ブドウのDNA、ワインのテクスチャーを重視する「リッポン」のニック・ミルズ

ニュージーランドの南島、セントラル・オタゴの北部に位置するワナカ湖畔。ここは山に囲まれた隔離された場所である。ここでバイオダイナミック農法によりワイン造りを続けているニック・ミルズさんが久しぶりに来日した。スキーヤーでオリンピック選手にも選出されるほどの腕前をもつニックは、富良野で1週間友人とスキーを楽しんできたところだと上機嫌! 世界中にコアなファンを持つリッポンの魅力について、再確認した。

 

セントラル・オタゴといえば、ニュージーランドで唯一大陸性気候のワイン産地として知られているが、リッポンが位置するワナカは少し異なると言う。セントラル・オタゴの中でも北部にあり山脈に近い上、水量の多いワナカ湖があることから穏やかな気候になる。日較差が大きいわけではないため、ボリューム感が出るというよりはフレッシュさが保て、フェノリックマチュレーションが十分に行われるため、赤ワインにおいては緻密できめ細やかなタンニンが得られる。

リッポンはニュージーランドでワイン用ブドウ栽培を本格的に始めた先駆けのひとつとしても知られている。この地に拠点を置いたミルズ家の3代目となる父ロルフが1970年代にヴィニフェラ系品種を多数植樹し始めた。そして数多くの中から「この土地の環境に合う品種が残った」。リースリング、ゲヴュルツトラミネール、ソーヴィニヨン・ブラン、オスタイナー(リースリングとシルヴァーナーの交配品種で、地元の人用のワインに仕立てている)、ピノ・ノワール、ガメイ(セラードア用)の6品種。しかも最初からすべて自根で有機栽培を続け、今はバイオダイナミック農法を行なっている。

「ニュージーランドで成功したモデルケースはいくつかある。ただ、うちの場合はほかとは違い、ブルゴーニュが好きだからピノ・ノワールを植えたのわけではない。この土地が好んだブドウを続けているだけ」と、ニック。

そしてほかの多くのワイナリーと異なり、華やかなアロマではなく、ブドウのDNAやワインのテクスチャーを重視しているのもリッポンならでは。ブドウは収穫後に足で潰し、ソーヴィニヨン・ブランであってもスキンコンタクトを行う。発酵タンクは縦長ではなく横長のもの使用している。

ニュージーランドは、オーストラリアプレートと太平洋プレートがぶつかり、後者がせり上がってできた。その時に熱によって変成してできたシスト(片岩)がセントラル・オタゴでは豊かに存在する。

「植物の種の中には遺伝子情報が含まれているので、その情報を導き出してワインに与えることが重要」だと考えている。また、発酵には一切培養酵母は使用しない主義で、森や畑の中にいる酵母で発酵している。「発酵後に死滅した酵母が自己分解して酵母の細胞膜からアミノ酸が出てワインの液体に溶け込むことでテクスチャーに影響を及ぼす。テクスチャーが豊かになった状態であれば、人にとっても消化しやすく取り込みやすい」。リッポンのワインは飲むたびに身体に染み入るように入ってくるのは、そういう理由なのだろう。

「土地に忠実に、フィーリングに忠実にワインを造っていれば、良いアロマがワインに溶け込み維持できる」。近代的な手法のように澄んだ果汁で単一の培養酵母を使い、低温発酵して、フィルターをかけて濾過し、スクリューキャップで封をすると、均一なワインができる。けれどここではまったく逆の方法を取り、あえて「パフューム・ボンブ」なワインにはしないと言う。果皮や種から得られるフェノール成分も含め、果汁やワインの液体中にある固形成分を大切にしている。そして、醸造後に残ったマストは肥料にしてまた土に戻している。「このコンポストの中にも種や果皮、つまりDNAが含まれている」と、ニック。

そしてニックにとってピノ・ノワールという品種は”Voice of our Farm” だと言う。

「ニュージーランドでは、マオリ族はずっと精霊の存在を信じている。そして言葉を発する精霊があるとすれば、それとコミュニケーションしながら私たちがここにある。彼らと私たちは常に対等であり、私たちはこの土地を所有しているわけでもない。精霊をどう感じるかだ」。つまり、ワナカ湖畔のリッポンの畑にはピノ・ノワールが最も適していて、この土地の語り部としてピノ・ノワールが最も優れていると感じているのだと理解した。確かにほかの品種のワインも美味なのだが、ピノ・ノワールが一番心に残るように思う。

 

リッポン ソーヴィニヨン・ブラン2021

足で潰した後2日間スキンコンタクト。50%樽発酵。シュール・リー3か月。熟した白い果実と蜂蜜、ほのかなハーブの香り。しっとりとした味わいで酸もソフト。蕗のとうを思わせる余韻。

リッポン “リッポン” マチュア ヴァイン ピノ・ノワール2019

1982〜2000年植樹。「リッポン全体を表すキュヴェ」。終始穏やかな香りと味わいで、時間とともに香が徐々に広がり出る。しっとりとしたテクスチャーでタンニンがとても細やか。

リッポン “エマズ ブロック” マチュア ヴァイン ピノ・ノワール2019

初代の妻の名を冠したキュヴェで、湖にほど近い東向きの区画。古代の粘土も混じる土壌。東向きらしく明るく生き生きとした赤い果実の香りが印象的。スパイシーさも徐々に出る。厚みが加わり、酸もタンニンも一体化している。

リッポン “ティンカーズ フィールド” マチュア ヴァイン ピノ・ノワール2019

北向き斜面の上方にあり、日照量が多く夕日の影響も受ける。シスト土壌。穏やかながらハリのある赤い果実と黒い果実の香りは凝縮感がある。複雑性が増し、ストラクチャーもしっかりとして大変若々しい。

 

リッポン “リッポン” マチュア ヴァイン リースリング2021

1982〜2000年植樹。ライムやアプリコットなど穏やかで甘い果実を思わせる穏やかな香りと、ゆったりとしたほのかに甘みとフレッシュな酸のバランスが心地よい。

リッポン ゲヴュルツトラミネール2021

ライチやスパイスの香り。「山のワイン」らしく、酸のバックボーンがしっかりとして緻密な味わい。「トニシティー」がある。

 

“エマズ ブロック”と“ティンカーズ フィールド”は、2002年に実家に戻ったニックが5年かけてテクスチャー、香り、ボディなどの違いをはっきりと認識し、2008年から別々に瓶詰めし始めたと言う。どちらも150ケースずつの少量生産だ。

最後にニックはこう言っていた。

「飲むことや食べることは農業的な行為だと感じている。ある土地の産物を飲んだり食べたりすることで、その土地の要素を自分の身体の中に取り入れることだから」。(Y. Nagoshi)

輸入元:ラック・コーポレーション

 

 

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