ナパとアルゼンチンの高地の畑でワイン造りを行うヘス・ファミリー・エステーツ

ヘス・ファミリー・エステーツは現在、カリフォルニアに3つ、アルゼンチンに2つ、そして南アフリカに1つと計6ワイナリーを経営している。いずれも新世界に属し、標高が高く比較的冷涼な栽培地でワイン造りを行っているのが大きな特徴だ。

「ヘス家はもともとスイスでビール事業を行っていた家系。エステーツの創業者、ドナルド・ヘスは4代目に当たり、21歳で家業を引き継いだが、チャレンジ精神に富んだ彼はすぐにこれを売却し、新たにミネラルウォーターValserの事業をスタートさせ成功を収めた。ワイン事業への参画は1970年代に入ってから。良い水を求めてカリフォルニアを訪れた彼は水そのものには気に入った出会いに恵まれなかったものの、ヨウントヴィルの小さなレストランでベストワインとしてサーヴされたシャトー・モンテリーナとスタッグスリープ・ワイン・セラーが大いに気に入り、自らワイン造りを進めるべく、滞在日を伸ばして適地を調べることにした」のだと、同エステーツの統括マーケティング責任者兼ワイン・メーキング・ディレクターを務めるニコール・カーター女史は語る。ドナルドがナパを訪れたのは1977年、パリスの審判の翌年のことだった。

この滞在中にドナルドは故ロバート・モンダヴィとも面会し、「ナパにおけるベストの栽培地はどこか?」と問うたところ、(当然ながらトカロン畑を念頭に置く)ロバートは、「ヴァレーフロアが最適さ」と答えたという。しかし、良い葡萄は山の上で造られると信じていた古代ローマ人に倣って、ドナルドはあえて標高2000フィート(600m)の高地に目をつけた。それが現在のAVAマウント・ヴィーダーだ。

1978年に土地を購入し、1981年から植樹を行った。ヘス・コレクションは現在、本拠地マウント・ヴィーダーの他、カリストガの東に位置するポープ・ヴァレーにアローミ・ヴィンヤード82ha、カーネロス北部のスコル・ヴィンヤード62ha、モントレーにも128haの自社畑を所有している。

hesishida輸入元ヴィレッジ・セラーズが行った試飲セミナーで供されたヘス・コレクションのワインは「2013 Allomi Cabernet Sauvignon」と「2011 Mount Veeder Cabernet Sauvigon」の2つ。この日、ワインのコメンテイターを務めた石田博ソムリエは同じナパでも産地を異にする2つのワインの共通点として“レイヤーの複雑さ” と“バランスの良さ” に着目しながら、「(ヴァレーフロアにある)アローミのバランスの良さはアルコール度とのバランスであるのに対して、マウント・ヴィーダーの方は凝縮度に対するバランスであるかと思う。アローミには上品な酸と自然な果実味がもたらすフレッシュ感があり、春から夏に楽しめるワイン。一方、マウント・ヴィーダーには良い意味でのベジェタルで複雑な香味が感じられ、とても冷涼年とは思えないほど凝縮度の高いワイン。秋から冬にかけての食材を使い、ソースを使いしっかりと調理されたディッシュと合わせたい」と評価した。

ニコールの説明によると、二つのワインのスタイルの違いは、土壌の違いというよりもまずは標高の違いに由来している。平均気温にして2~3℃、収穫時期にして3週間ほどの差があるという。「マウント・ヴィーダーでは日照を確保するために除葉を行っているが、日照に恵まれたアローミではむしろ葡萄が陰になるように葉を残している。また、アローミではブレンドや樽の使い方とともに、比較的早く夜間に収穫するように努めているが、傾斜がきついマウント・ヴィーダーでは夜間の収穫は危険なので朝早く手摘みを実践。それを行うために、25~30 年にわたり同じスタッフがチームとして働いている」という。

アルゼンチンのワイナリー、Bodga Coloméもナパと同じような経緯を経て設立された。

すでにたくさんのワイナリーが存在しているメンドーサでのワイン造りを嫌ったドナルドが探し求めたのは世界最高の高度にある最北の地、サルタの畑。同じように、地元のレストランがサーヴしてくれたワインに感動したのが、この地で1800年代からワイン造りを行ってきたコロメだったという。2001年にこのボデガを取得したヘス・ファミリー・エステーツは現在、標高2300~3000m の地に4つの葡萄畑を所有している。

この日、試飲に供された2 種のマルベック100%ワイン。その一つ「2012 Colomé Estate Malbec」は4つの畑の葡萄をブレンドしたワイン。果実味を生かすために古樽で熟成を行っている。もう一つのワイン「2014 Autentico Malbec」は自根で栽培されている樹齢90~100 年樹の葡萄を、昔と同じようにオーク樽を使わないで醸造したワイン。「凝縮度が高くしっかりとした骨組み。野いちごやブルーベリー、ザクロ、スミレの香りとともに土っぽさをたたえた豊かな香り、酸とタンニンのバランスなどこれまでに経験したことがない味わいだ」と、石田ソムリエは評価する。

コロメでは2008年から最も標高が高いアルトゥーマ・マクシマ畑(3000m)でビオディナミを実践してきたが、アルゼンチンに生息するハキ蟻のおかげで2012年まで葡萄を収穫できず、ビオディナミ農法を断念せざるを得なかったという。(M. Yoshino)

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