シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルローの30年(後編)

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1998 年、列島が赤ワインブームに席巻された年。メルシャンはシャトー・マルゴーのポール・ポンタリエさんを醸造アドバイザーに迎えた。ポンタリエさんは、

「グランヴァンは日本庭園にたとえることができます。いずれも複雑で深みと調和があります。すべての要素が統一されて過剰なものがありません。シャトー・メルシャンも日本庭園のような調和とフィネスを大事にしましょう。日本ワインは歴史こそ浅いけれど洗練と調和の感覚を持っているので、高品質ワインをうみ出す可能性があります」と、アドバイスしたという。

 

ポンタリエさんの助言を容れ、メルシャンは1999 年からより熟して凝縮したブドウを収穫するために桔梗ヶ原に垣根式栽培を導入した。それから10 年後の2010 年にワイナリーを改装し、よりよいワイン造りのできる醸造設備へと刷新した。その結果、産地の個性を大切にしたブドウにやさしいワイン造りができるようになり、シャトー・メルシャンは調和のとれたフィネスのある味わいになった。

 

そして、「桔梗ヶ原メルロー・シグナチャー2011」の誕生である。2011年は9 月に二度の雨台風に遭い、桔梗ヶ原ではめずらしく晩腐病が発生した。だから畑でもワイナリーでもていねいにだいじに選果した結果、収量は大きく減少した。しかしその苦労は報われワインの品質にきちんと反映された。フレッシュな果実の香り、樽由来のカカオのような香りなど、香りにボリュームがある。滑らかなタンニンと上品な酸味、すべての要素が上手に構成されている。味わいの後半はエレガントに膨らんでいき長い余韻へとつながっていく。日本産メルローの逸品である。

 

桔梗ヶ原のメルロー栽培が40 年目に入った。現在、メルシャンが桔梗ヶ原で管理する畑は、自社畑と契約栽培畑を併せて7ha ある。このうち垣根式は1ha だ。日本ワインと桔梗ヶ原メルローに対する評価は年々高まっており、もっと多くのブドウが必要とされている。そこでメルシャンは今年7 月、塩尻市片丘地区に新たに7ha の土地を貸借しブドウ樹を植栽することにした。片丘地区は田川の東側斜面、田川を挟んで桔梗ヶ原とは向かい側になる。標高800 m、砂利や小石を含む壌土。風通しがよく日照量に恵まれた緩やかな傾斜地である。2017 年に植栽を開始し2020 年の初収穫を目指す。そして2025年には片丘のワインを発売するという段取りだ。日本ワインとシャトー・メルシャンの成長とともにブドウ産地・桔梗ヶ原はますますその重要度を増している。

(K.B.)

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