ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密「マイ ウイスキー、マイ ストーリー」 第4回 

〜食後酒から食中酒へ 後編〜

「まな板削り&包丁研ぎ」を仕事にしている人が、こんなことを言っていた。「まな板と包丁は夫婦みたいなもの。まな板が綺麗にまっすぐでないと包丁はすぐダメになるし、包丁がよく研がれていないとまな板が傷つくし。だから両方ちゃんと手入れしないとね」。

お酒と料理の関係もそうなのかもしれない。ニュージーランドで美味しい料理に出くわして感激していたら「食の質が上がったのは最近のこと。ワインの生産が盛んになるにつれて良くなってきた」と、20年近くニュージーランドに住んでいる知人が言っていた。スペインバルセロナ郊外で取材中に、最近洗練されたスペインワインが増えたね、と造り手さんに言ったところ「スペインのガストロノミーが進化したからね」という。お互いに、刺激し合う関係にあるのだと合点した。

 

<Helmsdale 〜スコットランドよりも美味しくスコットランドらしい、スコティッシュ・ガストロ・パブ〜 @南青山>

オーナーの村澤さんは篠山紀信に激写された人のひとりで、この本の冒頭に登場している

オーナーの村澤さんは篠山紀信に激写された人のひとりで、この本の冒頭に登場している

「ワインを知らずしてウイスキーを語るなかれ」

ガストロ・パブの草分け「ヘルムズデール」を1996年に南青山でオープンし、軽井沢でも店を構える村澤政樹さんは、これが持論だという。

村澤さんは20年以上前、世界最優秀ソムリエ田崎真也氏のプロ向けの特別な試飲講座に席を持っていたことがある。当時の同級生は今のそうそうたるソムリエ陣で、バー関係者は1人だけだった。すべてブラインドで試飲して、コメントしていく。当時ワイン用語が身についていなかった村澤さんには、相当な刺激となったようだ。その経験から、ウイスキーもワインのように色々な言葉を使って表現していけば、また違う展開になるのではないかと考えている。

村澤さんはそう言うが、ワインの巧みな表現も近年の現象だと聞いたことがある。田崎氏の次に世界最優秀ソムリエに輝いたドイツのマルクス・デル・モネゴ氏曰く「50年前はワインの世界でも香りや味わいの表現に使っていた語彙はとても少なく、rich(豊か)、 opulent(贅沢な)、 usual(ありきたりな)、 unusual(並外れた)ぐらいだった」。

ともあれ村澤さんは「ワインが料理のレベルを上げ、他の酒類にも影響を与えてきた。それに料理と酒の進化は比例する」とも感じている。この「ガストロ・パブ」というコンセプトも、「酒は料理とともに楽しむべき」と言うポリシーがあってのことだ。

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右が568mlあるパイントグラス。これで3杯飲めば一升瓶も空になる、という大きさ

そんな村澤さんにとって「オールドパー シルバー」の登場はとても新鮮に映った。「オールドパーといえば、昔は社長や政治家をはじめ『偉い人が飲むウイスキー』というイメージだった。でも今の若い人はそれは知らないし、ウイスキーはカッコイイというイメージは持っている。だから『シルバー・ボール』としてソーダ割りを若い人に薦めやすい」。

スコットランドの流儀にのっとって、パイントグラスでシルバーが出てきた。568mlも入るおおぶりなグラスだ。ちょうど今が旬の尾道産のレモンの果汁とピールも添えられた。喉を潤してくれるとともに、爽快な香りが広がった。

自慢の料理はまさに本場仕込みで、現地に行ったことのある常連さんに言わせれば「現地よりも美味い!」。村澤さんは、スコッチのおつまみとして定番の「ハギス」を薦めてくれた。ハギスとは、羊肉の様々な部位のひき肉を使ったスコットランドの伝統料理のひとつだ。「ハギスパスタ」と「ハギスボンボン」。今現地で大人気だというハギスボンボンはハギスのメンチカツのようなもので、スパニッシュガストロノミーの影響を受けたモダンなおつまみ。

「シルバー・ボール」は、スモーキーな香りによく合い羊肉のまったりとした食感を爽やかにしてくれる。

「すっきりとして飲みやすい。新時代に相応しいウイスキー」だと、某社のドライなビールの開発に匹敵する快挙だと絶賛していた。

【Helmsdale】

東京都港区南青山7-13-12 南青山森ビル2F  03-3486-4220

 

<Bar Libre 〜最前線を行く、エル・ブジ的(?)モダンカクテルを飲めるバー〜 @池袋>

「シルバーは何を加えてもバランスが崩れないから、カクテルを作りやすい」というのは、新進気鋭のバーテンダー清崎雄二郎さん。池袋の東京芸術劇場のすぐ近くの地下にあるバー「リブレ」のオーナーバーテンダーだ。

ここのカウンターの隅には、遠心分離機、ドライフルーツなどが作れるデハイドレイター、それにエスプーマを作る機材もある。まるでモダンなレストランのようだ。東京の数あるバーの中でも、これら最新の調理器具をいち早く取り入れた人だという。

librefinishこの「リブレ」では、ワインと料理のマリアージュのように、カクテルやウイスキーと料理のペアリングを楽しんでほしいと、料理メニューも充実している。

「ワインはもうできあがっているもの。でも、カクテルも料理も、相手に合わせて作れる」から面白いという。特に留意するのは「香りの相性」で、単純にスモーキーな香り同士を合わせる、というだけではなく、互いに引き立て合うバランスが大切だと考えている。

例えば、牡蠣の燻製はシルバーのソーダ割りととても相性が良かった。実は燻製そのままではなく、おろした柚子の皮を軽くふりかけてあったという。まさに見事な「隠し味」だった。

クセのあるお酒は、カクテルベースにするにはバランスをとるのに苦労する。しかし「オールドパー シルバー」は、やわらかで甘みと酸味のバランスがよく、カクテルに仕立てやすい。「カクテルバーテンダーの味方。何とでもいけるので、フリーザーには必ず入れておくべき1本」だと、手放せない様子だ。

そう言う清崎さんが、こんな3つのカクテルを作ってくれた。

1)カーボネイトシェイカーに、オレンジ・フラワー・ウォーターとマイナス6℃に冷やしたシルバー、そして炭酸を注入してソーダに仕上げたカクテル。オレンジの花がアロマティックで爽やかな口当たりで、最後にシルバーの香りが広がった。

 

2)特別な炭酸入りの氷を敷き詰めたグラスに、シルバーを注いだスペシャル・ウイスキー・ソーダ。アルコール度数が高いほど氷が溶ける速度がゆっくりだという。最初は冷たく濃厚な味わいで、氷が溶けていくにつれ徐々にシュワシュワと泡を感じる。ただ、普通のソーダのような泡ではなく、ウイスキーとの一体感があるクリーミーな泡で、食感も楽しい。

3)オーストラリアのタスマニア島産フィンガーライム、という珍しい果実と卵白を使った、とてもクリーミー且つ酸の爽やかなカクテル。

どの一杯も美味しいというだけでなく、ちょっとしたサプライズが隠されていた。おつまみとの好相性で更に美味しい思いをできるので、カクテル一杯で、「美味」「サプライズ」「マリアージュ」と、3つも楽しみがついてくることになる。

燻製の盛り合わせ。左上が牡蠣の燻製

燻製の盛り合わせ。左上が牡蠣の燻製

【Bar LIBRE】

東京都豊島区池袋3-25-8 相馬屋ビルB1F   03-5956-6406

バーという存在は、食事の前に待ち合わせがてら食前酒を飲みに、あるいは食後にデジェスティフを飲みに行く場所だと思っていた。しかし既にウイスキーやカクテルの食中酒としての姿が、構築され始めていた。近いうちに、ウイスキーと料理のマリアージュ本も出てくるのかもしれない。「オールドパー シルバー」は、この潮流の牽引役になるに違いない。(Y. Nagoshi)

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第1回 〜オールドパーの格とオーセンティシティ〜

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第2回 〜世代を超えてオールドパーを選ぶ理由(わけ)〜

ワインジャーナリストが探るオールドパーの秘密 第3回 〜食後酒から食中酒へ 前編〜

 

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