エクスレ度重視からテロワールの表現へ 若い世代がリードする新生ドイツのワイン造り

“ドイツワインは甘く安いワイン”というイメージが一般的だ。特に若い頃、80 年代~ 90 年代初頭にかけてリープフラウミルヒやカッツなどのワインを飲み慣れた50 代、60 代の間ではそういうイメージが今も強く残っている。しかし、「( 時代をかなり遡れば) かつてドイツワインは基本的に辛口だった」と、ドイツワイン輸出組合の副会長を務めるヨアヒム・ビンツ氏はいう。

ドイツにおける葡萄栽培とワイン造りは古代ローマ時代まで遡ることができ、それに続く中世~近代にいたるまでは、封建領主とキリスト教修道会が重要な役割を果たしてきた。しかし、葡萄の栽培技術が今のように発展していなかった時代に、冷涼栽培地のドイツで葡萄をしっかりと完熟させて収穫することはそれほど簡単なことではなかった。そうした中で、18世紀初頭、クロスター・エバーバッハの修道会がシュタインベルガー畑の特別に選別した葡萄から造ったワインに“ カビネットCabinet”の名前を冠し、それが現在のドイツワイン法が規定するKabinett という言葉の由来となった。また、シュロス・ヨハニスベルクでは1776 年、葡萄の収穫を許可するフルダの伝令の到着が遅れたために、貴腐化した遅摘みリースリングの味わいの素晴らしさが発見された。いずれもドイツワイン史の中では必ず語られる重要なエピソードであり、それまで輸出といってもブレンド用としてしか評価されてこなかったドイツワインが、以来、世界に冠たる“ エーデル・ズース(高貴な甘口ワイン)” の産地として評価される礎となった。ところが一方で、1892 年に制定された最初のドイツワイン法以降、こうした自然の甘口ワインに加えて、補糖やズースレゼルヴェ(未発酵の葡萄のモスト)を加えることが認められるようになるとドイツの甘口ワインには二つの異なる潮流が存在するようになった。特に、第二次世界大戦以降は後者のワインが大量に、しかも安価で市場に流れるようになると、それがドイツワインの一般的なイメージを代表するようになった。

「1990 年代になると、ドイツ国内でも嗜好が甘口から辛口へと変化してきたが、酸が強いリースリングは辛口にすると酸っぱいワインというのがこれまでの一般的な印象だった。しかし、2000 年代に入ると、地球温暖化の恩恵で葡萄がよく熟すようになった。また、( 世界各地でワイン造りを学んだ) 若い世代の醸造家がワイン造りをリードするようになり、味わいのバランスに優れた新しいスタイルの辛口ワインが主流となってきた」とビンツ氏は、近年のドイツワイン産業の変化を説明する。

2014 年の統計では、生産量の67% が辛口と中辛口、甘口が33% と、辛口の占める割合が断然大きい。また白ワイン59%、赤ワイン30%、ロゼワイン11% と赤ワインの比率も高くなっている。このように多彩な味わいを持つようになったドイツワインをラインヘッセンとフランケンのワイナリーで体験してきた。(M. Joh)

つづき(訪問先/ラインヘッセン地方:エルンスト・ブレッツ、ドラインガッカー、J.&H.A. シュトゥルブ、ジャン・ブシャー、フランケン地方:ティヴィーノ、フランケンワイナリー協同組合、アム・シュタイン、ホルストザウアー、マックス・ミューラーⅠ、ホーフケラー・ヴュルツブルグ州立醸造所、ヒュルスト・ツー・レーヴェンシュタイン)につきましては、ウォンズ7&8月合併号をご覧下さい。

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