ピノ・ネーロの優れた産地オルトレポ・パヴェーゼの野心的なプロジェクト、ラ・ジェニジアLa Genisia

ロンバルディア州にあるオルトレポ・パヴェーゼは重要なワイン産地で、特にピノ・ネーロの優れた産地として知られる。その偉大な潜在力を引き出し、卓越したワインを造ろうという野心的なプロジェクトがラ・ジェニジアだ。

 

イタリア経済の中心ミラノから南に40キロ、ロンバルディア州南部にあるオルトレポ・パヴェーゼはピエモンテ、リグーリア、エミリア・ロマーニャとの州境にも近く、昔から文明が交差する重要な拠点であった。ポー川の南に広がる産地で、川岸の平野からアペニン山脈に向かって美しい丘陵地帯が広がる。南北に延びる渓谷が4つあり、その傾斜にブドウが植えられている。優れたワインが生まれるとされる北緯45度(ボルドーと同じ)に位置していて、アペニン山脈からの冷気により昼夜の温度差が激しいが、リグーリアの海風や地中海の影響も受けるというブドウ栽培には理想的な気候だ。丘陵地帯は白い石灰土壌で、フレッシュで、上品なミネラルを感じさせるワインが生まれる。13,500ヘクタールのブドウ畑から年間生産量7000万本を生産する大産地で、ロンバルディア州のワインの62%がここで造られる。戦後の高度成長期には急成長を遂げるミラノにワインを供給する必要に迫られ、大量生産に走った時代もあったが、近年は産地の潜在力を引き出した高品質ワインが増えている。

その中でも特に注目を集めているのがピノ・ネーロである。19世紀半ばからオルトレポ・パヴェーゼで栽培されている品種で、スパークリングワイン(シャルマ方式と瓶内二次発酵)、白ワイン、赤ワインなど多様なタイプに醸造され、目覚ましい成果を上げる。現在オルトレポ・パヴェーゼには3,000ヘクタールのピノ・ネーロの畑があり、シャンパーニュ、ブルゴーニュに次いでヨーロッパで3番目の産地となっている。

そのピノ・ネーロから卓越したワインを造るワイナリーがラ・ジェニジアで、100年を超す歴史を誇るトッレヴィッラ生産者協同組合の傘下にあり、その知識と経験を利用して高品質を実現する。そのためには何年もの調査と研究を行った。まず組合員が所有する600ヘクタールという広大なブドウ畑に6つの気象観測台を設置し、土壌、傾斜、向き、温度、湿度、降雨量などを研究し、テロワールを十分に理解した上で、いくつかに分類した。ミラノ大学のレオナルド・ヴァレンティ教授の協力を得て、醸造家のシモーネ・フィオーリが先頭に立って研究を行った。そしてピノ・ネーロに最も適した畑70ヘクタールとそれを所有する組合員20名を選び出して、2019年にラ・ジェニジアのプロジェクトを実現したというわけだ。選ばれたのはコデヴィッラ、トッラッツァ・コステとその周辺のグイヨ仕立ての畑で、標高250~600mに位置している。今までも優れた畑は経験的に知られていたが、今回はそこに科学を持ち込んで、しっかりと選別したのである。組合員にはそれぞれの畑のテロワールに適した栽培法が指示される。経験豊富なブドウ栽培家の知恵を最大限に利用しながらも、最先端の知識を駆使して高品質のワイン造りに取り組むのである。

 

 最初に造られたのはオルトレポ・パヴェーゼ復興のシンボルとなるピノ・ネーロによる瓶内二次発酵スパークリングワインだ。DOCGオルトレポ・パヴェーゼ・メトド・クラッシコ・ピノ・ネーロ・ブリュットは品格高きスパークリングワインだ。コッパ渓谷とスキッツォーラ渓谷にある約20ヘクタールの優れたブドウ畑のピノ・ネーロから造られる。標高200~450mに位置するブドウ畑は標高も土壌も多様で、それらを組み合わせることにより複雑なワインが生まれる。畑の植樹はヘクタールあたり4000~4500本と近代的だ。ブドウの成熟を注意深く見極め、手摘みで収穫が行われる。醸造所にすみやかに運び込まれたブドウは酸素との接触を避けてプレスされ、ピノ・ネーロの芳しさとアロマが完璧に保持される。ワインに使われるのは一番搾りのフリーランジュースだけである。温度を18度に抑えてステンレスタンクで発酵し、収穫翌年の春までステンレスタンクで熟成させる。そして様々なタンクのワインを理想的にブレンドし、瓶内二次発酵に移る。瓶内二次発酵に続く澱との接触を伴う瓶内熟成には24ヶ月以上をかける。香りは繊細な柑橘類や白い花にパンの皮、アーモンド、蜂蜜が混ざり、とても複雑だ。口中では泡立ちが繊細かつクリーミーで、味わいはフレッシュだが、ボディーが堅固で、広がりがあり、スケールの大きさを感じさせる。洗練されたスパークリングワインで、余韻が長く続く。アペリティフにも最高だが、魚料理、鶏やウサギの煮込みとも合うだろう。和食だと鮨や天麩羅と最高で、しゃぶしゃぶとの相性もいい。オルトレポ・パヴェーゼがピノ・ネーロによる瓶内二次発酵スパークリングにいかに適した産地であるかを明確に示してくれるワインだ。

オルトレポ・パヴェーゼのピノ・ネーロはスパークリングワインだけでなく、赤ワインも見事なものができる。その好例がDOCピノ・ネーロ・デッロルトレポ・パヴェーゼ・チェントディエーチ 2019だ。このワインに使われる0.8ヘクタールの畑はモルニコ村カシーナ・コラッジョーゾ地区にあり、標高約250mで、北西~南東向きだ。アペニン丘陵中腹にあり、泥灰土の土壌は石灰分が多く、優美なワインが生まれる。ヘクタールあたりの植樹数は5,000本で、グイヨ仕立てだ。発酵はステンレスタンクで温度を24度に抑えて行われる。色素、タンニンを抽出するために毎日ルモンタージュを行う。20%の果汁は開放式バリックで、1日2回ピジャージュを行いながら発酵する。それにより色素が定着すると同時に、よりスパイシーで丸みのあるアロマが得られる。フレンチオークのバリックでマロラクティック発酵を行い、1年間熟成する。毎週バトナージュを行うことにより、ボディーのしっかりしたワインが生まれる。香りはチェリー、赤い果実にハーブやスミレが混ざりイキイキとしている。口当たりはビロードのようになめらかで、タンニンが甘い。果実味は心地よく、繊細なドライハーブのニュアンスが絶妙なアクセントになっている。完璧に成熟したピノ・ネーロを感じさせる赤ワインで、鶏のローストや煮込み肉料理はもちろん、マグロや鰹といった魚にも合うだろう。適度に熟成させたチーズとの相性も抜群である。

ラ・ジェニジアでは訪問客に総合的ワイン経験をしてもらうために試飲スペースをオープンした。「ラ・ジェニジアのワイン・エクスペリエンスを経験することができます。地元産地の象徴的存在としてはこのような施設をオープンしたいと思っていたので、とても誇りに感じています」と話すのはラ・ジェニジア会長のマッテオ・ギアーラ。「ワインを紹介して、地元の名産品に触れることのできる場所を2022年にオープンしました。全ての年代の人に楽しんでもらえます。ラ・ジェニジアは遠い将来を見据えたプロジェクトで、これはまだ最初の一歩でしかありません」

偉大な可能性を秘めているにもかかわらずその力を十分に発揮していなかったがため「眠れる獅子」と呼ばれていたオルトレポ・パヴェーゼにも新しい風が吹き始めている。ラ・ジェニジアはそのシンボルだ。力強く踏み出した一歩は今後どのような展開を呼ぶのだろうか。とても楽しみである。

(Isao Miyajima)

 

 

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