オーストリアワイン 江戸前鮨と会席料理

今秋、『オーストリアワイン、江戸前鮓と会席料理』が発行された。筆者は東京・東銀座駅を出てすぐにある「銀座 壮石」のオーナー兼ソムリエの岡田壮右氏だ。オーストリアワインに魅せられた岡田氏が大正10年から続く「銀座 壮石」の江戸前鮨と懐石料理の深い知識や経験とともに書き上げた一冊の中から、数皿のマリアージュを実際に味わうイベントが行われた。

料理とワイン、同調と補完の組み合わせ

フーベルト・ハイッス 駐日オーストリア大使が駆けつけ、来日中のオーストリアワインマーケティング協会会長ヴィリー・クリンガー氏が「来年オーストリアと日本は国交樹立から150年になる。このタイミングでオーストリアワインと、世界遺産にも認定されている和食のマリアージュの本が出版されることを大変喜ばしく思う」という挨拶に続き、岡田氏がなぜオーストリアワインに魅せられたのかという話が披露された。「2010年に独立して壮石を開店させた当初からワインを提供しようと思っていた。ワイン産地の中でもオーストリアワインには、単に店の料理に合うからだけではなく、自分自身の環境と共感する部分が多かった。①テロワールや地場品種を大切にすること。②味わいをけずらず自然なつくりの人が多いこと。③家族経営で品質を大事にしているワイナリーが多いこと。壮石は祖父の代から始まった家族経営のお店で、鮨や懐石料理は食材やうま味を大切にしている。オーストリアのワインとは感動する組み合わせが多くあるので、ぜひ本日は食して相性の良さを実感していただければと思う」。

まず供されたのは北海道・根室産の生筋子を自家製の出汁醤油に漬けたものだ。大変希少で秋にしか食することができないらしい。膜が薄くて甘みのあるイクラに合わせるワインは「Reiterer Rosé Schilcherfrizzante」。クリンガー氏が「今話題の産地」と言うシャルヒャーで造られるロゼの泡だ。以前はヴェストシュタイヤーマルクDACだったが、2018年からシュルヒャーラントDACに名称変更された。規定としてはブラウアー・ヴィルトバッハーという品種を早めに収穫して強烈な酸を持つロゼワインに仕上げるスティルとスパークリングがある。ちなみにブラウアー・ヴィルトバッハーは果皮の厚い黒ブドウ品種で、世界一酸味が高いと言われている。低温浸漬後にセニエ法で造られたこのワインは、はっきりとしたサワーチェリーや清涼感あるハーブの香りを持ち、非常に溌剌としていた。出汁醤油の染み込んだ生筋子の甘みやうま味がワインの酸によってさらに引き立つ組み合わせだった。

続いて毛蟹の甲羅揚げに合わせて「Nikolaihof Riesling 2011」、ヴァッハウで造られているフェダーシュピールが選ばれた。フェダーシュピールとはヴァッハウ地方の生産者団体による独自規定の一種で、アルコール度数11.5〜12.5%、豊かな果実味でクラシックな辛口ワインと定義づけられている。料理は60年前に岡田氏の叔母にあたる料理長の青木信子さんが考案した看板メニュー、蒸しあげた毛蟹の身と卵を合わせて甲羅に詰めてふっくらと揚げた一品だ。少しお酢の入った出汁につけて食すので、ふわふわの食感からじんわり出汁が染み出てくる。ワインにはカリンや、瓶熟成によって発展したジンジャーや蜂蜜のニュアンスがあり伸びる酸味やミネラル感がその出汁の味わいのストラクチャーとぴったりと寄り添っていた。(Rie Matsuki)

 

つづきはWANDS 2018年11月号をご覧ください。
11月号は「シャンパーニュ&スパークリングワイン」特集です。
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