
ニューヨークワイン&グレープ財団本部で輸出プログラムのダイレクターを務めるカイル・アン・パリシェク氏(右)
日本オフィスの別府岳則氏(左)。
これまでアメリカ生まれのワインと言えば、カリフォルニアワインを思い浮かべることが多かった。もちろん今でも主流だ。しかしここ数年、ニューヨークワインはニッチではありながら確実に存在感を増してきている。その理由を探るため、ニューヨークワイン&グレープ財団本部で輸出プログラムのダイレクターを務めるカイル・アン・パリシェク氏に話を聞いた。また、日本オフィスの別府岳則氏が来日した生産者と共にプロワイン東京2026にて行ったマスタークラスの内容もお伝えする。
カイル・アン・パリシェク氏に聞く、ニューヨークワインの魅力
現在、ニューヨーク州にはおよそ450の生産者が存在し、その数は増加傾向にあるという。増加している理由を尋ねると、カイルさんはこう答えた。
「まず、冷涼産地であるということ。アメリカの消費者の嗜好も、温暖な気候から生まれるアルコール度数が高めで酸が低めのワインから、アルコール度数が低めで酸が高めのワインにシフトしています。また、ニューヨーク州はカリフォルニア州より畑の価格が安いのです。更地で買って植樹するにしても既存のブドウ畑を購入するにしても、カリフォルニア州の方が遥かに高いですから。近年、カリフォルニアから4、5軒がフィンガー・レイクスに移ってきました。温暖化の影響で冷涼気候を求めているだけでなく、山火事のリスクがないのも理由です。もちろん、冬の寒さよるダメージや厳しさはありますけれど」。
ただ、日本へ輸出しているワイナリーは、約450社のうちまだ20社ほどであるという。ニューヨークワインは、80%以上がアメリカ国内で消費されており、そのほとんどがニューヨーク州内のようだ。
「小規模生産者が多くそれぞれの生産量が少ないこともあり、国内消費で手いっぱいで輸出に踏み切らないワイナリーが多かったのは事実です。ただ、近年は欧州と日本へ輸出したいと考える生産者が増えてきました。特に日本市場は、魚介類を多く使う日本食との相性が良い点が魅力の一つです。冷涼気候のワインにとてもよく合うと感じています」と、カイルさん。
また、日本は欧州とは異なるユニークな市場であると映っているようだ。欧州のような伝統的なワイン生産国ではない点、比較的冷涼気候のワインを好む傾向にある点、そしてソムリエのコミュニティが独特であるという点などが挙げられるという。
「例えば、ソムリエの中にはもちろんニューヨークワインを熟知している人もいますが、まだニューヨークワインを知らない人も多いようです。そして、まだ旧世界のワインの方が主流ではありながら、新しい産地やワインを求めている人も増えてきていると聞きます。それに加えて日本では、ニューヨークワインに対する偏見がないと感じています。これからまだ啓蒙活動をする余地があると思います」。
ニューヨークワイン&グレープ財団による日本向けのプロモーションは、今年で6年目を迎えた。オンラインやリアルのマスタークラスや試飲会も継続的に行っている。今後は、ペアリングについても強化し、飲食店でサービスされる機会が増え、ニューヨークワインの認知度がさらに上がっていくことに期待したいと考えている。
「アメリカ人であっても、1970年代からカリフォルニアワインが脈々と行ってきた強いプロモーションの影響を受けています。だから、ニューヨークワインも啓蒙活動がもっと必要だと思っています。ニューヨークワインとカリフォルニアワインは、優劣ではなく、香味が異なります。その理由は何か。そこを、販売に携わる人によく理解していただき、伝えていただきたい。生産者に会い、ワインを体験して、環境も気候も品種も、そして課題も異なることを知っていただきたいですね。例えばフィンガーレイクスの場合、ヴィンテージによる差異が大きい。温暖な年も冷涼な年も、ドライな年も多雨な年もあり、しかしそれでも毎年異なる輝きを持ったワインが出来上がっています。ニューヨークワインは実にダイナミックで、まだ発見があるワイン産地です。ぜひ興味を持ち、生産者に会いに来ていただきたいですね」と、カイルさんは締め括った。
プロワイン東京 2026のニューヨークワインのブースで試飲に供されたのは86種類。そのうち半分は未輸入品だった。これを機会に新たに輸入が決まることを期待したい。
別府岳則氏によるマスタークラス 3生産者・4ワイナリー
ニューヨークワイン&グレープ財団日本オフィスの別府岳則氏が、ニューヨークワインの概要を説明し、3生産者・4ワイナリーのワインを紹介した。その内容をまとめる。<これらの4ワイナリーはいずれも日本未輸入で、輸入元を募集中!>
アメリカ生まれのワインは、強くて濃くてパワフルなワインのイメージが強いが、そういったワインは西海岸から生まれている。東海岸のニューヨーク州は、ワイン産地としてまだあまり知られていないが、州別の生産量では3番目。アメリカ産ワインの80%以上はカリフォルニア州産で、続いてワシントン州、3番目がニューヨーク州、そしてオレゴンだった。ただ、ニューヨーク州が2番目になったという直近のデータもあり、勢いを増している。
東海岸は欧州から近いため入植が早く、17世紀半ばぐらいから醸造用ブドウの植樹を開始した。しかし当時は、「寒過ぎて欧州品種は失敗した」とされていた。ところが後で、実はこのあたりがフィロキセラ誕生の地であったため、ヴィニフェラが成長できなかったのだと判明した。欧州品種が不作に終わった頃でも、入植者にはキリスト教徒が多かったためワインは必需品であり、もともと地元で育っていた品種でワインを造り始めた。いわゆるラブルスカ系だ。そしてその後、禁酒法が終わってから耐寒性・耐病性のあるハイブリッド系品種の栽培が広がった。
1953年にコンスタンティン・フランク博士により、台木を使用した欧州品種の栽培開始。1976年には19社だったワイナリーは、1993年に110社、そして今では約450社以上。また、ニューヨーク州は、実は農業がとても盛んな州でもある。ワイン生産に関するAVAは7つあり、そのうち、ロングアイランドとフィンガー・レイクスが最重要産地として挙げられる。
*フィンガー・レイクスは、氷河による特殊な地形で5本の指のように見える深く削られた5つの湖ある。中央のセネカ湖(その南北の距離は琵琶湖と同等)、その東のカユガ湖、西のキューカ湖など。冬は氷点下10〜20℃の寒さになり、ブドウ栽培は、凍害対策を含め湖近くで行われている。
*ロングアイランドは、大西洋に囲まれている。より水の面積が広いこともあり、気温が安定している。
*栽培品種は、リースリング、シャルドネ、カベルネ・フラン、メルロが主体で、合計40種類以上にもなる。特にカベルネ・フランの注目度はこの10年でグッと上がった。重要なのは、アメリカ品種、欧州品種、両者のハイブリッドの3系統が栽培されているという点だ。例えば、コンコードが最も栽培面積が広く、ナイアガラも栽培されている。湿度が高く冷涼な気候であり、日本にも通じるところがある。
Buttonwood Grove Winery
Riesling Riemer Block 2023 Finger Lakes
ワイナリーは、フィンガー・レイクスのカユガ湖西岸に位置している。栽培品種はリースリングとカベルネ・フラン。2014年に前オーナーのリーマー家から購入。このリースリングは1999年植樹の単一区画キュヴェ。
「湖畔にある畑のため、湿度が高いことがテクスチャーに影響するようだ。ドイツのリースリングは、もっと硬くてミネラリーで切るような酸味なのに対し、これは柔らかいテクスチャーで、みずみずしさも感じる。もちろんこのキュヴェはハイエンドな銘柄なのでグリッピーさもあるが。また、ニューヨークワインには決まりがないことも特徴の一つ。場所のキャラクターは出るが、生産者によって色が異なるところも面白さ。今回のブースには、リースリングだけで30種類以上も出ているし、ゲヴルツトラミネール、シャルドネ、シュナン・ブランもある」と、別府さん。
試飲すると、立ち上る清涼感ある香り。アタックは滑らかで、酸はとてもフレッシュだが、果実の甘みも充実。ほのかな収斂性が感じられ、ミネラル感、芯が強い印象。余韻は塩レモン。
Mazza Chautauqua Cellars
The Perfect Rose 2024 Lake Erie
来日した人:ワイナリーを経営する家族の一員のマリオ・マッツァさん。
1970年代に叔父が始めたワイナリー。五大湖の一つ、エリー湖畔に位置している。ハイブリッド品種も栽培。今日のロゼもフレンチ・アメリカンのハイブリッド、シャンブルソン品種Chambourcin。ワインの他にビールやスピリッツも生産している。
「この湖は浅いため冬には湖面が凍る。そのため、レイク・エフェクトが起きないのでとても寒い!」と、別府さん。
試飲すると、ベリー類、ブラッドオレンジ、フレープフルーツ、そして少しだけスモーキーさも感じる香り。しなやかなアタックで、酸もとてもフレッシュ。ほの苦みがある、程よい軽快さ。口中で花の香りも現れ、とてもスッキリとしたスモモの余韻。
Six Eighty Cellars
Pinot Noir Gewürztraminer Co-ferment, Concrete Diamond 2023 Finger Lakes
来日した人:オーナーのデイヴ・ピタールさん。(Buttonwood Grove Wineryも経営)
フィンガー・レイクスのカユガ湖西岸に位置する。異なるスタイルの、実験的なワインを造るため、2020年にここを購入。醸造に使用する容器は、石やアンフォラなど。ムニエ、グリューナー・フェルトリーナー、ガメイ、シュナン・ブランなども栽培している。
「ピノ・ノワールを手摘みし、機械収穫のゲヴルツトラミネールの果汁をピノ・ノワールに加え、混醸。石の容器で長期間発酵している」。
試飲すると、爽やかな酸味で収斂性も感じられ、口中でゲヴルツトラミネールのアロマがふわりと現れる。石を思わせる鉱物的なニュアンスがある。
Fox Run Vineyards
Unoaked Lemberger 2024
フィンガー・レイクスのセネカ湖西岸にあるワイナリー。36年の歴史があり、最初の植樹は1984年。「ワインを飲んで幸せになる」。これがこのワイナリーのコンセプト。
これは、レンベルガー(ブラウフレンキッシュ)をステンレスタンクで醸造。
「アルコール度数は12%ほど。黒ブドウでもきちんと成熟し、うま味がのり、ジューシー。フィンガー・レイクスでは、ピラジン系の香りが出やすいカベルネ・フランよりも、スパイシーさが出るレンベルガーの方が、よい意味で親しみが持ちやすいスタイルになる。また、ピノ・ノワールよりも、近年はカベルネ・フランやレンベルガーの方が注目されてきている」と、別府さん。
試飲すると、鮮やかな香りが印象的。赤い果実が立ち上るピュアな香り。滑らかなアタックで、ジューシー。バランスよく、ほどよい酸味と収斂生の引き締まった味わい。余韻にはほのかなスパイスが感じられた。
取材協力:ニューヨークワイン&グレープ財団
text & photos by Yasuko Nagoshi























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