【ドイツ探訪1】ピノ・ノワールの隠れた宝石はドイツにあり

J.ノイスの石灰岩づくりのファサード。19世紀末の建築。

J.ノイス

赤ワイン品種の栽培面積が3割に満たないラインヘッセンの中にあって、5割が赤という赤ワインの町、インゲルハイム。ここにもヘリテージと言えるシュペートブルグンダーのクローンがある。生みの親は、J.ノイスの創設者ヨーゼフ・ノイス氏。1881年に故郷のモーゼルからこの地に来て、駅前通にワインショップを開き、その後すぐにブドウ栽培を始めた。彼の赤ワインは、すぐに国内で評価され、ひいてはパリやセントルイスの万博で賞を獲得するほどに。だが、その後、主力品種のシュペートブルグンダーがフィロキセラや病害で絶滅の危機に瀕し、地域のワイナリーはこの品種に背を向けるようになる。そこで彼は、耐病性のあるクローンの研究開発に投資し、あるひとつのクローンに至った。小さな果房と果粒が特徴で、深みのあるルビー色のワインを生み出すノイス・クローンは、品質的にも優れていると人気が出て、マサル・セレクションで広まって行った。今でもインゲルハイムの古い畑には、多く残っている。

家族経営だったこのワイナリーの事業を、マインツの起業家クリスチャン・シュミッツ氏(写真左)が引き継いだことで、ワイン造りのアプローチが変わった。ここ10余年で3人の醸造責任者がいたが、5年前にトニ・フランク氏(写真右)が参画して以来、大きく飛躍したと評価されている。一方でノイス家の偉大な歴史と伝統は継承し、ノイス・クローンのニュアンスを精度高く抽出し、セラーにはノイス家の出自であるモーゼルの伝統的な1,000ℓのフーダーが今なお並ぶ。新旧の素晴らしさを表現することに手を尽くしている。

 ラインヘッセン最大のアーチ型セラーは年間を通じて安定した室温。だが、シャルドネを発酵させる部屋は、マロラクティック発酵を促すため暖かくなるよう設定するなど、醸造工程により場所の使い分けを行い、その広さを最大限に活用している。多くの経験からの知見を活かすため、様々な会社の樽を使い、この地域に典型的な1,200ℓシュトゥックから500ℓのフレンチオークのトノーまで揃える。

2021年ヴィンテージのシュペートブルグンダー4アイテム。グリーンでハーシュな味わいにはならないよう、全て除梗しているという。左から、エントリーレベルであるグーツヴァインのムシェルカルクは、貝殻石灰という意の名のとおり、ライムストーン土壌の特徴を反映し、透明なミネラル感あり、細身でチャーミング。オルツヴァインのアルテ・レーベンは樹齢 60 年以上のブドウを使用、小ぶりの果実からの複雑なアロマと石灰土壌からのフリンティさ。樽からのロースト香も相まってレイヤーのある味わい。ホルンGGは、南西向きの夏に最も暑くなる畑で、ダークフルーツにフレッシュハーブ、カカオやエスプレッソのフレーバーが飲み心地のよさを増幅させる。パレスGGは、楽園を意味する名のとおり、ノイスの所有畑の中でも最高の畑で、日較差の大きな場所にある。石がちな石灰質土壌からのフリンティさに、レス土壌からのクリーミーさも。ラズベリーからカシスへと変化していく表現力豊かな果実味に、鮮やかな酸がエレガントさを、シルキーなタンニンが骨格を与える。GGの表示はラベルにはなく、ボトルのエンボスに。

 

シュペートブルグンダーのゆくえ

気候変動対応やサステナビリティの追及でPIWI品種など高性能の植栽が進む一方で、いまなお栽培されている古株の重要性にも目を向けたい。ドイツワインの遺伝的多様性を維持することは、未来に向けて、ある種の競争力を持つアンカーになるかもしれない。

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