- 2018-3-6
- Wines, フランス France, ブルゴーニュ Bourgogne
経営コンサルタントを職としていたエドゥアールは、父と共同事業を考え始めた当初はパティスリーを購入しようかと思っていた。しかし、1950年代生まれの父にとって、70年代にとても評価が高まった「ムーランナヴァン」が気になってしかたのない存在だった。ターゲットをワイナリー、それも「ムーランナヴァン」に決めてから、父ジャン=ジャックが詳細を調査し、ついにこの由緒あるシャトーに巡り合った。
ムーランナヴァンができるまで
エドゥアールは、まずムーランナヴァンの歴史について語り始めた。
ここは3世紀からワイン造りを始めた土地だ。ローマ帝国の時代にマルセイユから北海へ向かうのに使った道、いわゆるローマ街道の側にはブドウが植えられた。ローヌ、ボジョレ、ブルゴーニュ、いずれもその例に漏れない。その中で発展した宿場町のひとつルグドゥノムは今のリヨンで、ここからほど近い場所にある。このシャトーの前身であるシャトー・デ・トランは、ロマネシュ・トラン村にあるが、このロマネシュとは、同じく宿場町の「ロマネスカ」に由来する言葉だ。
15世紀に入り大きな変化があった。この村に風車が建てられたことだ。当時は、ブドウだけでなく、アプリコットなど他の果樹も多く栽培されていた。
17世紀には、2つの特筆すべき事柄がある。ルイ14世が住むベルサイユ宮殿まで、ここで造ったワイン「レ・トラン」がロバの背中に乗せられて33日かけて届けられた。そして王に味を認められ、許しを得てその後「ロマネシュ・レ・トラン グラン・クリュ」とラベルに表記することになった。
もうひとつは、このシャトーのセラーが建てられたこと。
シャトー・デ・トランでワインが造られていたという事実が文書で初めて言及されたのは1732年のことだ。
そして、村の名前とその村で最も優れた畑の名前を合体させることが流行っていて、その流れでムーランナヴァンも「ロマネシュ・トラン」と呼ばれることが許されたのが1872年のことだった。
AOCが初めて認可されたのは1936年で、ムーランナヴァンもいち早く認められた地のひとつだ。通常、ジュヴレ村のシャンベルタンだからジュヴレ・シャンベルタンという名称で呼ばれるようになり、それがAOC名に引き継がれるのが多勢だ。しかしここの場合は、風車が有名なので通称「ムーランナヴァン」となり、それがAOC名になったという点でとても珍しいケースだ。この名称でカバーしている範囲は、ロマネシュ・トラン村とシェナの南の一部分で、シェナの残りはシェナAOCに入っている。ムーランナヴァン650haには69のリュー・ディがある。
シャトー・デュ・ムーランナヴァンの畑
シャトー・デュ・ムーランナヴァンの自社畑は合計37haあり、20区画にわかれている。2009年にジャン=ジャック・パリネがここを購入するまでは、ムーランナヴァンとスペシャル・キュヴェの2銘柄だけだったが、新体制になってからヴィンテージによって単一畑キュヴェを含めて以下のような6銘柄を造っている(まだ実験段階のキュヴェもあるため、将来はもしかしたら数が増えるかもしれない)。
若くして楽しめるタイプ:Couvent des Thorins
複数の畑のブレンド:Monlin-à-Vent
単一畑キュヴェ:Croix des Vérillats, Champ de Cour, La Rochelle, Clos de Londres
ムーランナヴァンの特質
ムーランナヴァンは、長期熟成能力のあるクリュ・デュ・ボジョレとして知られている。ブラインド試飲すると、この地区のいくつかはブドウ品種をガメイと判別できずピノ・ノワールと間違えることもある。この地の何が作用しているのだろうか。
エドゥアールは、まず「強風」を挙げた。確かに、風車=ムーランナヴァンが建てられた理由のひとつでもある。
ムーランナヴァンは風通しがよく、特に8月末から9月の収穫時期に強風が吹くため、ブドウを乾燥させ凝縮させる。
また、1990年までロマネシュ・トラン村でマンガンを採掘していたという。ステンレスを製造するもととなるマンガンの鉱脈の中心が、ロマネシュ・トランにある。その周囲には、マンガンと結びつきやすい酸化鉄を多く含む赤土土壌が見られる。これがブドウに大きなストレスを与えているようだ。その上、基本的に母岩である花崗岩は水はけがよい。ふたつのストレスがかかるため、この地のガメイは他の場所よりも収穫量が低いのではないか、と考えている。「証明はできていないが、エルミタージュでも酸化鉄を多く含む土壌では収穫量が低いと聞いている」。
シャトー・デュ・ムーランナヴァンの畑のうち、クロ・ドゥ・ロンドルともう一ケ所で特に赤土が多いようだ。
昨年、ムーランナヴァンのワインを造る50の生産者が「グランド・ムーランナヴァン」というグループを結成した。ボジョレ、あるいはクリュ・ド・ボジョレという名前ではなく「ムーランナヴァン」の名で、その個性や特徴をアピールしていきたいと考えたからだ。日本でも試飲会を開いてくれないだろうか。
また、シャトー・ド・ムーランナヴァンは、プイィ・フュイッセにも畑を購入したそうだ。もうすぐ1級格付けが正式に認定される動きのある地域でもある。白ワインの出来も楽しみだ。
Monlin-à-Vent “Couvent des Thorins” 2015 <Château du Monlin-à-Vent>
2015年はボジョレのワインがローヌのように凝縮した年。スパイシーで赤い果実の風味が充実。ジューシーで且つ凝縮感がある。今でも美味しく飲める。
Monlin-à-Vent 2014 <Château du Monlin-à-Vent>
「2014年は、9月ではなく4月と5月にフレッシュな風が吹き、ヴェリヤとラ・ロシェルの成熟が遅かった。酸とタンニンのバランスがよく、20〜25年ゆうに置いておける」。ほんのりとバニラやロースト香も感じられ、酸もタンニンもバランス良いがとても若い状態にある。
Monlin-à-Vent “Croix des Vérillats” 2014 <Château du Monlin-à-Vent>
エドゥアールがプルミエクリュ・スタイルと呼ぶワイン。ピュアな花崗岩土壌で標高300mの東向きの畑。スパイスとフレッシュな果実の優しい香り。なめらかなアタックで厚みがあり、全体にソフトな印象。バランスに優れている。
Monlin-à-Vent “Champ de Cour” 2014 <Château du Monlin-à-Vent>
エドゥアールがプルミエクリュ・スタイルと呼ぶワイン。ピュアな花崗岩土壌に粘土も見られる。標高220mの畑で風は弱い。「例年は収穫が遅く開くのも遅いが、この年はよく成熟した」。スパイスと、より熟した果実の香りが豊かで、ぐっと厚みが増すが、タンニンも豊かでしっかりとしたストラクチャー。
Monlin-à-Vent “La Rochelle” 2014 <Château du Monlin-à-Vent>
エドゥアールがグランクリュ・スタイルと呼ぶワイン。ヴェリヤに近い南向きの280mの畑で、シリカ混じりの土壌。樹齢80年。とても若々しい香りで、スパイス、エネルギーのあるフレッシュな赤い果実が香る。味わいもまだかたい。きめ細やかで上品で、タイト。まだしばらく置いておきたい。
Monlin-à-Vent “Clos de Londres” 2011 <Château du Monlin-à-Vent>
シャトーの横にある壁で囲まれた0.56haの区画。マンガンと酸化鉄が豊かな花崗岩土壌。ここでは、トライアルとして畑の3分の1ずつを通常の栽培、有機栽培、バイオダイナミクスとわけている。丁子などのスパイスの香りが豊かで、開き始めている。厚みがあり、ゆったりとした味わい。上品さと力強さを併せ持ちタンニンも細やかになってきている。(Y. Nagoshi)
ウォンズ本誌2017年9月号の「クリュ・デュ・ボジョレ特集」で、訪問記事も掲載しています。WANDSのご購入・ご購読はこちらから デジタル版も合わせてどうぞ!
最近のコメント