- 2022-9-28
- Wines, スペイン Spain
「ウルテリオール・アルビージョ・レアル 2017」 「ウルテリオール・ナランハ 2020」 「ウルテリオール・ティント・ベラスコ 2016」
忘れられた過去を発掘し、次世代に捧げる
ウルテリオール (ボデガス・イ・ビニェドス・ヴェルム)
ULTERIOR, Bodegas y Viñedos VERUM
ラ・マンチャ地方にトメリョーソという町がある。世界有数のブランデーの産地で、町には古い蒸留所の煙突が林立している。アイレンの栽培が盛んになった19世紀後半には、各農家の敷地に2,000もの地下洞窟「クエバ」が造られた。
2018年の『Decanter』誌で「スペインワインの将来を築いていく若き醸造家10人」のひとりに選ばれたのは、このトメリョーソの造り手だ。ペドロ・バジェステロスMWが、エリアス・ロペス・モンテロ氏を絶賛した。1788年から地元のワインと蒸留酒産業を牽引してきた家から新星が現れた。
ロペス・モンテロ氏は、マドリードとリオハでワイン醸造学を学び、2001年に地元からキャリアをスタートする。リベラ・デル・ドゥエロと南アフリカのステレンボッシュで研鑽を積み、2005年、トメリョーソに戻り家族とともにワイナリー、ボデガス・イ・ビニェドス・ヴェルムを設立。23歳にしてオーナー兼醸造責任者となった。
品種の復興プロジェクト
ヴェルムとはラテン語で「真実」を意味する。亡き父が遺した畑のアイレンやセンシベルの古木でワインを造る一方、ロペス・モンテロ氏はカスティーリャ・ラ・マンチャで時代とともに失われた「真実」を蘇らせるため、2007年にプロジェクト「ULTERIOR(ウルテリオール)」を始動する。ラテン語で「さらに、その先へ」を意味し、かつては存在したが忘れ去られたものを復興させ、次世代に繋ぐという想いが込められている。「これまで評価されてきたカスティーリャ・ラ・マンチャのワインはフランスの国際品種ばかりだった。けれどもこの土地には、かつては多様な在来品種が存在していた」。
そのひとつが絶滅しかけていた品種のティント・ベラスコだ。ラ・マンチャの在来品種だが、「硬くてボディがあり、とても晩熟で難しいとされていたために、やがて栽培されなくなった。けれどもこのブドウは優れた酸がある。そして晩熟であることは、気候変動を見越してもじつはこの地に良く向いているのだ」とロペス・モンテロ氏。「ウルテリオール」のための品種は、ラ・マンチャの暑い気候で、自然と成熟する晩熟型のスペインの在来品種が選ばれている。
畑は、標高650mの「フィンカ・エル・ロメラル」。品種ごとに区画番号を分けて植樹した。歴史的な畑で、周囲には伝統的な農作業小屋「ボンボ」がいくつも保存されている。畑の土壌の表面は石灰質の石ですっかり覆われている。
「この畑は地中の深さこそないが、表土の炭酸カルシウムが非常に豊富だ。だから樹齢10数年でも、豊かな塩味やミネラル感を含んだワインが生まれる」。
畑を見渡せる高台に立つと乾いた風が吹く。ブドウはすべてオーガニック農法で栽培。収穫は9月末~10月で、初ヴィンテージは2016年。中でも「グラシアーノ2016」は『Decanter』誌で95点と、カスティーリャ・ラ・マンチャのワインで同誌史上最高評価を獲得した。
「リオハのグラシアーノはテンプラニーリョとブレンドされるが、ここでは豊かな酸と華やかな香りの単一ワインを造ることができる。グラシアーノにとって最適な環境だと思う。毎年、安定して良いものができる」とロペス・モンテロ氏。「グラシアーノ2017」を試飲したが、ザクロやサクランボなどの豊かな果実味に、豊富なミネラル感と旨味をたっぷりと感じた。
一家に伝わるティナハで熟成
醸造において彼がとくに大切にしているのは「ブドウに圧力をかけないこと」だと言う。だからヴェルムでは圧搾機を使わずに、フリーラン果汁のみを使っている。例外的にティント・ベラスコとガルナッチャだけは圧搾するが、ここでは古い回転式水平圧搾機を使う。トメリョーソで製造された60年前の旧式だが、「なめらかな果汁を抽出できる」と、ロペス・モンテロ氏にとってその力加減が理想的なのだそうだ。
「ティント・ベラスコ2016」はスミレの香りにほんのりスモーキーな鉄を感じる。引き締まったタンニンと黒系果実の味わいで、肉料理に向いている。一方で50%全房発酵の「ガルナッチャ2017」は「ウルテリオール」の中でも最も軽やかな仕上がりで、色は少し淡いガーネット。イチゴやアンズなど酸のある果実味に、なめらかなテクスチャー。ブルゴーニュのピノ・ノワールを想わせる優雅さだ。「ガルナッチャには2つのスタイルがある。北のアラゴン地方は、もっと色が濃くてパワフルになる」。
発酵は主にステンレスタンクで行い、熟成はクエバの中の4,000〜5,000lのティナハ(素焼きの大甕)で8~11か月。石灰岩層の壁で覆われた地下のクエバは、冬は13°C、夏でも16°Cと、自然と冷涼な気温が保たれている。
「ティナハの注ぎ口に薄い酵母の膜ができる。5,000lと巨大なので熟成中のワインに熟成香をそこまでつけずに、味わいに複雑性を持たせることができる」。
このティナハは、ロペス・モンテロ家に代々伝わるものを、彼の代に修復したものだ。かつては1世紀以上もワイン熟成に使われていたが、トメリョーソの産業が効率化するとともに長らく放置されていたと言う。品種によってはフレンチオーク樽でも一部熟成させる。その中でマス エロ(カリニェナ)は「2016は100%樽、 2017は50% 樽でよりクラシックだった。 評判も大変良かったが、より『ウルテリ オール』らしさを追求するため、2018では30%にした」とロペス・モンテロ氏。「マ スエロ 2018」は伸びやかな酸と豊かな 赤い果実味。フレッシュで余韻も長い。
「ウルテリオール」の唯一の白は、アルビージョ・レアル85%とアルビージョ・マヨール15%のブレンド。アルビージョ・マヨールは晩熟型だが、フレッシュな味わいと酸を引き出すため、収穫を8月初めに行う。アロマティックな品種のアルビージョ・レアルとの融合で、柑橘系の果実味をたっぷり含みながら、ミネラル香と酸をしっかり含んだ白ワインになる。2020年から登場したオレンジワイン「ナランハ」は、アルビージョ・レアルを果皮とともに発酵し、途中で非常に酸の豊富な黒ブドウ品種モラヴィアの果汁をブレンドする。そこまで渋みを感じない、生き生きとした酸の、香り豊かなオレンジができる。
ロペス・モンテロ氏は、2021年、ドイツの老舗キッチンメーカー ガゲナウ主催の「Respected by Gaggenau」で、40半ばにして世界最優秀醸造家に輝いた。高品質なワインを造るだけではなく、先代たちの遺産を現代に蘇らせ、未来に伝えるその姿勢は、世界のテイスターたちのラ・マンチャのイメージをひっくり返している。(取材・文 宮田 渚)
問い合わせ 正光社
☎ 03-3683-2811
http://www.sunseikowines.com
続きは、WANDS 9月号
【特集】オーガニックワイン2022 さらなる旨さを求めて こだわりのビールで活性化へ
をご覧ください。
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