ニューヨークワイン&グレープ財団日本オフィスは、2月15日に試飲セミナー「New York in Depth」を開催した。講師を務めたのは、プロジェクトメンバーでワイン・スペシャリストの別府岳則氏。未輸入ワイン3アイテムを含む計7アイテムの試飲を通して、ニューヨークワインの面白さやセールスポイントを独自の視点で紹介した。
別府氏は、ニューヨークワインの日本市場における存在価値について、3つの要素を挙げる。ひとつは、冷涼気候。アルコール度数低め、果実味が強すぎず、酸味の効いたタイトな味わいは、様々な食に合わせやすい。ニューワールドでも全域が冷涼という生産地は、他にない。次に、日本ワインとの共通性。ニューヨークにおけるヴィニフェラ種の栽培の歴史は浅い。1950年代に初めて成功し、60年代に商業ベースにのるまではナイアガラ、コンコード、デラウエアなどのラブルスカ種やハイブリッド種が中心で、今もなお栽培されている。品種に関しては未だ向上の途中にあり、伸びしろがあることも日本と重なる。3つ目は、ニューヨークだからこそのブランド価値。認知度の高さやコミットした経験値などは、興味喚起の上で重要な要素だ。世界最大の消費地であるためサステナビリティへの取り組みも早くから積極的で、進んでいるイメージがある。
ニューヨークワインの歴史は、17世紀半ばオランダ人がマンハッタン島に植えたことから始まる。だが寒冷地でのヨーロッパ品種の栽培はすぐに失敗、ネイティブ・アメリカンのラブルスカに切り替える。1839年に初の商業用ワイナリーとして現在のブラザーフッド・ワイナリーが設立されたが、この時点ではまだヴィニフェラ種ではなかった。1936年にシャルル・フルニエによりハイブリッド品種が導入。そして、ウクライナに住むドイツ系のコンスタンティン・フランク博士がコンサルタントとして招聘され、ヴィニフェラ種の栽培を始めたのは1953年のこと。1976年のファームワイナリー法の施行により小規模農家が卸を通さずワインを直販できるようになり、ワイナリーの開業が増えていく。当時 19 軒だったワイナリーも、85年には63軒、93年には110軒、そして今では 450 軒を超える。生産量においては、カリフォルニア、ワシントンに次いで全米3位のポジションにある。現地小売価格で25ドルくらいがボリュームゾーンで、高くても50ドル程度。それを超える高価格帯はあまりない。
生産地の特徴は、海、湖、河川など、大きな水の塊のある場所の付近にあること。7つの大きな AVA と4つのネステッドAVA の計11AVAがある。最大の生産地は州全体の生産量の半分以上を占めるレイク・エリーだが、栽培されるブドウの90%がジュースなどに加工されるコンコード。プレミアム・カテゴリーを牽引しているのは、フィンガー・レイクスとロングアイランドの2つのAVAだ。フィンガー・レイクスは、幅2㎞ほどの指のように細長い形の氷河が削った湖がいくつも並ぶ地形。深い湖の水温は安定しており、夏の暑さと冬の寒さを緩和し、全体的に涼しい気候をもたらす。リースリング、カベルネ・フラン、シャルドネ、ピノ・ノワールが栽培され、近年最も注目されているトップ生産地だ。ロングアイランドは高級別荘地などがあり、シティから近いことによるローカル色が強い。湿度があり暖かく、ボルドー品種に向く。
栽培される品種は、ラブルスカ種とハイブリッド種とヴィニフェラ種が混在。ラブルスカ種はカタウバ、デラウエア、コンコードなど。ハイブリッド種はカユガ・ホワイト、トラミネット、ヴィニョール、マルケット、フロンテナックなどで、ピノ・ノワールとセイベルの交配であるヴィニョールは最近の注目株。ヴィニフェラ種では州を代表する品種リースリングと、ここ3~4年メディアでの注目が高まっているカベルネ・フランが白と赤の2トップだ。
テイスティングの前半は、スパークリングを含むリースリングを4アイテム。
- Konstantin Frank Célèbre
前述のヴィニフェラをもたらした古参ワイナリーの
ニューヨークに多い残糖高めの瓶内二次発酵スパークリング。食中酒より乾杯に。
- Buttonwood Grove Winery Riesling 2019 (未輸入)
残糖22g、リラックスしてスイスイ飲めるオフ・ドライ。
- Boundary Breaks #239 Dry Riesling 2020(未輸入)
タイト、ドイツに近い味わい。辛口だが、温度上がると白い花の香りが強く出る。
- Red Newt Cellars The Knoll Riesling, Lahoma Vineyards 2016(未輸入)
フィンガー・レイクスで初めての単一畑。高いミネラル感やボリュームがあり、生産者はグローセスゲヴェクスのスタイルだと言うが、エッジの柔らかさがニューヨークらしい。
ニューヨークのリースリングは総じてペトロールは強くない。みずみずしく、飲み口に柔らかさがある。タイトでリーンなドイツ、ボディのしっかりしたアルザスと比較すると、蒸したり茹でたりした料理に向き、和食にも合わせやすい、と別府氏は言う。
後半は様々な品種とスタイルのバリエーションを比較。
- Paumanok Vineyards Chenin Blanc 2021
ニューヨーク唯一のシュナン・ブランの造り手で、スパークリングも生産。柔らかだが高い酸とのバランスがあり、日本のシャルドネに似ている。和食店で使える現代的なワイン。
- Lamoreaux Landing Wine Cellars T23 Cabernet Franc 2020
ざらつきのない、クリアでスムーズなテクスチャーながら、品種の特徴的な香りは顕著。教科書的なニューヨークのカベルネ・フラン。
- Four Maples Cuvee du Petit Champlain 2017(未輸入)
マルケットはミネソタ大学で開発され、2006年にリリースされた比較的新しいハイブリッド種。耐寒性があり、寒冷なシャンプレインに向く。グレーピーなタイプではなくブラックベリーのフレーバーがオークの香りと馴染む。
別府氏によれば、こうしたラブルスカ種やハイブリッド種は、古くからの消費者の需要に対応しているのみならず、若い層がその価値の再発見をしているケースもあると言う。こうしたところにも、日本ワインと通ずるものが感じられる。
(Saori Kondo)
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