カリフォルニア、ソノマに2007 年に設立されたワイナリー『BEDLOCK ベッドロック』の共同経営者兼ワインメーカー、モーガン・トゥウェイン= ピーターソンは、今、カリフォルニアで最も注目を集める若手醸造家の一人だ。
レーヴェンスウッドのジョエル・ピーターソンを父に持つモーガンは、5 歳の時にブラインドテイスティングでメルロとジンファンデルを利き分け、さらに5歳~ 10 歳にかけて、サンジャコモ畑の葡萄を使いドメーヌ・デュジャックに倣って全房発酵させて造ったワインが「Vino Bambino Pinot Noir」という名前で、有名レストランにオンリストされていたという逸話を持つ。まさにワイン造りの申し子とも言えるサラブレッドだ。2014 年には弱冠33歳の若さで、サンフランシスコ・クロニクル紙のワイン・メーカー・オブ・ジ・イヤーに選ばれている。
コロンビア大学の同窓生で親友として途中からベッドロックの共同経営者となっているクリス・コトレルとともにモーガンが初来日したのを機に、各地の古木の葡萄を使ったジンファンデルを中心に紹介した。
ベッドロックのワイン造りは一貫している。2005 年からピーターソン家の所有畑となっているベッドロック畑をはじめ、古木が栽培されているソノマ各地の葡萄を使い、畑の個性が反映されたワインをつくること。そのため、畑では実質的な有機栽培を実践している。ほとんどドライファーミングによって、アロマが凝縮した時点で早めに収穫する。醸造は葡萄を丁寧に扱い、多くの場合、除梗・破砕をせずにそのまま全房で自然酵母による。
“夢は大きく、しかし生産量は少なめ!”がモットーだ。当初は養鶏場を改造して醸造を行っていたが、2013年、レーヴェンスウッドから5分ほど離れたソノマ市内に専用ワイナリーが建設されている。ジンファンデルベースのワインは以下の3種を試飲した。
Bedrock, Old Vine Zinfandel, California 2014
ソノマ・ヴァレーのベッドロック、カーサ・サンティナマリア、そして標高が高いモンテ・ロッソのぶどうを中心に、アレキサンダー・ヴァレー、ロシアン・リヴァー・ヴァレー、ローダイなどジンファンデルの古木が栽培されている畑の葡萄を使用。ジンファンデルが約80%で、カリニャン、ムールヴェードル、アリカンテ・ブーシェ、プティシラー、さらに若干の白葡萄品種も混じり、12%をフランス産およびオーストリア産の新樽で熟成させている。澱引きはしない。アルコール度数は14.3%。赤い果実のアロマが豊かで、引き締まって緻密なタンニン、ピュアな酸が特徴。
「ジンファンデルは日照と温度によりビッグで大柄、高いアルコール度数のワインになりやすいが、自分はアロマティックでピュアな酸を備えたワインを造りたい」。
The Bedrock Heritage Sonoma Valley Red Wine 2011 & 2014
ベッドロックは1854年に開墾され、150年以上の歴史をもつソノマ・ヴァレーの中でも歴史的な畑。これまで何度か所有者が替わったが、2005年から62haをピーターソン家が所有。購入後はカバークロップの実施や灌漑および施肥の抑制、バイオディーゼル燃料を使ったトラクターの導入、さらには品種やクローンの植え替えなども行っている。この結果、樹齢120 年のものを含む古木の葡萄が栽培されているのは現在15haとなっている。赤土の粘土質土壌で花崗岩が多いこの畑からはミネラルでアロマティック、スパイシーなニュアンスを持ったワインができるのが特徴。ジンファンデルとカリニャンを主体に、このほか22の異なる品種が混植されている。これらを自然酵母で混醸し、フランス産の樽(新樽比率20~30%)で約1年熟成。冷涼年の2011年産は黒系や赤系の果実のアロマが凝縮し、緻密で滑らかなタンニン、エレガントな味わい。2014年はフルボディでパワフル。ベリーやスミレ、ハーブなど複雑な香りが汪溢し、シルキーな舌触りが印象的。
Bedrock, Zinfandel Monte Rosso, Sonoma Valley 2014
モンテ・ロッソの畑は、マヤカマス山のソノマ側山頂近く、標高220~380mの急斜面に広がっている。名前のとおり山岳地帯にある赤土(鉄分などを多く含む火山性堆積土壌)の畑だ。ここでは250エーカー約100ha)の畑の98%でジンファンデルを栽培。1886年や96年に植樹されたものを含み、平均樹齢は100年を超えている。ここの葡萄を調達できるのはベッドロックの他、リッジ、レーヴェンスウッド、バイレ、ローゼンブルムなど限られた生産家だけで、いずれも各ワイナリーの最高峰ワインが造られている。凝縮して複雑なアロマ、引き締まってエレガントな味わいはジンファンデルのイメージを一新するような素晴らしさがある。
樹齢が古い樹にこだわるのは何故なのか。この問いに応えて、「自分は歴史家になりたくて大学で歴史学を専攻したが、昔の畑は誰がどんな風に育ててきたのかとても興味がある。たとえば、1883 年や89 年に植えられた葡萄は、その後の禁酒法やフィロキセラ禍にも耐えて生き延びてきた。カリフォルニアではここ3~5年、水不足が続いているが、樹齢が高い木は灌漑を行わなくとも自ら生き延びる力を持っており、その生命力にはとても惹きつけられる魅力があるだ」とモーガンは語っている。(M. Yoshino)
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