ピオ・チェーザレのピオ・ボッファが“Please don’t call it regular” 理解のため世界初の試飲セミナー

18881年創立のバローロの老舗ピオ・チェーザレから5代目のピオ・ボッファが来日し、特別な試飲セミナーを開催すると連絡を受けた。その招待状には ”Please don’t call it regular” と記してあった。初の試みとして、2014年、2015年、2016年のバローロを構成する4つのクリュのバレル・サンプルを試飲するという内容だった。

 

<ピオ・チェーザレの伝統と方針>

「ピオ・チェーザレでは、19世紀後半からずっとそれぞれの畑の個性を生かしてブレンドし、バローロやバルバレスコの全体像を表現するワイン造りをしてきた。単一畑からワインを造るのは私たちの伝統ではない」と、ピオ・ボッファは話し始めた。

バローロで造られていたワインは、1850〜1860年まで、半甘口やロゼのスタイルだった。フランスのサボイア王国から来た造り手が辛口ワインを造り始めた。曽祖父が最初のバローロやバルバレスコを造った人の一人。品質の高いものを少しだけと考えており、当初から様々なエリアをブレンドして造るのが良いとわかっていた。当時のブレンドの詳細についても、まだ秘蔵していて誇りに思っている。

その後、1960年以降に新しいトレンドが生まれた。栽培家が自らワインを造るようになり、単一畑キュヴェを造り始めた。

バローロは西の谷から東の谷までいくつものコミューンにわかれている。西のラ・モッラは砂が多く丘はなだらかで、エレガントでタンニンも柔らかく、果実が豊かで甘みを感じるわかりやすいワインができる。

東側の丘には、セッラルンガ・ダルバ、カスティリオーネ・ファレット、モンフォルテ・ダルバがある。こちらはもっとコンパクトな硬い土壌で石灰質が多く、急斜面だ。タンニンが顕著で収斂性が多く、渋みを感じ、がっちりとして熟成が必要なワインができる。

バローロは、このどちらも含んでいる。だからピオ・チェーザレでは昔からの方法で、個性の異なるワインをブレンドして、ソフトさも備えた長寿なバローロを造っている。

2014年に還暦祝いで購入したモンフォルテ・ダルバのモスコーニも含め現在合計70haをバローロとバルバレスコに所有している。

 

<世界初のテイスティング>

ピオ・ボッファは、自社畑の中から象徴的なクリュをピックアップして、2016年、2015年、2014年のそれぞれのクリュのバレル・サンプルと、ブレンド済みのバレル・サンプルの比較試飲を準備していた。各ヴィンテージの単一クリュは、ラ・モッラのロンカリエ、モンフォルテのモスコーニ(モスコーニは2015年が初ヴィンテージのため2014年はセッラルンガのブリッコリーナ)、セッラルンガのオルナート。加えて、完成品の2013年、2004年も供された。

ヴィンテージによりもちろん性格は異なるが、共通してラ・モッラのロンカリエは果実が豊かでソフト、モンフォルテのモスコーニはより凝縮感とストラクチャーが増し、セッラルンガのオルナートは硬く収斂性も強い。

かたやブレンド済みのキュヴェは、なめらかさやソフトな食感、果実の豊かさがありながら、タンニンもしっかり。確かにピオ・ボッファが言うように様々な要素を兼ね備えて調和がとれている。また、ピオ・チェーザレの畑はセッラルンガに多いため60〜65%がセッラルンガだからその分ストラクチャーがしっかりとしているのだという。

 

<だから、「普通の」とは呼ばないで!>

最後にピオ・ボッファはこう発言した。

「単一畑の名前が記していないキュヴェを『普通の』『ノーマル』あるいは『レギュラー』のバローロと皆が言う。評論家も消費者もそうだ。それは、ここ最近ずっと単一畑のバローロがもてはやされたからだと思っている」。「しかし、優れた畑からできたマルチヴィンヤードのバローロであれば、それが伝統的なすばらしいバローロの見本だ。まったく『普通』ではない。うちは136年をかけてブレンドを駆使してきた。だから2番目の品質のものではない。それを理解してほしいと考えて2014年ヴィンテージから、ラベルの下方に ”Please don’t call it regular” と書き加えることにした。私たちは、意図的に複数の畑の葡萄をブレンドすることで、より優れたバローロを造ろうとしている。クラシックで完璧な姿の、完全にバランスのとれたバローロを造ろうとしている。だから、『普通の』とは呼ばないでほしい」。

 

ピオ・ボッファは真顔でジョークを連発する面白い人だが、今回は終始真剣そのものだった。最終キュヴェが、いかに考え抜かれたブレンドで完成度が高いのはよく理解できた。しかし、単一畑キュヴェが数量限定でより高値で販売されている以上、どうしても「レギュラー」「ノーマル」という言葉を使いたくなる。シャンパーニュの「ノン・ヴィンテージ」ならぬ「マルチヴィンテージ」のように、ここは「マルチヴィンヤード」と呼ぶべきだろうか。ともあれウイットに富んだ、考えさせられる記載だ。(Y. Nagoshi)

画像提供:アルカン

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