シャトー・メルシャンの新機軸 椀子(マリコ)ヴィンヤードのロゼワイン

「しっかりした日本のロゼ、椀子(マリコ)のロゼ造りに腰を据えて取り組みました」。

シャトー・メルシャンのチーフ・ワインメーカー安蔵光弘が、新しいロゼワイン「シャトー・メルシャン マリコ・ヴィンヤード ロゼ2016」を解説した。

 

すでにシャトー・メルシャンは「アンサンブルももいろ」というロゼワインを2005年産から造っている。当時からマスカット・ベーリーAを少量ブレンドし、「ももいろメルロー」を名乗っていたが、2012年産から品種名を抜いて「アンサンブルももいろ」に変えている。

 

「アンサンブルももいろ」と「マリコ・ロゼ」の違いは何か。

ももいろは日本の四季と豊かな食材に合わせて日本ワインを楽しむというコンセプトのもと、長野と山梨のブドウをブレンドして造った軽快でうまみのあるロゼだ。一方、マリコ・ロゼは椀子(マリコ)ヴィンヤードの黒ブドウだけで造るシングルヴィンヤード・ロゼ。椀子(マリコ)の特徴のあるテロワールをそのままボトルに詰めたもので、熟したニュアンスの重めのロゼワインである。

 

「軽快なロゼ、熟した重めのロゼ。ロゼワインにはいろいろなタイプがあります。日本産ロゼのヴァリエーションを提供することで、日本の消費者にもっとロゼワインの楽しさをわかってもらいたいのです」と安蔵は言う。

 

近年、ヨーロッパの国々ではたくさんのロゼワインが消費されている。プロヴァンスやスペインのナバーラなど伝統的なロゼワイン産地だけでなく、他のしっかりした黒ブドウの生産地でも年々増加する需要に対応すべくロゼの生産量をどんどん増やす傾向にある。

しかし日本市場にロゼワインブームはまだやってこない。なぜだろう。

 

ひとつは色合いに近似性があるからという理由で、桜の季節にロゼワインのプロモーションを実施してきた。肌寒い桜の時期にロゼを飲もうというのはいかがなものか。それに生産サイクルの視点からいうと、ロゼワインは醸造を終えて一冬越し、翌年の春から初夏にかけてボトリングしたものが最もフレッシュで味わいがしっかりしている。ところが桜の季節に提供できるロゼは、それより一年古いヴィンテージになってしまう。

 

もうひとつは日本には本格的なロゼワインがそれほど多くないことだろう。ボルドーの駐在などでフランス在住の長かった安蔵は、ロゼワインブームのおこる前から、初夏になるとロゼワインがボルドーや南仏の街に並び、アウトドアのシーンを彩ることを体験していた。だから日本でもロゼワインの選択肢を多くすることで、もっと日本人にもロゼを身近に感じてもらうことに決めた。

 

「いまのところ日本人がロゼワインに抱くイメージには、ある程度の色の濃さが必要なのだと思います。ところが近年、ロゼワインの色合いは鮮やかなロゼ、ショッキングピンクのロゼから徐々に色が薄くなっています。ほとんど白ワインと見まちがえそうなとても淡い色合いのロゼが登場しています」(安蔵)。

フランスやヨーロッパのロゼワインは、以前よりもっと色が薄くなっている。フェノール成分の含有量が少なく軽やかで、ずっと白ワインに近い味わいだ。安蔵は日本のロゼも徐々に色を薄くしていきたいと考えている。

 

さらに、「プロヴァンス産ロゼワインのトップ・キュヴェは、グルナッシュのプレスラージュ・ディレクト(醸しをせずに圧搾の時の色だけ)で樽発酵をして造っています。そこには初めからしっかりしたロゼワインを造るという意思が働いています」。

きちんと覚悟してロゼワイン造りに取り組むことが大事なのだと安蔵は強調する。

 

赤ワインを濃縮するために醸しの初期段階で果汁の一部を抜くセニエという手法がある。引き抜いた淡い色の果汁を白ワインのように発酵させるとロゼワインができる。これは考え方によっては濃い赤ワイン造りの副産物と見ることもできる。

一方、果醪全体の10~20%を引き抜いた果汁は、白ワインでいうなら上物のフリーランジュースにあたるわけで、これをていねいに発酵させると上質のロゼワインができることも事実だ。大事なことは初めにロゼを造るという覚悟があるか否か、本腰を入れて取り組むか否かが問われていると安蔵は考えているわけだ。

 

「ディレクト・プレスラージュでロゼを造りたいとは思いませんか」と安蔵に尋ねると、「そうですね。プロヴァンスのようなディレクト・プレスラージュでも造ってみたいとは思います。でも今はまだ椀子(マリコ)には(ブドウの生産量に)余裕がありません。いまは本格的なロゼを造るという覚悟をもってセニエの果汁に取り組んでいます」と言い切った。

 

フランス南西地方マディランのタナは色の濃い小粒のブドウで、そのワインは力強くて時には重いタイプになる。ところが、このブドウを使って醸しをずっと短くし、軽快なタイプのロゼワインを造る生産者がいる。一方、椀子(マリコ)ヴィンヤードのブドウは、マディランのタナと比べると色はやさしくて瑞々しさが際立つ。果粒の大きいものもあれば小さいものもあり、その大きさはまちまちだ。そのブドウからセニエでフリーラン果汁を取りだし、これを使ってロゼワインを造る。ロゼワインの造り方は生産地によってまちまちだ。ただ、椀子(マリコ)のシラーもマディランのタナも、ひとつひとつのブドウに真摯に向き合い、ブドウの良さを引き出してロゼワインにするという点が共通している。

 

2016年の椀子(マリコ)ヴィンヤードは、春の平均気温がかなり高く、萌芽が前年より3日ほど早かった。その後も天候は安定してブドウの生育の初期段階は順調に推移した。ヴェレゾン(色づき)もやや早く天気にも恵まれた。9月中旬の台風以降、天気が崩れて過去に例をみないほど降水量になったが、ブドウ畑では健全果の確保に努めた。

 

「本当はこのロゼを椀子(マリコ)ヴィンヤードのシラーだけで造りたかったけれど、2016年産のシラーは収穫量が十分ではありませんでした。それでシラーに椀子(マリコ)の黒ブドウをブレンドして造ったのです」と、安蔵がやや残念そうな口調で言った。椀子(マリコ)の品種別栽培面積はメルローが最も多く、次いでカベルネ・フランとシラー、これらに続くのがカベルネ・ソーヴィニヨンという順だ。それで、2016年産ロゼワインのブレンド割合はシラー34%、メルロー29%、カベルネ・フラン26%、カベルネ・ソーヴィニヨン11%になった。

 

発酵は同時期に収穫されたシラー、メルローの果汁を混醸したタンクと、メルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンの果汁を混醸した二つのタンクをアサンブラージュ。ステンレスタンクで5か月間育成してボトリング。9月5日に全国発売した。生産本数は約4,700本。

色合いは鮮やかだが淡い感じの赤い色。ラズベリーなど新鮮なベリー類のアロマ、微かにスパイスの香りもある。口中は熟した果実と軽快なタンニン、さわやかな酸味のバランスがとれている。味わいにインテンスがある。

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