先代のスタイルを踏襲しつつエレガンスも加わった次世代デュガ・ピィ

銘醸地とは銘醸畑が多いことはもちろん、銘醸造家の多い土地でもある。ボルドーのポーイヤックしかり、カリフォルニアのナパ・ヴァレーしかり、そしてブルゴーニュではヴォーヌ・ロマネとジュヴレ・シャンベルタンがそれにあたる。

ジュヴレ・シャンベルタンの銘醸ドメーヌを挙げる際、必ずトップ5のひとつに選ばれるのがデュガ・ピィ。この村に17世紀から続くブドウ栽培農家の家系で、現在、ブドウ作りとワイン醸造の実権を握るロイック・デュガは13代目にあたる。

ブドウ栽培にとどまらず、70年代にはすでにワインも造っていたものの、その大半はネゴシアンに売却。とくにマダム・ルロワのお気に入りだったと言われている。徐々に元詰めの量を増やし、90年代になってドメーヌの名声を高めたのがロイックの父、ベルナールだった。彼はジュヴレ・シャンベルタンらしさを追求し、濃厚でパワフルなワイン造りを好んだ。

「ピノ・ノワールは色の出ない品種と言われているが私はそう思わない。ジュヴレ・シャンベルタンは長期熟成が可能なワインができる土地。だから私はそのような体格をしたワインを造るべきだと思う」。今から7年前の取材で、ベルナールはそう語っている。

もっとも、当時のデュガ・ピィのワインが単純に抽出過多で、どのアペラシオンも違いのない画一的なワインだったかと言えばそんなことはない。デュガ・ピィはシャルム・シャンベルタンとマゾワイエール・シャンベルタンを造り分ける数少ない生産者のひとつだが、同じヴィンテージの2つのワインをサイドバイサイドで比べてみると明らかに違う。コンブ・グリザールから崩れ落ちた大きな礫が畑の表面に転がるマゾワイエールの方が、ストラクチャーがしっかりしておりとくに若いうちは硬い。

そのベルナールが第一線を退き、96年から仕事を手伝う息子のロイックに代を譲ったのが6年前。現地取材した1年後のことだった。ベルナールは片時も畑を離れることのできない根っからのヴィニュロンで、プロモーションのために海外を廻ることも頑なに拒んだと言う。しかし、新世代のロイックは、海外市場で自分たちのワインがどのように楽しまれているかを知りたいと、農閑期には積極的に海外へ出ることを決意。今から3年前に来日している。

さて、ロイックになってからの変化だが、まず99年からビオロジック栽培に転換。以前から除草剤は一切使っていなかったが、「畑で働く人々の健康を考えると、薬物の散布には過敏にならざるを得ない」と、他の薬剤の散布も止めた。ビオロジックに転換して以降も父ベルナールは認証取得には関心がなかったそうだが、ロイックがその必要性を主張。現在、ラベルにはEUのビオロジック認証を表すユーロリーフが表示されている。またポール・マッソンにビオディナミの教えを請い、現在はこれを検証しているところである。

ビオロジック栽培による変化についてロイックは、「収量が安定した。ブドウの凝縮感が強まると同時に、フレッシュ感やミネラル感も高まり、よりバランスのよいワインができるようになった。複雑味や余韻も増したように感じる」と言う。さらに、濃密でパワフルな父のスタイルは踏襲しつつ、「ビオロジック栽培が功を奏したのか、果実の豊かさが増した結果、タンニンが滑らかになり、父の造ったワインと比べて早いうちから楽しめるようになった」と語る。

その変化は事実なのか、2018年ヴィンテージを試してみよう。

Pommard La Levrière Très Vieilles Vignes

ポマール・ラ・ルヴリエール・トレ・ヴィエイユ・ヴィーニュ

村名ポマールの”ラ・ルヴリエール”はプルミエ・クリュ”グランゼプノ”の下に位置する平坦な土地ながら樹齢は80年。ポマールというとコート・ド・ボーヌの中ではタニックでパワフルなイメージだが、デュガ・ピィのこれは黒というよりも赤い果実のアロマをもち、タンニンも滑らか。今回試飲した5本の中では最も柔らかみがあり、まろやかでエレガントなスタイル。

 

Vosne-Romanée Très Vieilles Vignes

ヴォーヌ・ロマネ・トレ・ヴィエイユ・ヴィーニュ

樹齢85年。ポマールが新樽80%なのに対し、このヴォーヌ・ロマネは100%新樽熟成。カシスやブラックチェリーなど黒系の果実に甘草やカカオのスパイシーさ。凝縮感に富み、力強いスタイルはまさにデュガ・ピィ。いかにもジュヴレ・シャンベルタンの造り手が手掛けたヴォーヌ・ロマネの趣だ。ただし、タンニンのきめは実に細やかで、豊潤な果実味と一体化。カラフに移すか、朝から抜栓しておけば落ち着くだろう。

 

Gevrey-Chambertin Cuvée Coeur de Roy Très Vieilles Vignes

ジュヴレ・シャンベルタン・キュヴェ・クール・ド・ロワ・トレ・ヴィエイユ・ヴィーニュ

1910年植樹の区画も含み、樹齢60~110年。プルミエ・クリュに隣接する3つの村名区画をアッサンブラージュしたキュヴェ。今回試飲した3つのジュヴレ・シャンベルタンの中では最も下位にあたるが、試飲すると最もパワフルで男性的だった。香りはやや閉じ気味ながら黒系果実に全房由来と思われるスパイシーさ。暑かった18年にもかかわらず、美しい酸味がフレッシュさをもたらす。今楽しむならカラファージュは必須。

 

Gevrey-Chambertin Les Evocelles Très Vieilles Vignes

ジュヴレ・シャンベルタン・レゼヴォセル・トレ・ヴィエイユ・ヴィーニュ

クロ・サン・ジャックやカズティエなど、ジュヴレ・シャンベルタンの著名プルミエ・クリュと同じ斜面。次のプルミエ・クリュ”シャンポー”に隣接するクリマながら、ブロション村に属するため村名畑に甘んじる。樹齢75年。アタックは柔らかく感じられるが、次第に力強さが増してくる。タンニンのきめは極めて細かく、優美な酸味とともにエレガンスを感じさせる。垂直に伸びる味わいで、口中での余韻がとてつもなく長い。

 

Gevrey-Chambertin Premier Cru  Les Champeaux Très Vieilles Vignes

ジュヴレ・シャンベルタン・プルミエ・クリュ・レ・シャンポー・トレ・ヴィエイユ・ヴィーニュ

ジュヴレ・シャンベルタン村最北端、標高320~350mの斜面に位置するプルミエ・クリュ。樹齢65年。ジャスパー・モリスの本に「とてもフルーティ」とあるがまさにそのとおりで、今回の5本の中ではポマールと並びアプローチャブル。スミレや黒系果実の香りがあたり一面に立ち込める。豊潤な果実味にしなやかなテクスチャー。このエレガンスはテロワールに加え、それともロイックの栽培醸造に負うところが大きい。余韻も長い。

(Tadayuki Yanagi)

輸入元:ラック・コーポレーション

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