ブルゴーニュの鍾乳洞カーヴやブルターニュの海風に育まれる フランス産ウイスキーの可能性

フランス各地でウイスキーの生産が活性化している様子は、これまでの号でも紹介してきた。フランスではワイン造りと同様に、小規模ながらもその土地の特異性を活かし、職人的製法でこだわりのウイスキーを手掛ける生産者が主流だ。また数年前からは、今号で紹介するブルターニュや396号で紹介したアルザスのように、今後生産者が増えることを見越し、欧州共同体の規約における地理的表示の認証を得る動きもある。今回はフランス産ウイスキーの幅広い可能性のカギを握るブルターニュの2軒の生産者と、フランスのウイスキー史には欠かせないブルゴーニュの熟成スペシャリストを紹介する。

 

ブルターニュ産ウイスキーの地理的表示(IGP)

フランス北西部の突きだした半島にあるブルターニュ地方は、北はラ・マンシュ(イギリス)海峡、西は大西洋、ケルト海と、海に囲まれている。牡蠣やオマール海老をはじめ、魚介類が豊富であるほか、塩田もあり、海の恵みを存分に受けている地方だ。そして穀物の生産も盛んで、ビール醸造を手掛けるブラッスリーは約120社ある。またノルマンディー地方と並ぶリンゴの2大産地で、リンゴの蒸留酒であるフィーヌ・ド・ブルターニュも伝統的に造られている。

このようにビール醸造と蒸留酒の伝統は、それぞれ個別に存在していたが、二つを同時に行うウイスキー造りがスタートしたのは、35年ほど前からだ。1983年に次ページで紹介するヴァレンゲム蒸留所が、ブルターニュで蒸留して熟成したウイスキーをリリースしたのが、先駆けと言われている。1999年以降、徐々に生産者は増え、現在ブルターニュ・ウイスキー協会に属する生産者は6軒になった。

1989年に欧州共同体におけるウイスキーの定義ができ、そして2008年には「スコッチ」や「アイリッシュ」などとともに、ブルターニュ産の「ウイスキー・ブルトン」やアルザス産の「ウイスキー・アルザシアン」の地理的表示(IG)が加えられた。その後、EU規約の改訂に伴って、IGにとどまるためにはフランス国内における地理的表示(IGP)の認証も必要となり、規定を形式化することが求められた。そして数年かけてその規定が練られ、2015年にIGPが認められるに至ったのだ。

ウイスキー・ブルトンの規定は、EU規約より厳しいものの、かなり開放的な内容となっている。まず地理的エリアは、ブルターニュ地方のコート・ダルモール県、フィニステール県、イル・エ・ヴィレーヌ県、モルヴィアン県とロワール地方のナント市を含むロワール・アトランティック県の一部も含まれている。そして基本理念として、麦汁の仕込みから、発酵、蒸留、熟成と、すべての工程をそのエリア内で行うこと、同エリア内の水を使用することを筆頭に挙げている。

素材の穀物は多彩で、大麦、小麦、トウモロコシのほか、ライ麦やそば粉などの8種類。これはシングルモルトに限定したアルザスと大きく異なる点といえる。そして穀物の破砕も、蒸留所で行うこととしている。蒸留器も様々なタイプが認められている。単式蒸留器、連続式蒸留器、カフェ式連続式蒸留器などで、容量が6000リットル以下のものが使用可能だ。蒸留液のアルコール定量は、純アルコールの80~90%と、アルザスに比べてやや高めである。熟成は他と同様で、オーク樽のみを使用し、期間は3年以上。

加水は任意による。またカラメル色素による色付けは、2%までは許可されている。色合いを得るのが難しい「ブレンド」が主流だからだ。ブルターニュのウイスキーは、以前から大型小売店で販売されており、スーパーなどの陳列販売で難点となってしまう色の薄いウイスキーを避けるためとしている。そしてこれは最低ラインの規約にすぎないため、逆にこだわりを追求するのであれば、自主的に制限する生産者も存在する。実際、専門店や輸出用など高級路線のウイスキーには、ノンフィルターでカラメル色素を使用しないケースも多々ある。

最後にラベル表示に関しては、「Whisky Bretonウイスキー・ブルトン」もしくは「Whisky de Bretagneウイスキー・ド・ブルターニュ」との記載が可能だ。そして単一の蒸留所で造られた、麦芽化された大麦のみを使用し、2回蒸留を行った場合は、「ウイスキー・ブルトン」と併記する形で「シングルモルト」の表示も可能となる。

このように開放的な内容となった理由は二つある。まず一つ目は、こうした規定のできる以前からウイスキー造りを手掛ける生産者が、今後も継続して、多様なウイスキーを造ることを可能にするため。そして二つ目は、将来的にますます生産者数が増えるように、またイノヴェーションの可能性も広がるようにと考えるからだ。専門店で40€を超える高級路線だけでなく、スーパーで10€台で購入可能なリーズナブルタイプにとっても、チャンスを広げている。幅広いニーズに応えられるのがウイスキー・ブルトンの魅力と言えるだろう。(T.Inoue)

 

つづきはWANDS2019年1月号をご覧ください。

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