新しい味わいのスタイルを表現する岩の原ワインのマスカット・ベーリーA 2015

2017年は川上善兵衛が交配した「マスカット・ベーリーA」が誕生してからちょうど90 周年にあたる。そして、今年のJapan Wine Competition 2017 では、善兵衛が興したワイナリー、岩の原葡萄園の自園産有機ぶどうを使った「マスカット・ベーリーA 2015」が国内改良品種・赤の部門で金賞および部門最高賞を受賞した。

これを機に、岩の原葡萄ではこのほど、受賞ワインと、同じ善兵衛品種を使った辛口白ワインの新製品を紹介する試飲セミナーを開催した。

岩の原葡萄園では、延べ6ha の自園にぶどうを植栽しているが、その内の約6割にあたる3.52haがマスカット・ベーリーA。この自園のぶどうを使って、2種のワインをつくっている。一つは、マスカット・ベーリーAを主体にしつつ数パーセントほどブラック・クィーンをブレンドして世界水準のワインを目指した「ヘリテージ」。そしてもう一つが品種100%で造る「マスカット・ベーリーA」だ。このマスカット・ベーリーAはいわば“岩の原のテロワール” を表現したワインで、2010年にJAS有機認証をうけた畑のぶどうを使い、培養増殖した自然酵母によって発酵を行っている。

自生酵母の培養は、まず、ブルーム(蝋粉、ぶどう粒を被う薄い膜状の脂質)のしっかりしたぶどう5Kgを選別し、ゴム手袋をして丁寧に除梗し、ピロ亜硫酸カリウム(メタカリ)を少々加える。こうして果汁を5つの発酵容器に入れたものを恒温(20℃)で3日間かけて培養する。セメダインの香りをもったものは当然除外する。そうしてさらに20Kg、100Kgと徐々に酵母を増やしている。なかなか手間と繊細さが要求される作業だ。

「自生酵母の選抜は発酵状態や泡立ちなどをチェックしながら行っているが、大切なのは経験と勘、そして度胸だ。2009 年にこの作業をスタートしたときは恒温装置が無かったので、湯を張ったところに容器を浸けたり、ボイラー室で暖めていた」と、岩の原葡萄園での勤続が35年になる製造部長の上村浩一氏は語る。

岩の原葡萄園では2014年に、グラヴィティ・フローで葡萄果と果汁処理ができる新しい醸造棟が完成した。同時に、小容量タンクを導入し、畑の区画ごとに仕込ができるようになった。発酵温度は5日から10日目ぐらいに掛けて急上昇し、最終的に27~28℃に達する。これと反比例するように果汁の比重も急激に下がる。6日目頃から液面には泡が立たなくなるが、発酵がすっかり終わってからポンピングオーヴァーをおこなう。「有機ぶどうの破砕量は約9トン。最初はパンチングダウンを行っていたが、櫂が下まで届かない。そこで手でスプリンクラーの流量を加減しながらポンピングオーヴァーを行うことに変えた」。

こうして造られた2015年産のマスカット・ベーリーA。「2015 年はぶどうの成育期全体をとおして圧倒的に降水量が少なかった。通常年だと高田の降水量は甲府の1.3倍あるが、この年は甲府より降水量が少ない。日照時間も長野、甲府と変わらない位あった」と、棚橋博史社長。この結果、自園のマスカット・ベーリーAの仕込段階での糖度は19.7 と過去5年間で最高となった。しかも酸度も0.8g/ℓと狙い通りの範囲に収まったという。

アリエやトロンセ、一部アメリカンの樽(新樽比率16.8%)で15か月熟成した2015年産のマスカット・ベーリーAの製造数量は3240本。アルコール度数は12%。MBA特有の苺香は抑え目で、むしろ黒系果実の香りと樽香とが調和。適度に凝縮し滑らかな舌触り、フレッシュな酸と余韻の長さはさらに進化したマスカット・ベーリーAの新しいスタイルを表現している。

「2015 年産は、天候の割には色調が薄い。しかしこれは自生酵母によるもので、香りはインパクトがあり、味わいも滑らかだ」。

今年2017年の天候は、2015年とは対照的に7月第1週の大雨、8月全般の雨の影響で4~9月にかけての降雨量は平年比28%増。しかし、気温や日照時間は平年より上。病気もほとんどなく、粘りに粘って糖度21度以上のぶどうを10月1日から収穫を始めた。すでに仕込を終え、樽貯蔵を経て2年後に上市される予定だ。はたしてどんなワインに仕上がってくるのだろうか。

 

善兵衛品種を使った辛口白ワインの新製品2種

川上善兵衛はその生涯において1万311回の交配を行ったといわれる。その内、22品種を優良品種として選別したが、岩の原葡萄園では現在、マスカット・ベーリーAの他、ブラック・クィーン、ベーリー・アリカント、ローズ・シオター、レッド・ミルレンニューム計5種の善兵衛品種を栽培。今回、これらの品種を使った2016年産辛口白ワイン2種を上市した。(M. Yoshino)

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トップ画像:棚橋博史社長(左)と上村宏一製造部長

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