ブルワリーレストラン探訪/小西酒造 長寿蔵 日本独自のスタイル“ジャパニーズエール” 清酒とベルギービールの技術を融合

米国醸造者協会が主催する国際的なビール品評会「ワールドビアカップ(WBC)2016」のエクスペリメンタルビール部門において、小西酒造の『有馬麦酒ジャパンエール』※がゴールドメダルを受賞した。同社はベルジャンホワイトタイプの『スノーブロンシュ』で英国インターナショナルビアアワード(IBA、旧BIIA)とドイツヨーロピアンビアスター(EBS)の最高金賞を既に受賞しているので、今回の受賞により、世界3大ビールコンテストで3冠を達成したことになる。

今回、伊丹市にあるブルワリーレストラン『長寿蔵』を訪問し、クラフトビール事業部部長辻巖氏に、「KONISHIビール」が目指すクラフトビールの方向性などを聞いた。

 

清酒『白雪』の醸造元小西酒造の創業は1550年(天文19年)。466年の歴史を持つ日本最古の清酒メーカー(酒蔵)である。

さらに、地元の伊丹市とベルギー・ハッセルト市が姉妹都市であることから、1988年にベルギービールの輸入販売を開始した。自らのビールづくりは1995年の地ビール解禁と同時に参入し、長寿蔵でビールの製造を開始して21年になる。辻部長も清酒の製造管理部門から抜擢され、ビール醸造の責任を担うことになった。

地ビールの参入に先立っては、ベルギーでビール醸造の技術を習得し、さらに醸造設備が完成してからは、ベルギーから技術者を招聘し指導を受けた。こうしてベルギータイプのビールづくりをスタートした。日本では大手を含めてドイツビールの技術を学ぶことが多い中、ベルギービールの技術を学んだ同社はユニークな存在といえる。

さらに小西酒造では500年近く続く清酒の製造技術をこのビールづくりに生かしている。

辻部長は「ベルギービールの技術と清酒の技術を融合した『蔵麦酒(クラバクシュ)』という考え方から、日本独自のジャパニーズエールを目指しています」と端的に説明する。

『スノーブロンシュ』(4.5%)では、「吟醸酒をつくるような感覚で微妙な温度差をコントロールしています。“酵母の喜ぶ環境をつくる”という私の考え方は、清酒をつくっていた時と同じです。通常、ビールの味わいや香りを決めるのは、主に大麦やホップなどの原料由来という考え方が中心です。一方、清酒の場合は酵母由来です。(無味無臭の)お米から、あの吟醸香が醸し出されるわけですから、酵母を主役に考えています」と辻部長。

清酒と同じように、香りを酵母につくらせる発想のようだ。このため、同社のビールはすべてフレッシュ酵母を使用し、酵母の使い回しは行わない。

さらに、いくつかの代表的な商品を紹介してくれた。

『穂和香(ホワカ)』(3.0%)では、清酒で使う酒造好適米の「山田錦」を大麦麦芽と併用している。これにより米のふくよかさとすっきりとした甘さから、ビールが苦手な人でも気軽に飲める味わいに仕上げた。

幕末に日本で最初のビールをつくった蘭学者川本幸民のレシピを忠実に再現したのが『幸民麦酒』。当時ビール酵母は日本になかったので、清酒酵母を用いた。ただ、清酒酵母の発酵力は強く、それをコントロールするのは難しい。そこで、すべて清酒酵母の発酵方式を用いて、段仕込みを行っている。

『ガーネット・ルージュ』(5.5%)では、黒米(古代米)を使用。黒米の色素であるアントシアニンが、赤ワインのようにグラスの中で酸化して香りに変化を与えるという。

その香りの変化について、辻部長は「トップノートは、使っているネルソン・ソーヴィンのホップの香りがします。さらに、洋梨のような香りが続いて、最後はドライフルーツのような香りに変わります。このようなビールは世界でも前例がなく、WBCの審査員が来日した際にテイスティングして驚いていました」と付け加えた。

ところで、今回、特約店卸コンタツの音頭で酒造メーカー3社が共同開発したクラフトビールのうち、同社が開発した『OSAKABAY BLUES<ベルジャン・ホワイト>』(5.0%)は「ボトル熟成ビール」の生ビールだという。

パストライザーはもちろん、フィルターろ過も遠心分離器も使っていない。通常は酵母入りの生ビールの場合はチルド流通となるが、このビールは生きた酵母入りで常温流通できるのが特長という。これは画期的なので、あれこれと聞いたが教えてくれない。

「当社独自の技術なので、まだオープンにはできませんが、黒ビールも出来上がっています。この商品を通じて、日本独自のスタイルであるジャパニーズエールというカテゴリーをもっと大きく育てていきたい」と締めくくった。

 

レストランで飲める4種テイスティングセット

レストランで飲める4種テイスティングセット

※『有馬麦酒ジャパンエール』は有馬温泉で飲めるクラフトビールとして商品化されたので、長寿蔵の直売店でも販売しておらず、残念ながら当日は飲むことができなかった。

六甲長尾山系の伏流水と酒造好適米の山田錦を使用し、清酒酵母と清酒技術を用いて醸した淡い黄金色のビールで、米の旨みと豊かな香りが和食にもよく合うという。(A. Horiguchi)

画像:銅製の仕込釜の前で、クラフト事業部部長辻巖氏

WANDSメルマガ登録

関連記事

ページ上部へ戻る