“魂がある”と呼ばれるワイン ベガ・シシリア、ウニコの時間を飲む

ベガ・シシリアを語るには、誰もがワインを語る時の言葉では足りない。
果実味や香りの複雑性、タンニンの力強さ、余韻、etc.。
このような要素だけでは、真のベガ・シシリアは見えない。
二人のトップソムリエの証言と当主の哲学から、その謎に迫った。

取材・文 宮田 渚

 英国屈指のスペインワイン評論家、ティム・アトキンMWは、最高峰「ウニコ・レセルバ・エスペシアル」に2年連続で100点を与え、こう記した(*1)。
「個々の要素の足し算では説明できない何かが生まれている。ワインの到達点がここにある」。
 ウニコを長年追い続ける英国の評論家、ニール・マーティン氏は、「ウニコ 2016」の味を24時間かけて観察し、こう記した(*2)。
「新しい友人と知り合うようなものだった。知ったと思った瞬間に、隠された一面を見せてくる」。
 日本を代表するスペインワインのスペシャリスト、菊池貴行氏は初めてウニコに触れた日をこう振り返る。
「異次元の液体だと思いました」。
 全日本最優秀ソムリエの井黒卓氏は、こう言い切る。
「あそこにしかない唯一無二のテロワールがある。ベガ・シシリアは間違いなく、ソムリエがその歴史と哲学を語るに足るワインです」。

 なぜ彼らはそう語るのか。

*1 2025年リリース(2011・2012・2013年ブレンド)および2026年リリース (2011・2012・2014年ブレンド)。引用は2025年リリースに対する評。出典:Tim Atkin MW Ribera del Duero 2024 Special Report
*2 テンポス・ベガ・シシリア新ヴィンテージ公式資料より

今年日本に入荷した「ウニコ2016」(希望小売価格126,500円)と「ウニコ・レセルバ・エスペシアル」(2026年リリース・165,000円)。価格はいずれも税込。


「時間を許していただける方へ」
ソムリエ、菊池貴行氏に聞く

 東京・市ヶ谷のカタルーニャ料理レストラン「ティンガナ」のシェフソムリエ、菊池貴行氏。日本におけるスペインワインの第一人者だ。
 22歳の時、スペインで買った「ウニコ・レセルバ・エスペシアル」が、最初の出合いだった。果実味に艶があった。鏡のような、ガラスのような艶。グラスに注いだワインはスルスルと喉を通り、あっという間にボトルが空になった。

「異次元の液体だと思いました」。

 2006年、菊池氏はカタルーニャの3つ星レストラン「サン・パウ」東京店のシェフソムリエに就任。ウニコと本格的に向き合うことになる。当時のサン・パウ東京には80年代のウニコが多く揃っていた。
 83年、86年、89年。特別な日にウニコを指名する常連客がいた。結婚記念日に、思い出の年のウニコを開ける。菊池氏はその24時間前にコルクを抜き、液面を確かめ、そのまま開けておく。味見はしない。

「余計な酸化をさせたくありませんでした。味見をすると、そこだけまた酸素が入ってしまうので」。

 24時間後、バルーン型の小ぶりなグラスに注ぐ。熟成したウニコの繊細な香りを壊さないためだ。

菊池貴行氏(中央)。左はセカンド・チーフ・ワインメーカーのフアン・ホセ・パラ・フォルセン氏、右はアジア担当リージョナル・マネージャーのセサル・ロマン・マトス氏。2025年、ベガ・シシリアにて。


 80年代のウニコを造ったのは、当時の醸造長マリアノ・ガルシア氏だった。菊池氏は、この時代のウニコを「教科書的」と呼ぶ。

「テンプラニーリョのポテンシャルを最大限に引き出した醸造家でした。果実の凝縮感がありながら重くない。複雑さと繊細さが共存していて、ジューシーなブルゴーニュのようでした」。

 1998年、醸造長がハビエル・アウサス氏に代わると、ウニコはさらに緻密な方向へ進んだ。自社で樽を製造するようになり、区画ごとに醸造する。「線が細くなりました」と、菊池氏。ただし、「ハビエルさんが残したものは、今はまだフルポテンシャルではありません。判断するにはまだ早いです」とも言う。2000年代のヴィンテージが真価を発揮するのは、まだ先のことだ。

 しかし醸造長が代わっても、変わらないものがある。

「10年寝かせて初めて出荷するワインは、世界的に見ても稀です。その哲学を100年以上貫いている。しかも、10年の熟成に耐えるプドウを畑で育てるところから始めている。頑固ですよね」。

 グラスの中で、ウニコは変化する。若い果実の段階から、徐々に熱し、最後には枯葉のような落ち着きが現れる。菊池氏によれば、直前のデキャンタージュでは足りない。多少まろやかにはなるが、24時間かけてゆっくり目覚めさせた時の変化には届かないのだという。そして、あの美しいレンガ色だけは、30年、40年というとても長い瓶内熟成でしか生まれ得ない。

 ウニコをどんなお客にすすめるか。

「一言で言えば、時間を許していただける方ですね」。

 ウニコには飲み手も試される、と菊池氏は言う。それまでどのようなワインと向き合ってきたか、飲み手の経験が鏡のように映し出される。では、自身の子供と一緒にウニコを飲むとしたら、いつか。
 成人した時ではない。もっと先だという。

「子供がいろいろなワインと出合って、十分に経験を積んだ頃に飲んでほしい。その時に初めて、ウニコの本当の価値がわかると思うのです」。

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