サントリー4番目の蒸留所 焼酎の世界に新しい風を吹かす“大隅”

大隅半島の自然と人、ウイスキー造りの技術が生んだ香り高い芋焼酎

サントリーグループ(100%子会社)の焼酎蔵、大隅酒造(鹿児島県曽於市)では、本格芋焼酎の原料となるさつま芋・黄金千貫の収穫と仕込が最盛期を迎えている。今年2月から業務用市場で先行販売している本格芋焼酎「大隅〈OSUMI〉」は、本場鹿児島の伝統製法に、サントリーならではの蒸溜技術を取り入れて開発した新ブランド。9月時点で既に計画を上回る25,000ケースを達成し、当初の倍になる4万ケースを目指す。本格焼酎の魅力を発信する取り組みに力を入れるなかで「焼酎の世界に新しい風を吹かしたい」(渡辺欣也社長)と意気込みを見せる。

左から斯波大幸工場長、鹿島秋人会長、渡辺欣也社長

 

 【ウイスキー技術を取り入れ、新たな世界切り開く大隅酒造】

大隅酒造は、114場も蔵元がある焼酎大国・鹿児島県の、大隅半島の付け根にあたる曽於(そお)市大隅町で2005年設立。2014年に100%サントリーの子会社になった。生産数量は100石(18kl)/日、年間では3052kl、蒸溜日数267日(18年実績)。従業員は16名。

「大隅〈OSUMI〉」の製造は、まず一次原料となる国産米を洗い蒸した後、麹菌を混ぜ約40時間かけて麹に仕上げる。温暖な南九州では雑菌が繁殖しないよう、クエン酸を生成する黒麹を使い、酸のしっかりした麹を造ることが重要になる。

一次仕込では、この仕上がった麹と水、酵母をタンクに入れて発酵させる。酵母は、香りがよく出て芋焼酎にマッチした「鹿児島2号」を使用。5日位で白い甘酒様のドロッとした状態になる。これを一次もろみという。一次仕込の最終時でアルコール度数は17%程度。

ステンレス製の蒸留器が4基並ぶ

一方で、二次原料となるさつま芋(黄金千貫)は、洗浄の後、作業台で人の手で選別する(トップ画像:選別しているところ)。傷んだ所を取り除き、蒸した時に中心まで火が通るよう同じ位の大きにカットする。この選別加工の良し悪しが最終製品の品質に大きく影響する。地元の人達の熟練の技が必要な工程だ。選別加工された芋は、蒸気を入れて一時間かけて蒸し上げる。その後20~30度まで冷まして粉砕する。一年中蒸溜する所では、この状態で芋を冷凍保存するが、大隅酒造では、この出来立ての芋のみを使うという。

2次仕込中。黒く見えるのは黒麹の胞子

二次仕込では、タンクに一次もろみと処理の済んだ二次原料、水を加える。これを二次もろみと言い、約9日かけて発酵がほぼ終了した二次もろみを単式蒸留器で蒸溜。ステンレス製の蒸留器が4基並ぶ。1基に7トンのもろみが入り、午前と午後に1回ずつ蒸溜する。ここにサントリーならではの蒸留技術がある。ウイスキーの知見・技術を取り入れた独自製法である“香り厳選蒸溜”。芋の甘い香り成分だけを抽出することで、香り高い味わいを実現した。

蒸溜後の原酒はうま味を残しながら雑味を取り除くため濾過し、タンクで貯蔵して熟成させる。通常約4〜5か月寝かせて味をなじませてから瓶詰めする。

 

【香りに出る、芋の出来栄え】

3月から5月にかけて植えられた芋は、お盆明けから収穫が始まり11月末位まで続く。肌が黄色の黄金千貫はでんぷん質を多く含み、元々はでんぷんを取るための芋だったが、今ではこれが芋焼酎のスタンダードになっている。1株に1㎏位の芋ができ、こぶし大(300~500g)以上の大きさの芋を使う。この辺りの土壌は黒ボクという火山灰で柔らかく水はけが良く芋の栽培に向いている。

黄金千貫の栽培農家 出水剛さん

今年の作柄について、栽培農家の出水剛さんは「雨が多く、成長が遅れるかと思われたが、いい状態で生育し豊作となった」と話す。大隅酒造では、新鮮な芋を使いたいので大隅半島の芋、特に曽於市の芋を使用しているのだという。「芋の大きさは酒質には影響しないと個人的には思っているが、芋の出来は香りにでる」と斯波大幸工場長。

 

【“香り厳選蒸溜”で新たな価値提案を】

「大隅〈OSUMI〉」の開発背景や販売動向などについてはサントリースピリッツ輸入リキュール・スピリッツ・焼酎部の鈴木崇資課長が説明した。

サントリーの推計では、業務用の焼酎市場は約1000万ケース(8.64ℓ換算)で、ビールに次いで2位の規模。月1以上の外飲み飲用者は焼酎1019万人(推計)でハイボール914万人とそれほど変わらないのに対して、一人当たり飲用杯数は約2倍の23杯/月あり、奥行きのある巨大市場と見ている。

約1000万人の焼酎飲用者の中で、乙類飲用者は950万人、うち芋焼酎飲用者は660万人と大きい。芋焼酎に対する嗜好は10年前の好みと逆転し、「香り甘やか&後味すっきり」の商品が伸長している。

こうした状況を背景に、香り・キレを特長とした美味しい芋焼酎「大隅〈OSUMI〉」を造り上げた。本格芋焼酎の本場・鹿児島の伝統製法と、サントリーならではの蒸溜技術によるこだわりの製法“香り厳選蒸溜”で共同開発。デザインはサントリーらしい上質感・高級感があり、国産プレミアムウイスキー「山崎」「白州」のデザインフォーマットが生かされている。

“香り厳選蒸溜”は、サントリーのウイスキーの知見・技術を取り入れた独自製法。芋焼酎は蒸溜するときの香味変化で、一番最初に「華やかな香り」、二番目に「ほくほくした芋の甘味・コク」があらわれ、三番目に「焼酎臭さ(脂肪酸など)」、最後に「焼酎臭さ・焦げ臭」が出てくる。通常の芋焼酎は三番目までを使うが、「大隅〈OSUMI〉」は二番目までのものだけを使用。芋の甘い香り成分だけを抽出することで、香り高い味わいを実現した。

1. 地元食材のさつまあげとがね(芋のてんぷら)

斯波大幸工場長によると「『大隅〈OSUMI〉』は、ふかし芋のようなふっくらした甘い香り、口あたり滑らかで芋の味わいがひろがり、甘い味わいを感じながら、最後はすーっと消えていく。飲み疲れない味わいが特長。お勧めの飲み方は、香りやキレをストレートに堪能できるロック、水を加えることで香りが開き食事を引き立てる水割り。アレンジとしては、緑茶割りをお勧め。大隅のふっくら甘く華やかな香りに緑茶の爽やかな香り・旨味が加わることで、よりまろやかで香り高さがアップする」という。(K. Hosogai)

 

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