エラスリスの2016年ヴィンテージ 秀逸、ドン・マキシミアーノ。

アコンカグアのエラスリスで醸造責任者フランシスコ・バエティグといっしょに興味深いテイスティングをした。4月中旬に大雨の降った2016年ヴィンテージの比較試飲である。試飲サンプルは、
①KAI 2016、
②La Cumbre Syrah 2016、
③Don Maximiano Founder’s Reserve 2016、
④Seña 2016、
⑤Viñedo Chadwick 2016
の5本。①~④はすべてアコンカグアヴァレーのブドウで、⑤だけはマイポのプエンテ・アルトのブドウである。

2016年はとても涼しい年だった。かつて、チリのブドウ栽培は収穫年の特徴(ヴィンテージ)がそれほど鮮明ではなく、ほぼ毎年のように質量ともに安定した収穫が続いていた。しかし、近年のチリは年によって気候変動が大きくなり、ブドウとワインにヴィンテージ毎の明らかな違いが見て取れるようだ。

チリのブドウ栽培地では一般に、冬に向かうと雨と寒さがやってくる。春を迎えて暖かくなると雨は上がり乾燥した日々がブドウの収穫期まで続く。つまりブドウ樹の休眠期に雨が降り、生育期は乾燥している。だから灌漑が必要になる。ところが2016年は収穫最盛期の4月中旬に雨が降り出した。それもかつてない大雨だった。サンティアゴ市内では川の水が溢れ建物の地下が浸水するという騒ぎなった。マイポ・ヴァレーの4月は123mmという歴史的な降雨量を記録した。

 

2016年は一年を通じて穏やかで涼しい年だった。春先は寒くて芽吹きは平年より8~10日も遅かった。開花もフルーツセットも平年より遅く、ヴェレイゾンの時期が長くなり樹により房によってばらつきが生じた。夏(1月)になると暑さがやって来たがブドウの成熟スピードは緩やかだった。マイポのビニェド・チャドウィックは大雨の前にすべてのブドウを摘んだ。2016年のアルコール分は13%で、総酸は6.05g/lだった。きっちりして目の詰まったシームレスなタンニンだ。

 

ところがアコンカグアヴァレーの4月はパンケウエの降水量が40mmだった。春先から涼しく穏やかだったことは同じだが、4月の降水量はマイポの3分の1で雨の襲来で慌てることもなく、ゆっくり成熟を待つことができた。セーニャ2016のアルコール分は13.5%、酸度は6.35g/lだった。このタンニンを英語圏の人々は“クランチー”と表現するのかもしれない。たくさんのタンニンを含んだ若い赤ワインの風合いがサクサクした(あるいはパリッとした)感じのことだと想像する。擬声語・擬態語(オノマトペ)の少ない英語表現は日本人には難解で、時に間違った理解をしているかもしれない。もっとオノマトペを使えば分かりやすいのにと思う。

 

驚いたのはドン・マキシミアーノ2016だった。現時点の5本のワインの中で私にはいちばんおいしいワインだった。フレッシュで滑らかでゆったりと味わうことができる。優雅なワインである。フランシスコも「私が手掛けたドン・マキシミアーノの中で2016年はベストワインだ」と手放しで評価した。アルコール分13.5%、総酸度6.35g/l。

 

フランシスコによると、「ドン・マックスは5年前から徐々にエレガント・スタイルに切り替えている」という。ドン・マックスの何が変わったのだろう。一つはピラジンをコントロールする畑の作業だという。「除葉はきちんとしている。それは以前と変わらない。ただ除葉する箇所が変わっている。いまは、フルーツの周囲の葉を残している。果実の日焼けを避けることが目的だ。それでキャノピーの中央部分を主に除いている」。

もう一つ畑の仕事で大事なのは灌漑の遣り方だ。「いまはブドウ樹にストレスをかけすぎないように必要な水分を与えている。しかし収穫前の最後の灌水(灌水をストップするタイミング)が重要だ。水を与え続けるとずっと青さを保ったままになるからだ」。

 

ワインの醸造・熟成に関する大きな変化は、「カベルネ・ソーヴィニヨンのワインからカベルネ主体のボルドー・ブレンドに切り替えたこと」である。ワインの瑞々しさとストラクチャーを重視してカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド比率を抑え、マルベック(12%)、プティ・ヴェルド(8%)、カルメネール(8%)、カベルネ・フラン(3%)をアサンブラージュするようになった。その使用品種とブレンドの割合は、かつてのボルドーワインがそうであっただろう姿である。

 

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