南アフリカの高品質シャルドネを探る

南アフリカのワインと日本の消費者をつなぐ活動を行なっているWOSA Japan(南アフリカワイン協会)は、コロナ禍で生産者の来日が困難な状況になった2020年の前半から、オンラインを活用したセミナーを積極的に取り入れている。

そのひとつ「ウェンズデー・セミナー」は、WOSA Japanプロジェクトマネージャーの高橋佳子DipWSET®が、南アフリカワインの情報を様々な視点から取り上げ、さらにワイン生産者と日本のトップソムリエがワインを試飲しながら産地の個性を掘り下げていく企画だ。

その7回目の開催となった今回、気候変動により注目が高まっている南アフリカの冷涼産地・エルギンのシャルドネについて、リチャード・カーショーMW、ポール・クルーヴァーの醸造長アンドリース・バーガー、そして日本最優秀ソムリエの井黒卓という豪華なゲストを迎えてのウェブセミナーとなった。

以下、内容をサマリーする。

 

シャルドネの栽培開始は1980年代に入ってから

シャルドネは世界中で栽培されており、知名度の高い白ブドウ品種だ。さらにスティルワインからスパークリングワイン、エントリーレベルから世界屈指の高品質ワインまで様々なワインが造られている。

新世界ワイン生産国の中でも長い歴史をもつ南アフリカだが、シャルドネの栽培・醸造が始まったのは意外にも新しく、1980年代に入ってからだった。当時はまだ南アフリカではワインの生産統制がとられており、「新しい品種」を増やすことは困難を極めていたからだ。

南アフリカにシャルドネをもたらした人物として知られているのはロバートソンにあるデ・ウェッツホフ・エステート (De Wetshof Estate) のダニー・デ・ウェット(Danie de Wet) だ。1968年から1971年にかけてドイツのガイゼンハイム研究所でワイン醸造を学んだ彼は、シャルドネに魅了され、さらに南アフリカのためにも必要な品種だと考え、仲間と協力してブルゴーニュからシャルドネの穂木を持ってきた(当時は密輸だったそうだが)。

以降、南アフリカでも着実にシャルドネの栽培面積は増え、すべての価格帯で優れた品質を提供しており、世界のワインコンペティションで受賞するほどの優れたワインもいくつか生産されている。

 

数字でみる南アフリカのシャルドネ

2020年末のSAWISの統計では、シャルドネは南アフリカで4番目に多く植えられている白ワイン用品種で、総栽培面積は6,587ha(国内ブドウ畑の7.16%)を占めている。

*生産地のトップ3

  1. Robertson (1,660ha)
  2. Paarl (1,217ha)
  3. Stellenbosch (1.122ha)

近年は加えてエルギンやヘメル・アン・アーデ・ヴァレーなど、冷涼気候地域の上質なシャルドネに注目が集まっている。

 

南アフリカのシャルドネらしさとは?

シャルドネだけに限らないが、南アフリカは「旧世界の複雑さと新世界の果実の表現を融合したスタイル」とよく言われる。シャルドネは気候や醸造がワインに反映しやすい品種ゆえ、他のワイン生産国同様にブルゴーニュをベンチマークとして試行錯誤が繰り返されてきた。

例えば、

  • 慎重な区画選定 – より冷涼気候の産地に注目
  • ワインメーカーのスキルアップ
  • 介入の少ない醸造アプローチ
  • より慎重なオーク樽のハンドリング

これらの結果、バランスを重視したワイン造り、土地の個性と純粋な果実の表現を追求しているスタイルが南アフリカに浸透した。

 

W.O.エルギン情報

今回のゲスト、リチャード・カーショーMWとポール・クルーバーは西ケープ州ケープ・サウス・コーストのW.O.エルギンに本拠地を置く。

伝統的なリンゴの産地として知られているエルギンは、ケープタウンから南東へおよそ70km、標高200〜1,000mにある大きな盆地だ。標高400m以上に位置するブドウ畑は高地の恩恵を受け、さらに谷の南部から大西洋まで4.5 kmほどしかなく、冷たい海の影響も受ける。南アフリカの中でも雨が多い地区で年間降水量が1,011mmにもなるが、降雨は寒い冬季に集中している。

サステイナブルなワイン生産の理念に基づき、ユネスコ世界遺産で壮大なケープ植物保護地域の一部をなすコッヘルベルフ自然保護区で育まれる固有の生態系と共存しながら、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、リースリング、ピノ・ノワール、メルロ、シラーズの栽培がとくに成功している。

 

<Tasting Sessions>

Richard Kershaw Elgin Chardonnay Clonal Selection 2017

リチャード・カーショウ エルギン シャルドネ クローナル・セレクション

オーナー・ワインメーカーのリチャード・カーショウ氏は1999年に南アフリカに移住したイギリス人で、2011年よりマスター・オブ・ワインの称号を持つ。2012年よりエルギンで自身の名を冠したワインを造っている。

ワイン情報

契約農家の特定の区画の、特定のクローンを選択。シャルドネ100%。

  • Dijon clones:CY96(ミネラリティーや線の細い酸), CY95(リッチなフレーバー), CY76
  • Entav clone :CY548(威厳さ)

2017年2月22〜3月13日の 早朝に手摘みで収穫後、速やかに全房プレス。果汁は重力で(ポンプを使用せず)オーク樽へ移動し100%野生酵母で自然発酵。マロラクティックは抑制して11か月間熟成(新樽38%)。10%は発酵から卵型タンクを使用。世界のシャルドネに匹敵するような、果実味と滋味深さのバランスをもち長期熟成の可能なワインを目指している。

「2017年ヴィンテージは旱魃の真只中の乾燥した年だが、統計的には冷涼な気温の年でもあり、ワインには自然でフレッシュな酸味とミネラル感を残すことができた。2015年に匹敵する、長期熟成が望める年だ」とカーショウ氏。

井黒ソムリエのコメント

「近年のブルゴーニュに匹敵するタイプのワインだ。熟したアプリコットやアップルマンゴーのような甘い香り、そして上品な樽使いからくるシナモンのようなスパイスの香り。ディアムコルクを使用しているからか、スモーキーさやフリンティな還元のニュアンスがワインの香りに複雑さを与えている。メリハリのある味わいで、柔らかいエントリーから中盤は広がりがあり、全体を引き締める後味には塩味も感じる。このワインのいちばんの特徴はクレッシェンドのように伸びる酸味」。

 

Paul Cluver Seven Flags Chardonnay 2018

ポール・クルーヴァー セヴン・フラッグス シャルドネ

ポール・クルーヴァーは初めてエルギンに商業的にブドウ畑を開拓しワインを生産したパイオニア。醸造長アンドリース・バーガー氏は25年のヴィンテージをポール・クルーヴァーで迎えた。

ワイン情報

標高280-350m、南向き斜面に1987年植樹されたChardonnay 100%(Clone 175 / 270)。全房プレス、100%野生酵母で樽発酵。9か月間熟成(新樽30%)、ごく一部のみマロラクティックを施す。

「エルギンはワイン産地として特異なものをもっている。いいワインをつくるためには気候や土壌を理解し、科学的なアプローチで解釈してワインを造ることが求められる。これは時間のかかることだ。パイオニアとして継続的に気候や地質の観測をしっかり行いながらワインを造っている。エルギンのシャルドネはフィネスとエレガンスがあり、同時に果実がとても新鮮。なぜならブドウに含まれるリンゴ酸が他の産地よりも多く残るので、柑橘類やフレッシュなリンゴのような果実の特徴が感じられる。土壌からはミネラル感がもたらされ、それらの土壌の特徴を活かすためにマロラクティックは少し抑制したワイン造りをしている」とバーガー氏。

井黒ソムリエのコメント

「ミネラル感が特徴のシャブリ1re Cru モンテ・ド・トネルに共通するような印象。日向夏のような和柑橘にシナモンバジルやカルダモンが重なるような風味。リニアな酸味が伸びて、同時に果実味もあるのでワインに深みを感じる。ひとことで言うとシリアスなワイン。緊張感のある、上質なワインに使う言葉が浮かぶ」。

 

最後に

決してワイン産地として長い歴史があるわけではないエルギン。土地の個性が安定してワインにあらわれているということは、志高い生産者たちが継続して行った環境観測と、人的介入を抑えて品種個性を表現したワインづくりの賜物と言えるだろう。エルギンのあるケープ・サウス・コースト地区には、今回登場したリチャード・カーショウやポール・クルーヴァーの他にもハミルトン・ラッセル、アタラクシア(どちらもエルギンの隣の地区、W.O.ウォーカーベイの生産者)など、南アフリカのみならず世界的にみてもトップクラスの品質のシャルドネを造りだす。今回のセミナーでも皆が言っていたように、旧世界にあるような複雑さや滋味深い味わいと成熟した果実の表現が融合した南アフリカのシャルドネはこれからも追って注目していきたい。(Rie Matsuki)

WOSA Japan公式ページ

 

「ウェンズデー・セミナー」はWOSA Japan Facebookのアーカイブから閲覧可能

 

 

関連記事

ページ上部へ戻る