カッシェロ・デル・ディアブロを食事とともに楽しむショップが東京・銀座にオープンした。「ディアブロ」は悪魔の意味なので、この店を「悪魔のバル」と呼んでいる。
国別輸入量で第1位になったチリワインだが、専らスーパーやコンビニの店頭を賑わすばかりで料飲店で見かけることはあまりない。チリワインには「安くておいしい」というイメージはあっても、「チリ料理との相性がよい」と思う人はほとんどいない。チリ料理とは何かを知る人がいないし、チリの生産者もチリ料理との組み合わせを考えてワインを造っているようには見えない。そもそもチリ料理にチリワインを合せるという伝統もないように思う。
かつてチリのワイン産地を巡って郷土料理とワインの組み合わせを提案されることはなかった。せいぜいチリモイヤの時季に訪ねると卓上にデザートとしてたくさん並んだことぐらい。ところが近年、コンチャ・イ・トロがワイナリーの中にレストランを開設し、昼時はワインと食事を楽しむ訪問客で賑わっているし、サンティアゴの町中にもチリ料理とワインを楽しめる店が増えてきた。
そして、ようやく日本にもチリワインとチリ料理の店ができた。それも銀座6丁目に。ワインはカッシェロ・デル・ディアブロの全品種がグラス500円(デビルズ・ブリュットは600円)、ボトル3,000円で飲める。料理のメニューを見ると4種類のセビーチェがある。看板メニューは「悪魔の1kg盛り」というローストビーフの大盛りで、これはすこし上品なアサードと思えばよい。しかしチリ料理と呼べるのはそのくらいだ。メニューをじっくり見返したがカスエロもパステル・デ・チョクロもない。それどころか定番のエンパナーダが見当たらない。
主催者はたぶん、ディアブロにチリ定番料理を合せるのは難しいと判断したのではないだろうか。誰も知らないチリ料理を用意して店に閑古鳥が鳴くより、すでに日本人に親しまれている料理とディアブロの組み合わせの方がずっと分かりやすい。その昔、フランスワインがフランス料理と、イタリアワインが地中海料理と一緒に紹介され、それぞれの料理や料理店の広がりとともに二つのワインは日本市場にしっかりと定着してきた。しかし残念ながらチリにはそれがない。南米料理と一括りにして日本に紹介されているものは、ペルー、ブラジル、アルゼンチンの料理である。
それで思い当たることがある。銀座・ロージエの中本聡文シェフ・ソムリエが、チリワインと料理のマリアージュを提案したことを。それは、白ワインに肉料理、赤ワインに魚料理という常識を覆す驚きの組み合わせだった。
「ソーヴィニヨン・ブラン(アコンカグア・コスタ)」と「焼き鳥」。
白身の焼き鳥を塩とワサビで。塩とワインのミネラル同士を、またワサビの緑の香りとワインの洗練された香りを。
「シャルドネ(リマリ)」と「馬刺し」。
タテガミの脂のクリーミーさとマロラクティック発酵で得た香りを合わせる。
「リースリング(ビオビオ)」と「トンカツ」。
トンカツソースではなくレモンと塩で。豚肉の強い香りにワインの豊富なミネラル感を。レモンをギュッと搾る感じで合わせる。
「ピノ・ノワール(レイダ)」と「マグロのにぎり」。
赤ワインと鮨は意外かもしれないが醬油を仲立ちにしてよく合います。
「シラー(アコンカグア・コスタ)」と「カツオのたたき」。
まだ脂ののりすぎないこの時期のカツオ。香りが穏やかで甘味のあるカツオを引き立て、血合いの強い香りを封じ込める力強さがある。
「カベルネ・ソーヴィニヨン2007年(コルチャグア)」と「海苔巻きずし」。
カベルネのカシスや大葉のような青っぽい感じも海苔とは好愛称。
イタリアの地方料理とその土地のワインのようにこれぞ定番といえる組み合わせのないのがチリワイン。それなら悪魔のバルの料理のメニューもチリの定番料理に拘ることはない。もっと自由にワインと料理の相性を探し出すのがチリ流なのかもしれない。それによく考えてみるとイタリアの場合でも、地方料理は残っているが、その土地のワインはすでにかつての味わいではない。使用品種は同じだが国際市場に通用する味わいに変わっている。そうでなければ国際的に受容れて貰えないからだ。(K.B.)
【悪魔のバルDiablo概要】
- 期間 11月30日(水)までの期間限定
- 所在地 東京都中央区銀座6-4-16 花椿ビル tel 03-5537-6556
- 営業時間 17:00~23:00 (LO22:30)定休日なし
- 席数 60席
画像:悪魔の1kg盛りとディアブロ・カベルネ
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