混植混醸。テルモ・ロドリゲスの地域性

左から3本目から「ランサガ 2018」「マタリャーナ 2018」「ファルコエイラ・ア・サピッリャ 2019」「オ・ディヴィゾ 2019」。

 

近代スペインワインの立役者として、筆頭に名の挙がる1人が、テルモ・ロドリゲスではないだろうか。故郷リオハをはじめ、ルエダ、トロ、リベラ・デル・ドゥエロなど各地で顧みられなかった在来品種の真価を復興させ、その果敢な実行力が世界に認められ、次世代にスペインワインの自信をつないでいる。
7月28日、アジア輸出担当のベンハミン・ヴィジエ氏が来日。輸入元テラヴェールで試飲会が開かれ、ヴィジエ氏が各産地とワインを詳しく解説した。

 

解説した、アジア輸出担当のベンハミン・ヴィジエ氏。

テルモとその右腕の醸造家パブロ・エグスキサは、ワイン造りにおいて次のような厳格なスタイルを貫いている。畑の地域性を尊重してのことだ。
「樹は必ず株仕立てにする。古い樹ほどこの仕立てが重要となる。ほぼすべての畑でオーガニック栽培を実施、野生酵母で自然発酵する。酵母によって味わいの複雑性が生まれるため、それを人間がコントロールするとつまらない。そして醸造は、畑の近くで行うのが大切。ブドウの長距離運送は避けたいのだ」と、ヴェジエ氏。
古い畑ほど「混植混醸」が肝で、「異なる個性が共生することで複雑で優れたものを生んでくれる」と言う。実際テルモのトップキュヴェは、リオハもリベラ・デル・ドゥエロもバルデオラスも、セパージュはじつに多彩だ。

 

●リオハ:18世紀の村の銘酒

リオハでテルモたちが目指すのは「18世紀のリオハを再現すること」だ。平たく言えば、当時のリオハで当たり前にされていたような村ごとのワイン、村ごとの個性を復活させることだった。
テルモを代表する赤の「ランサガ 2018」は、リオハ・アラベサのランツィエゴ村のワイン。テンプラニーリョ、グラシアーノ、ガルナッチャの混植で、この地の伝統に則ってフードルとバリックで14か月熟成。
「ランツィエゴ村は砂岩が多く痩せた土壌。それがワインに垂直性をもたらし、生き生きとした味を生む」と、ヴェジエ氏。

 

●リベラ・デル・ドゥエロ:塗り潰された畑

リベラ・デル・ドゥエロの「マタリャーナ 2018」のエチケットもテルモの姿勢をわかりやすく示している。5つの村、11の畑から造られるオーガニックワイン。品種はティント・フィノに加えてナバロ、バレンシアーノなど複数品種のブレンド。エチケットには、その11の畑の名が書かれているが、すべて黒い線で塗りつぶされて判読できなくなっている。DOが畑名表記を認めていないからで、11の線はテルモの意思表示である(光にかざすと……?)。2018はまだ充分に若い。10年以上寝かせればさまざまな香りとともに、よりその複雑性を楽しめるだろう。

 

●バルデオラス:秘境の赤

急斜面にスレート土壌が広がるガリシア地方のバルデオラス。ここでテルモは3つの単一畑の赤を手掛けている。「ファルコエイラ」「オ・ディヴィゾ」の畑は向かい合った立地の急斜面で、それぞれメンシアに加え、ブランセジャオ、ガルナッチャ、ソウソンなどとの混植混醸だ。
「ファルコエイラ・ア・サピッリャ 2019」は3haの南向きの斜面。「この畑は10年かけて修復し、2017年が初ヴィンテージ。集中力と凝縮感が持ち味だ」と、ヴェジエ氏。3,000hℓの木桶発酵槽で野生酵母で発酵。古いオークのフードルで15か月熟成。みずみずしい赤い果実味を湛えている。
「オ・ディヴィゾ 2019」は北東向きの急斜面で、まったく異なる個性。シリアスでややビターな味わい、10年以上の長期熟成にかなう素晴らしい酸をもつ。エチケットに描かれているのは畑から見えるアス・エルミタス村の古い寺院で、ビベイ川を足元に、険しい山道を歩いてやっと辿り着ける、まさに秘境と呼べる土地。

 

●セブレロス:古木のガルナッチャ

アビラ、マドリード、トレドにまたがるグレドス山脈のパイオニアとなったのもテルモだった。花崗岩質とスレート質で造られる一連のガルナッチャは、ペガソの名前でリリースされる。「この地域は日射量も強く、ブドウが熟しすぎないよう注意が必要」とヴェジエ氏。
エントリーの「ペガソ・ゼータ 2020」は花崗岩とスレート土壌の混合土壌で、フードフレンドリーでバランスが良い。花崗岩の「ペガソ・グラニート 2018」は古木のガルナッチャ、18〜24か月熟成。熟れたレッドベリー、バルサミコ、ミネラル感の豊かな果実味。

 

●マラガ:マウンテンワインの復興

南のアンダルシア州、マラガにある醸造所はモリーノ・レアルと言う。甘口の「MR(エメエレ)」はその名を冠している。
「マラガは古くは重要な甘口ワインの産地だった。一度はフィロキセラ禍で壊滅してしまったが、テルモはその復興に尽力した」。
甘口と辛口の両方を造っている。甘口はDOマラガ、辛口はDOシエラス・デ・マラガでリリースされるが、いずれも品種はマラガの山間で育まれたマスカット・オブ・アレクサンドリア。
「マウンテン・ブランコ 2019」は急斜面に植えられた古木の辛口。マスカットの甘味、ナッツに塩味も混ざり、後味はオレンジの皮のようなビター感。ラベルは近年リニューアルした。大昔にこの地で造られていたエチケットの復刻だ。

 

DOシエラス・デ・マラガの辛口「マウンテン・ブランコ」(左端)。DOセブレロスの「ペガソ・ゼータ 2020」と「ペガソ・グラニート 2018」(右端)。

 

(N.Miyata)

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