- 2025-1-31
- Wines, フランス France, ブルゴーニュ Bourgogne

2019年以来3回目の来日というドメーヌ・ルフレーヴの当主ブリス・ド・ラ・モランディエールさんは、日本にはブルゴーニュとの共通点を感じているという。
「まず、伝統や歴史を大切にし、守っているところ。そして、さまざまなテロワールがあることを尊重していること。さらに、対照的ともいえる近代的な科学や革命的な事柄に対しても敏感で大いに関心があるという点。もうひとつはミニマリズム。エレガンスを大切にして細かなことにもこだわり、簡素で美しいもの、アーティスティックなものを創造するところ」と説明した。
ドメーヌ・ルフレーヴとマコネ
さて、ドメーヌ・ルフレーヴがマコネに進出したのは2004年のことで、まず9haの畑を購入した。まだ前当主のアンヌ・クロード・ルフレーヴさんの時代だ。今ではマコン・ヴェルゼに14.65ha、プイィ・フュイッセに2.63ha、マコン・ソリュトレに0.22ha、サン・ヴェランに0.41ha、マコン・イジェに0.82ha、合計約19haを所有し、ブドウの平均樹齢は約50年と古い。
栽培は本拠地のピュリニー・モンラッシェと同様にバイオダイナミック農法により、収穫は全て手摘みで行っている。収穫されたブドウは畑に近いエスコール村で圧搾され、翌日には果汁をピュリニー・モンラッシェへ運び、ドメーヌ・ルフレーヴのチームが醸造している。
マコン・ヴェルゼに所有する7つの畑の中でも、「レ・シェーヌ」と「モンテ」は特に優れていて複雑性があると判断し、2017年から個別に瓶詰めすることにしたという。
「あとふたつ独立して瓶詰めする可能性がある。プイィ・フュイッセについては5つの畑のうち、プルミエ・クリュに認定された『アン・ヴィニュレ』も独立させている。同様に、プルミエ・クリュにはならなかったが『ラ・シャノー』も独立させている。私としてはどちらも同等の実力があると考えていて、価格も同じに設定している」と、ブリスさんは言う(日本でもアン・ヴィニュレとラ・シャノーの価格は同じ)。
レ・シェーヌの2022年を試飲すると、熟した果実の華やかな香りがし、しなやかなタッチで、果実の熟度は感じるもののフレッシュな酸がしっかりとして芯のある味わいだ。2022年は暑い年だったと聞いているが、どのようにこのフレッシュさが生まれたのだろうか。
「2022年だけでなく2020年も2023年も暑い年だった。しかし、キリッとしたワインに仕上がり、飲むと暑い年という印象はない。pHも低く、酸味もある。理由のひとつは、人が暑さに対応できるようになってきたこと。畑においても剪定方法を工夫して風通しを良くしたり、房が直射日光にさらされないようにしたり。それでも最も重要なのは収穫日。一日遅くても、1日早くてもだめ」と、ブリスさん。
実験的に同じ区画の極一部で収穫日を遅めにするとどのような違いが出るのか、経過観察も行っているという。また、ブドウそのものも気候変動に対応し、暑い日には自ずとブレーキをかけて成熟をゆっくりにする作用も働いていると感じているそうだ。樹齢によっても異なり、2022年は、根を深くまで張っている古木の方がよく適応できた。台木によってもうまく対応できるものとそうでないものの差が出てきている。いずれにせよ、観察や分析などを積み重ねていかなければならないと考えているようだ。
新セラー「リュー・ド・レリゼ」完成
ドメーヌ・ルフレーヴの新セラー「リュー・ド・レリゼ Rue de l’Elise」は2022年に完成した。2016年からのプロジェクトで、作業性や効率性だけでなく、美しさや素材にもこだわった。
「新セラーにより仕事が大きく変わった。温暖化の影響で、収穫日に速やかにプレスにかけられるようにする必要があったため、広い空間を確保し、圧搾機の数も増やした。朝早く迅速に収穫したブドウを、待たずに圧搾可能にし、しかもゆっくりと圧搾可能になった。もうひとつしたかったのは、発酵を始める前にアペラシオンごとに大きなタンクに一度入れ、それから小樽に入れること。理由は果汁を均一にすることで方向性を同じにすることができ、小樽へ移す時に酸素とも触れるので発酵のスピードが少し早まるから」。
そして素材となる石や木材、麦藁などは全てセラーから100km圏内から調達したという。建物の土台はとても硬い岩で、壁は厚い石、あるいは麦藁などを断熱材として使用。いずれも二酸化炭素排出量の削減に貢献している。
醸造に使用する容器の容量と材質についても研究を開始している。4.8haと広い面積を所有しているピュリニー・モンラッシェのプルミエ・クリュ、クラヴァイヨンのブドウで、アンフォラ、球体のガラスのワイングローヴ、セラミック、コンクリート、樽など。しかし今のところ「やっぱり樽が一番良い」との感想で、プイィ・フュイッセには600ℓの樽も使用したり、マコンにはコンクリートも良いと感じているという。ただし、卵型ではなく台形のコンクリートの方が良いとのこと。
ピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ レ・ピュセル 2022
しっとりとした香りで、光沢を感じる、桃や蜜リンゴなどが香る。なめらかなアタックで、バランスが秀逸。酸とミネラルがフレッシュさを醸し出し、かっちりとした骨格があり、厚みもあるが骨太で、マイヤーレモンや旨みを感じる余韻が長く続く。
香りはまだ閉じ気味ながら、深みのある、複雑性を感じさせる香り。ほのかにバニラや桃のニュアンスが徐々に出てくる。味わいもまだ硬く、グリップがありストラクチャーがとても強い。まだまだこれから、10年後、20年後に楽しみたいと思わせる。
「2020年も2022年も暑かったが、2020年は過去20年間で2014年、2017年と並んで3指に入るヴィンテージ。2022年は、その次の3ヴィンテージに入る。特に2020年はストラクチャーの中にあるエレガンス、複雑性がある部分が素晴らしい。炒ったヘーゼルナッツのようなニュアンスがとても気に入っている。バタールは、ピュリニーの中では重い方で熟成するとともに筋肉ががっしりとしてさらに重さを感じる。力強さの中にフィネスが生まれるのは、バイオダイナミックによるもの」とブリス氏。
エスプリ・ルフレーヴ
ドメーヌ・ルフレーヴが手がけるネゴシアンブランドの「エスプリ・ルフレーヴ」は、2018年ヴィンテージから始まった。これは、2017年にドメーヌ・ルフレーヴの支配人兼醸造責任者に就任したピエール・ヴァンサンさんとの取り組みだ。彼が前職で赤ワイン造りにも長けていたことから、「エスプリ・ルフレーヴ」には赤ワインのラインナップもある。ちなみに、ピエールさんは2024年末にドメーヌ・ルフレーヴを離れ独自のドメーヌを始めるが、この「エスプリ・ルフレーヴ」のプロジェクトにはそのまま関わることになっているという。また、ドメーヌ・ルフレーヴに関してもすでに新組織による運営が始まっている。
「ピュリニー・モンラッシェに拠点を置くルフレーヴが、考え方と方法はそのままに別のテロワールのワインを造ってみてはどうか、との発想で始まった。シャブリからマコネまで、オーガニックもしくはバイオダイナミックで栽培した品質の高いブドウを育てる栽培家とコンタクトして、ブドウを購入しピュリニーで醸造する。栽培は任せられるが収穫はうちが判断し、収穫もルフレーヴのチームが行っている」。
今10種類ほどで白と赤と半々だが、どのキュヴェも一人の栽培家からブドウを少量購入しているため、ネゴシアンブランドと言ってもそれぞれ数100本から数1,000本と多くない。しかも、もしもブドウの品質に納得がいかなければ、その年には購入しないという。一切妥協がない。誰から購入しているかは内緒のようだが、だいたい栽培だけでなく自らワインも造っている人のようだ。
赤ワインを2種類試飲した。
清楚ではつらつとした赤い果実の香り。口中でもしなやかなアタックに始まり、タンニンも細やかでまとまりの良い味わい。繊細で細長いボディー、そしてフレッシュな余韻。いわゆるニュイ・サン・ジョルジュからイメージする武骨なニュアンスは一切なく、ブラインドで試飲したらニュイ・サン・ジョルジュとはわからないと思われる。
「畑はレ・サン・ジョルジュに近い」という。レ・サン・ジョルジュは、ニュイ・サン・ジョルジュを代表する名高い区画で、最もグラン・クリュに近いとされるプルミエ・クリュだ。
エスプリ・ルフレーヴ ポマール プルミエクリュ レ・ザルヴレ 2020
香りは若干閉じ気味ながら、熟度の高い赤い果実のピュアで丸みを感じる香り。味わいも厚みがありふっくらとし、余韻はフレッシュ。
「ヴォルネイ的なボマールにしよう、とピエールと話し合って造った」とブリス氏。
「モダンでクロッカンな赤を造りたい」というブリス氏の言葉通り、実に洗練された香りと味わいだった。
ドメーヌ・ルフレーヴは、ワイン・ラヴァーにとって間違いなく憧れの存在だ。そして、それは今後も変わることはないに違いない。(Y. Nagoshi)
輸入元:ラック・コーポレーション
最近のコメント