「ワーテルロー 泡の戦い 2015」<後編> by デイヴィッド・コッボルド /訳:立花峰夫

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■結果と考察

シャルル・エドシックが完勝したことは特筆に値する。予選、決勝の双方において、最高の平均得点を叩きだしたのだ。他の銘柄は決勝戦での点数が拮抗していて、4 銘柄については特にそうだった。予選、決勝で同一銘柄に与えられた点数の一貫性についても、全体に大変良好であった。シャンパーニュのグループ(すべて各生産者のノン・ヴィンテージ・キュヴェ)が、3 つのグループの中で最も高い平均得点を獲得しており、国を背負っての今回の戦いではフランスが勝収めたことになる!

 

シャンパーニュのグループが、試飲したワイン中で最も高価であったことも言っておかねばなるまい。高い総合品質が優れた成績につながったと考えるのが当然だが、すぐにそれとわかるスタイルのおかげもあるかもしれない。後者の観点がとりわけはっきりするのは、ドイツ産スパークリングワインのグループと比べたときだろう。ドイツ勢は実にさまざまな葡萄を使っている上に、製法もゼクトと伝統的醸造法の両方あったからだ。品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、リースリングに加え、美味だが相当風変わりなムスカテラーまで用いられていた。

 

多国籍の審査員団では常のことだが、ひとりひとりが特有の好みを持っていただけでなく、基準となる自国のワインをどう見るかの傾向にも違いがあった。後者は、味覚の文化的嗜好とでも言うべきものである。

具体的な事実を挙げると、ふたりのドイツ人審査員の平均得点は、フランス産ワイン(シャンパーニュ)よりドイツ産ワインのほうが高かった。フランス人審査員については、逆の結果が出ている。イギリス人審査員2 名は、イギリス産ワインが大半を占めるフライトで、どの国の審査員よりも気前よく点数をつけた。加えて、ドイツ産ワインについてはさほどでもなかったものの、シャンパーニュに対してはフランス人審査員よりも点数が甘かった。

他方、ベルギー人の審査員たちは、今回の戦いにおける「中立国」さながらであり、何に対しても特別点が甘いということはなかった。それでも、概してシャンパーニュに対する点数が、他のワインよりも高いという結果になってはいる。

 

いずれにせよ、総勢で11 名もの審査員がいたのだから、こうした偏りも均されてしまうし、結果は実に妥当なものだと私は受け止めている。フランス人審査員の数がどの国よりも多かったから、ある種のバイアスが生じているのではという異議はあるだろうけれど。

 

■スタイルに関する私見とお気に入りのワイン

気候、樹齢の若さ、その他のいずれの原因であるにせよ、イギリス産スパークリングワインのグループについては、とても上質だという印象を受けた。軽やかさとフィネスが感じられ、口あたりとバランスがほかのグループよりも繊細だったのだ。他国と比べた際に力強さと凝縮感で及ばなかったことが、一部の審査員にとってはおそらくマイナスとなったのだろうが、私にとってはその特徴がとても爽やかに感じられた。

 

当該のフライトにおいては、ナイティンバーが私の一番のお気に入りで、ブライズ・ヴァレーとハンブルドンが続いた。ナイティンバーといい勝負をしたのがスイス産ワインのツァンペロである。このワインはボディがもっとふくよかで、大変稀少かつ素晴らしいスイスの土着品種、プティット・アルヴィンを47%含む。シャルドネとピノ・ノワール以外でも、最高品質のスパークリングワインは造れるのだと、この品種が証明してくれた形だ。

 

ドイツ産のグループでは、シュトラウヒ、アントン・オーリッヒ、ケスラー、バードンク、フォン・ブールに高得点を与えた。スタイルにバラツキがあるのは、使用葡萄品種が異なっていることに加え、製法や原産地が複数あったからだ。アントン・オーリッヒのワインはハッテンハイム産のリースリングで、石油のようだとよく言われる独特の香りがあって、力強く感じられた。私とて石油をそれほど飲むほうではないのだが、このワインにはそうした個性がふんだんにあり、香り高く滋味深かった。ドイツ産のフライトで他に好みだった銘柄は、リースリングとシャルドネのブレンドか、ピノ・ノワールないしはシャルドネを単独で使ったものである。このグループにおいては、スタイルの多様性がキーワードであった。

 

シャンパーニュの審査が私にとっては最もたやすかったのだが、それは他の審査員も大抵同じだった。今回参加したドイツ人審査員だけは別だったようだが、他の全員にとっては疑いなくシャンパーニュが一番馴染み深い存在だからである。もちろん、スタイルの違いがないわけではないのだが、他のグループと比べると互いが似通っているように思われた。私が最高得点を与えたのはシャルル・エドシックで、その風味の中で豊潤さと緻密さが見事に両立していた。僅差で続いたのがドラピエとアンリオで、その次がランソンである。全体として、シャンパーニュに対する得点が私の中では最も高かった。これは、他の審査員たちも3 人を除いて同じである。

 

ワーテルローの合戦においては今回、シャンパーニュが圧勝した。だが、決勝戦の結果に見られるように、ドイツ、イギリス両国のスパークリングワインにも目覚ましい進歩が見られたことは否定できない。入念に選びさえしてやれば、良質なシャンパーニュに肩を並べるワインが、どちらの国でも今では見つかるのである。つまらないシャンパーニュならば相手にすらならないだろう。シャンパーニュがこれから先、品質とブランドイメージの両面において優位を保つためには、更なる高みを目指していく必要があるのだ。

 

優勝したシャルル・エドシック

優勝したシャルル・エドシック

■審査員

イギリスから:マイケル・エドワーズ、デイヴィッド・コッボルド

ベルギーから:マルク・ヴァンエルモン、リュック・メイエルマン、ヒルデ・ヨンケーレ

ドイツから:クラウス・ヘルマン、ヨーク・ヴィンクラー

フランスから:エルヴェ・ラルー、オリヴィエ・ボルヌフ、グザヴィエ・ルクレール、クリストフ・マクラMW

(一部画像/WANDS.YN)

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