マリコ・ヴィンヤード オムニスのアサンブラージュについて

シャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンがワインの代名詞のようになったので、一時期、世界中のワイナリーが競うようにブドウ品種名をラベルに表示した。訪ねたこともなく、どう読んで良いかもわからない地名のラベルより、「カブ」とか「シャドネー」で通じるラベルの方が新しいワイン消費地の人々に受けが良かった。ヴァラエタルワインはこうして全盛の時期を謳歌したのだった。

 

すっかり困ってしまったフランスワインの生産者は、英語圏のオピニオン・リーダーに向かって“テロワール”という得体のしれない概念を投げかけることで、この事態を打開しようと努めた。一方で、ワインの画一化に抗う生産者が、土地の固有品種やミクロクリマを強調したワイン造りに取り組みはじめた。

ワインの消費地では、シャルドネとカベルネが世界中で造られ、どこで造っても大して変わらない味わいであることに安心と親しみを感じる人もいれば、飽きを感じて新しい何かを求める消費者も出てきている。

 

シャトー・メルシャンの小林弘憲ワインメーカー

シャトー・メルシャンの小林弘憲ワインメーカー

シャトー・メルシャンの小林弘憲ワインメーカーが興味深い話をしてくれた。

「あれは2010年のことでした。マリコ・ヴィンヤード(以下マリコ)をどう表現するかをみんなで議論したのです。

それまで、マリコで収穫したメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランは、それぞれヴァラエタルワインにしていました。しかし私は、ヴァラエタルワインではマリコのすべてを伝えきれない。マリコのテロワールを表現したボトルを造るべきだと思ったのです。ボルドーのように、マリコのすべてをアサンブラージュして、ベストのマリコをボトルに詰めるべきだと主張しました。

その時の主張が受け入れられて、2009年産マリコのアサンブラージュに取り掛かりました。そして、最終的に選抜されたワインに“オムニス”と名付けました。“全て、全部”を意味するラテン語です」。

 

「オムニスは品種ごとに収穫、発酵させ、フレンチオーク樽で約18か月育成し、収穫の翌々年の春にアサンブラージュします。その後、瓶詰してボトルでさらに1年間熟成します。マリコ・ヴィンヤードは2003年から植栽が開始され、10年の樹齢を経た2013年あたりから目に見えてクオリティが高くなり、オムニス候補になるワインがぐっと増えてきました」と小林は言う。

 

マリコの品種別栽培比率からみると、オムニスはメルロー主体のブレンド比率になるはずだ。しかし、ファースト・ヴィンテージの2009年は、例外的な天候に恵まれカベルネ・ソーヴィニヨンが非常によく熟した。その結果、カベルネ・ソーヴィニヨンを64%、メルロー21%、カベルネ・フラン11%、ビジュ・ノワール4%でアサンブラージュした。2009年の生産量は約1,000本だという。

 

2010年はオムニスを造らなかった。気候に恵まれずオムニスの品質水準に達したワインがなかったからだ。2011年は造ったがカベルネ・ソーヴィニヨンが55%と最大で、メルロー36%、カベルネ・フラン9%のブレンドだ。生産量は約1,200本。

2012年と2013年はともにメルローが50%になった。瓶詰数も増加し、2012年が約1,600本、2013年が約2,000本となった。そして2014年はメルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンのブレンドで過去最高の約4,000本を造ることができた。

 

ここにきて新しい問題が生まれている。

ひとつはメルローの欠株が目立ってきたことだ。欠株とはブドウ樹列の樹のあるべきポイントに樹が無い、樹間の所々が欠けていることをいう。欠株になった理由はさまざまだ。食害(鹿に新芽を食べられた)、虫害、風害などと並んで、水脈に入り込んだ根が呼吸できなくなるというマリコの土壌特性(強粘土質土壌)に由来する理由もある。

もうひとつは、カベルネ・ソーヴィニヨンの区画が少ないこと。これまでの栽培経験と新しい見地に立ってマリコの植栽比率見直しの作業が始まっている。

 

シラーをどうするか。

このところマリコのシラーが注目されている。オムニスの基本構想に立てば、このシラーもアサンブラージュして然るべきだ。しかし小林は言う。

「マリコのシラーは白胡椒の香りがとても強いので、少しブレンドしただけでも、この香りがオムニスの香りを支配してしまうのです。また、クール・クライメット・シラーとしてのニュアンスをよく表現しているため、ヴァラエタルワインとして高い評価を戴いていることもあります。マリコのシラーをどう扱うか早急に結論を出す必要がありますね」。

 

おしまいにマリコ・ヴィンヤードの2016年収穫状況を簡単に紹介する。

9月15日頃までは近年稀にみる好天が続いた。しかし、ここから台風が連続して通過し、20日間ほど雨が降り続いたことで情況は一変した。日照時間が十分に確保できず、糖度が十分に上がらないとともに、降雨の影響で果粒が膨らんだ。また、晩腐病、灰カビ病などの発生も見られたため、収量を落とさなければならなかった。

長雨の来る前に収穫できたソーヴィニヨン・ブランや一部のシャルドネの出来は素晴らしい。一方、雨が終わり、収穫を10月中旬まで延ばしたカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンも回復した。品種別では連続した降雨の最中に収穫期の重なったメルローが最も厳しかった。

 

2016年のオムニスはどのような品種割合になるのだろうか。今後の樽育成による各品種のワインの変化が期待される。

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