザス(Whisky d’Alsace)」という表示が可能となったのだ。IGPが認められた当初はアルザスのウイスキー生産者は3軒ほどだったが、現在は約10軒が生産しており、数年後にはさらにその数は増えるとみられている。アルザス産ウイスキーの各工程におけるIGP規定の主な特徴は次の通りだ。

 

  • ■地理的エリア
    麦芽化した大麦の破砕、醸造、発酵、蒸留、熟成、加水、仕上げ熟成は、地理的エリアであるアルザス地方のオー・ラン県、バー・ラン県で行われる。また使用する水もエリア内で汲んだものを使用する。
    ■穀物
    麦芽化した大麦のみを使用。遺伝子組み換え種は禁じる。
    ■醸造
    麦芽化した大麦の糖化において、内在する酵素のみで行うこと。
    ■発酵
    発酵には、時間調節を目的とした暖房装置や化学製品の使用はできない。麦汁の糖度をあげることを目的としたすべての添加物は禁止。
    ■蒸留器
    単式蒸留器、またはプレートが3段以下の連続式蒸留器で行われる。蒸留器の容量は25ヘクトリットルを超えない。
    ■蒸留方法
    単式蒸留器でも連続式蒸留器でも、最低2回蒸留する。火入れは直火式、もしくは外部二重ケーシングの蒸気を吹き込む間接式で行われる。蒸留液のアルコール定量は、純アルコールの60~80%であること。
    ■貯蔵庫
    自然の湿度や温度であること。
    ■熟成
    オーク樽による3年以上の熟成。その後の熟成には他素材の樽の使用も可。
    ■加水
    加水は任意によるもので、40~65%のアルコール度数まで。
    ■仕上げ熟成
    ■色付けは禁止。
    ■ラベルの記載
    「シングルモルト」の記載は、「ウイスキー・ダルザス(Whisky d’Alsace)」や「ウイスキー・アルザシアン(Whisky Alsacien)」であると同時に、醸造や発酵が同一の場所で行われ、同一の蒸留所で蒸留された場合に可能。

以上がアルザス産ウイスキーのIGP規約の主だった内容で、比較的厳格な印象を受ける。例えば、欧州全体のウイスキー生産の規制では、熟成の仕上げにカラメルを使用した色付けがわずかながらも可能だが、アルザス産を名乗るためには、色付けは一切禁止となっている。また素材も大麦だけに限定されている。一方ブルターニュ地方で使用できる素材は、大麦だけでなく、ライ麦やトウモロコシ、そば粉、燕麦などさまざまで、より大きめの容量の蒸留器が認められている。これは革新的な味わいを目指すと同時に、量産することも目的なのだろう。その点アルザス産は、小規模で職人的な造りを尊重し、真正性を追求する方向性と言えるだろう。(T.Inoue)

 

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