オーストリアワインの祭典 VieVinum 2022 & ニーダーエスタライヒ州情報 PART1ヴァインフィアテル

写真:遠く南にはドナウ川が流れる。年間を通して降水量が少なく晴れの日が続く。

5月21日から23日まで、オーストリア最大のワインフェア「VieVinum」がウィーンにて開催された。
1998年に始まったこのワインフェアは、オーストリアワインのプレミアム化と輸出の躍進に大きく貢献している。
パンデミックを超えて飛躍したオーストリアワインの今を追う。

取材・文 松木リエ
取材協力 オーストリア・ワイン・マーケティング協会(AWMB)

かつてのハプスブルク家の居城、壮大な建築のホーフブルク宮殿で隔年開催されるVieVinum(ヴィーヴィナム)は、 新型コロナウィルス感染症の影響で4年ぶりの開催となった。オーストリア・ワ イン・マーケティング協会(AWMB) は世界50か国以上からマスター・オブ・ワインやマスター・ソムリエ、ジャーナリスト、テイスターら業界関係者1,000人以上を招待。広い会場内には480の生産者が集まり、23のマスタークラスやコメンターブル・テイスティングなど充実したプログラムも用意され、久々の対面でのイベントに盛り上がりを見せていた。

 

VieVinum開催前日にはIWCインターナショナル・ワイン・チャレンジやデキャンタ・ワールド・ワイン・アワード、ワイン・スペクテーター、ジャンシス・ロビンソンなど、市場への影響力の高いコンクール、業界誌、評論家が高得点をつけたワインのテイスティングが行われた。ワインは108の生産者から469本にも及び、オーストリアワインの質が高く評価されていることがわかる。

AWMB招待者はVieVinum後3つのツアー「ニーダーエスタライヒ」「ブルゲンラント」「シュタイヤーマルク」に分かれ、それぞれの産地を巡った。筆者が参加したニーダーエスタライヒ州はオーストリア最大のワイン産地でもあり、ブドウ栽培面積は2万7,160ha。栽培面積の76.8%が白ブドウ品種であり、うちグリューナー・ヴェルトリーナーが49.1%を占める。西のヴァッハウから東のカルヌントゥムまで広大な面積をもつニーダーエスタライヒ州は気候の違いによって、3つの区域に分けられる:1 北部のヴァインフィアテル、2 ウィーンの西に位置するドナウ川沿いのドナウ・エリア、3 南東部の温暖なパノニア・エリア。次ページよりその3つの地域の気候環境、土壌、ワインスタイルなどの情報をレポートする。

 

PART1 ヴァインフィアテル

ヴァインフィアテルとは「ワイン・フィールド」の意。その名の通りニーダーエスタライヒ州北東部にある最大のワイン地域で、オーストリアの日常ワインを支えている。
この地で成功しているのは50%も占める代表品種のグリューナー・ヴェルトリーナーで、白胡椒のようなアロマと高いレベルの酸味を備えた品種特性を持つ。

ピラースドルフの畑は粘土石灰質土壌が広がる。pHが高く、クロロシスのリスクが高い。

ヴァインフィアテルの栽培面積は1万4,001ha。緯度が高く、冷涼な大陸性気候で、全体的にかなり乾燥しており、年間降雨量は400~600mm。北からの涼しい風が日較差を大きくし、強い風味と高い酸をブドウへ与えている。ウイーンから車で1時間ほど北西へ向かい、レッツという街近くのピラースドルフの畑に立った。124ha、標高は269~328m、緩やかに南向きに傾斜している。ブドウ畑の所々に30cm四方の石が突き出ており、地下セラーの通気口だと言う。確かに途中、地下セラーへの入り口が並ぶ小道「セラー通り」があった。住宅とは別に、地下セラーがブドウ畑の下に潜る形で並んでおり、40年前まで醸造にも使われていたそうだ。

ヴァインフィアテルの土壌や微気候の違い、それがワインの風味に与える影響などの詳細をヴァインフィアテルDACの生産者らが案内してくれた。ピラースドルフの畑は極端な粘土石灰質土壌で、質の高いブドウ栽培には不可欠だが、クロロシス(白化現象)のリスクがあり、慎重な畑の観察が必要となる。一方、ピラースドルフの畑から南に車で10分も走ればレーシッツの畑があるのだが、そこは花崗岩土壌でフィネスを兼ね備えたリースリングとグリューナー・ヴェルトリーナーになるという。そのように近距離でもテロワールの違いがあるのだが、ヴァインフィアテルのワインスタイルは大きく3つのエリアに分かれる。北東部は3つのエリアの中でとくに典型的なグリューナー・ヴェルトリーナーの柑橘、ハーブの香りに加えてペッパーの特徴が顕著に表れる。

「セラー通り」の上を覆う畑には、石でできた地下セラーからの通気口を見ることができる。

南東部はウイーンの東にあたるエリアで、土壌は段丘の砂利と砂、部分的に黄土またはロームに覆われている。パノニア平原からの暖かな風の影響も受け、ワインのボディが強くなる傾向がある。メイルバーグ周辺の広大な北西部は砂利、砂、粘土、シルトとさまざまな組成で、果実味豊かなツヴァイゲルトとブラウアー・ポルトギーザーの赤ワインが知られている。西端の花崗岩の痩せた土壌には、グリューナー・ヴェルトリーナーよりも水分を必要としないリースリングが栽培され、評価されている。

オーストリアでは2002年に原産地呼称制度(DAC)が導入され、ヴァインフィアテルはその最初の産地だった。2009年からはヴァインフィアテル・レゼルヴェ、そして2020年よりヴァインフィアテル・グラン・レゼルヴェもDACに加わった。DACを名乗れる品種はグリューナー・ヴェルトリーナーのみと定められている。

典型的なヴァインフィアテルDACは、フレッシュな柑橘やグリーンフルーツと、スパイシーな胡椒の風味を持ち、貴腐やオーク樽の風味は付けない。残糖6g/l以下の辛口で、高いレベルの酸味とミディアムボディの調和が取れた白ワインだ。レゼルヴェとグラン・レゼルヴェは最低アルコール度数13%、残糖は9g/lまでの辛口で、複雑な風味につながるオーク樽熟成や貴腐ブドウの混入を許している。成熟したブドウからの豊かなボディに高い酸味のバランスがあるスタイルだ。

カースティン・シュラーさんがオーナーを務めるシュラー醸造所の畑と地下セラーを訪ねた。

(PART2、PART3に続く)

 

続きは、WANDS 9月号
【特集】オーガニックワイン2022 さらなる旨さを求めて こだわりのビールで活性化へ
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