女性による女性のためのシャンパーニュ メアリー・スチュアート

シェフ・ド・カーヴのイザベル・マリ(左)とマーケティング・ディレクターのリュシ-・デリニ―

女王の名を冠したシャンパーニュ

シャンパーニュと女王。この上なく高貴な響きだ。

シャンパーニュ・メアリー・スチュアートは、ルネサンス期の女王の名を冠したシャンパーニュで、ティエノ・グループのブランドだ。その歴史は1867年に始まった。シャンパーニュ地方ランス市の当時の名士ドーブレス師によって命名され、シャンパーニュのグラン・メゾンで密やかに所有されていた。女王の名前を冠したシャンパーニュはそれまでにはなく、歴史上、初めてのことだったという。1994年からシャンパーニュの名門ティエノ家が所有し、現在はティエノ・グループの所有となっている。

 

メアリー・スチュアートはフランスで王妃に、スコットランドでは女王となり、16世紀の激動の時代を駆け抜けた人物である。エリザベス1世のライバルと目されたその生き様は、オペラや音楽、小説、映画などさまざまな芸術作品の題材にされている。例えば19世紀半ばにはロベルト・シューマンが、メアリー女王の悲痛な嘆きを歌曲にしている。また20世紀前半から現在に至るまで、幾度となく映画化もされてきた。最近の作品としては英米合作の「Mary Queen of Scots」が2018年末に公開され、日本でも「二人の女王、メアリーとエリザベス」という邦題でこの春から上映されている。エリザベスと並ぶルネサンス期のポピュラーな女王なのだ。

男性社会で奮闘する女王とシャンパーニュ地方

王位継承、権力闘争に翻弄されたメアリーの人生は凄絶だ。元来強い女性であったのか否かは定かでないが、次々と降りかかる問題に毅然と挑まなければならない立場と環境が、芯の強さを培ったのかもしれない。その生い立ちからしてドラマティックだ。父であるスコットランド王ジェームズ5世と二人の兄が早世したため、生後わずかで王位を継承する。ところが間もなく政権争いに巻き込まれ、6歳の時にフランスのアンリ2世のもとに逃れて、フランス宮廷で育てられる。そして渡仏10年後にアンリ2世の王太子フランソワと婚姻関係を結び、フランソワ2世が即位の際に17歳でフランス王妃となる。

 

しかしフランソワ2世は即位から1年で病死し、18歳で未亡人となる。フランソワ2世との間に子供が生まれなかったメアリーは、スコットランドに戻り、スコットランド女王としての道を歩む。その後の人生は、女性君主に対する反対勢力の陰謀や家臣の謀反、内乱に巻き込まれ、波乱に満ちた展開となる。特に従姉妹であるイングランド女王エリザベス1世とは激しい王位継承争いを繰り広げた。3度の結婚と出産を経たメアリーと生涯独身を貫いたエリザベスは、対照的な存在として語り継がれている。相反する存在とはいえ、女性が国を統治し、男性社会を治めるのは並大抵のことではなかったであろう。

 

さて、そのメアリーがフランスで過ごした幼少時代は、人生の中で比較的安泰な時期だったようだ。彼女の叔母にあたるルネ・ド・ロレーヌは女子大修道院長であったため、メアリーがランス市内のサン・ピエール・レ・ダム修道院に滞在した折には歓待を受けたという。そして叶わなかったものの、ランスは埋葬されることを望んだ場所だという。ランス大聖堂の南東にあったこの修道院は、革命や戦争によって現在は消失したが、通りの名前として残されている。そしてこのサン・ピエール・レ・ダム通りと交わるように、メアリー・スチュアートと名付けられた通りもある。

 

女性がリードするシャンパーニュ造り

シャンパーニュ・メアリー・スチュアートのワイン造りの指揮を執るのは女性だ。男性ばかりの職場の紅一点、シェフ・ド・カーヴを務めるイザベル・マリは、シャンパーニュ地方の出身。食品生化学の修士や醸造学の博士課程のディプロムを取得し、研究機関の仕事を経て、シャンパーニュ造りに携わるようになった。

2004年からシャンパーニュ・ティエノに加わり、2018年、メアリー・スチュアートのシェフ・ド・カーヴに抜擢された。醸造家やシェフ・ド・カーヴの仕事は、今のところまだ男性優位ではあるが、イザベルのように女性の活躍も徐々に見られるようになってきた。フランスの料理界ではシェフの94%は男性が占めるが、厨房よりもカーヴの方がささやかながら女性の割合は多いようだ。

 

「カーヴの中では力仕事もあるので、男性の力は必要です。ただ、ブレンド作業などで意見が分かれたら、最終的には私自身の感性に従って判断します。なぜならメゾンの味わいの方向性は、これまでの経験で私の身体に叩きこんできましたから。記憶に基づく感性はとても重要です」

と、穏やかながらブレのない芯の強い一面を見せてくれた。

 

瓶詰めまでの醸造と熟成の作業はテシー村にある醸造所で行い、瓶詰め後の作業はリュード村の熟成カーヴで行っている。モンターニュ・ド・ランスとヴァレ・ド・ラ・マルヌ、コート・デ・ブランの厳選したクリュや契約農家のブドウを使用し、品種やクリュごとにステンレスタンクで醸造、熟成する。マロラクティック発酵も毎年行うのがメアリー・スチュアートのスタイルだ。

 

味わいはピュアでフレッシュ、しなやかな女性のイメージ

シャンパーニュ・メアリー・スチュアートには5種類のキュヴェがある。すべてに通ずる特徴は、奇をてらうことのない透明感のあるフレッシュな造りだ。芯がしっかりとしていながら自然体で楽しめるその味わいは女性に好まれるタイプだと思う。

 

年間生産本数は約50万本で、その75%をフランス市場が占める。主にスーパーなどで販売されており、買い物客の多数を占める女性に人気の商品となった。販売の約70%を占める主力アイテムがキュヴェ・ド・ラ・レーヌ・ブリュット(王妃のキュヴェ)。そのロゼとともに、昨年から日本でも販売されるようになった。現在、世界15か国に輸出されているが、販売開始から一年足らずの日本市場が、すでに第一位の輸出国になっている。

シャンパーニュ・メアリー・スチュアートのフラッグシップであるキュヴェ・ド・ラ・レーヌ・ブリュットを試飲した。生産年によってブレンド比率は若干異なるが、現在販売中の2016年ベースは、ムニエ45%、ピノ・ノワール30%、シャルドネ25%で、リザーヴワインの割合は20%。ドザージュは9g/l。香りは程よくフレッシュで濃厚な印象。ミラベルや黄桃などの黄系フルーツと、ほのかにハチミツやバター、ブリオッシュの風味もある。重すぎず軽すぎず、安定感があり、飲み心地がよい。

 

キュヴェ・ド・ラ・レーヌ・ブリュット・ロゼも、ムニエ45%、ピノ・ノワール30%、シャルドネ25%で、赤ワインが約10%ブレンドされている。ドザージュは9g/l。細やかで深みのある魅力的な芳香は、木苺やサクランボなど赤系果実のコンポートやブラックベリー、ブルーベリーなど摘みたての黒系果実の印象だ。スミレ、スイカズラなど楚々とした花の香りもある。ピュアで可憐でエレガントなロゼだ。

 

熟成を重ねてからリリースするキュヴェは料理との相性もよい。

キュヴェ・ド・ラ・レーヌ・・ブリュット・プルミエ・クリュは、ピノ・ノワール48%、ムニエ28%、シャルドネ24%で、プルミエ・クリュの畑の選りすぐりだ。熟成期間は2~3年。アプリコットやミラベル、ココナッツ、熟して甘みを帯びた柑橘類の風味とともに、ミネラルや程よい酸が骨格を成している。焼き魚などシンプルな魚介料理に合いそうだ。

 

キュヴェ・パッション・デュヌ・レーヌは、シャルドネ52%、ピノ・ノワール28%、ムニエ20%で、約4年の熟成。オレンジや柚子などの柑橘類と白桃、ライチ、ミネラルの風味もあって、ピュアで直線的で奥行きもある。アンコウなど、よりしっかりとしたテクスチャーの魚や鶏肉などにも合うだろう。

 

2015年からリリースされた比較的新しいキュヴェ・パッション・デュヌ・レーヌ・ロゼ。ピノ・ノワール45%、シャルドネ30%、ムニエ25%で、赤ワインのブレンドは10%。4年間の熟成だ。緻密ながら華やかな香りで、よく熟したイチゴやチェリー、レッドグレープフルーツ、ほのかにフローラルな印象もある。程よくフレッシュでふくよかなテクスチャーなので、ジビエなどの個性的な肉料理との相性もよいだろう。

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